第四話 雨のち晴れ時々雹
雨はいい。全てを洗い流す冷たい礫。草花に落ちる、宝石の如き露。湿った匂い。水溜りが奏でる、大小高低様々な滴音。ふつくしい……いや、美しい!インスタ映え待ったなしよこれは!清少納言も「雨など降るもをかし」って言ってるじゃないか。まぁ、雨に濡れるのは嫌なんだけどな!
そんなわけで、桜音学園があるこの小さな港町にも例外なく梅雨がやって来るのだ。名前の由来というだけあって、春にはそこら中に桜が咲き乱れる。そこでJKたちは「マジインスタ映え〜」とかなんとか言って写真を撮りまくっているようだ。その時期には割と観光客も多く、春の訪れを感じている。が、六月に入った今、ピンクに色づかせていた大木共は新緑に染まり、雨に濡れていた。これはこれで風情があるのだが、何故誰もいない?おまんらの目は節穴か!仕方ねぇ、皆の分まで俺がカメラに収めとくわ。
学校帰り。俺はそこから少し離れた近所の神社に来ていた。名前は確か
境内には誰もいなかった。まぁこの雨だから納得。いつものように感謝を伝え、帰ろうとする。と、おみくじが目に留まった。
「最近何かとあったし、今後の事もあるからなぁ。モノの試しに引いてみるか」
ソイヤッ!
「えーっと何々……大凶……?マジか!確かここの大凶って確率相当低かったはずだから寧ろラッキー♪内容は……ふむふむ、まぁ気休め程度にはなるだろ」
俺は占いの類を全く信じない。おみくじなんて滅多に引かないのだが、何故かこの時紙に書かれた内容は、頭から離れなかった。
-女難の相アリ-
**
翌日。今日は休日のため、朝から近くの海岸線沿いを散歩しに来た。昨日の雨が一転、空には青空が広がっていた。本日は晴天なり!六月最初の週末。恐らく貴重な休みの日の晴れ。風景撮りに行かない手はない。デジカメを片手砂浜をぷらぷら。長閑な景色。ゆったりとした
「ねぇ」
何だよ、人が感慨に耽っているんだから邪魔するな。
「ねぇ!」
「あーのー、聞こえてますかー?」
うっさ。
「ふーん、そうくるんだぁー。そっちがその気なら……えいっ!」
突然、目の前が真っ暗になる。
「だーれだ?」
うーわっ、めんど!
「誰でもいいからさっさとその手を退けろ」
「むーっ、冷めてんねー。つまんないのっ」
視界が開ける。
「ねっ、何してるの?」
声の主は目隠しを止めると、俺の前に回り込んできた。俺は相手を確認する。見慣れない顔。
「……誰?」
いや本当にだれー!?!?
**
「ひどいなぁー心外だよぉー!本当に分からない?私だよわたし、同じクラスの
「……あー学級委員だっけか」
言われてなにやらクラスで仕切っていた姿を思い出す。
「うん、まぁそれもそうだけど。一応生徒会副会長ね、一条色葉くん!」
「何かの冗談だろ?」
「本当だってば!というか、しっかり話したのってこれが初めてだよね?思ったよりズケズケくるよね」
「目隠しのどこが初対面のヤツにやる行為だよ。流石に俺の名前、知ってるんだな」
「役職上ね。でも噂通りってわけじゃないんだね」
「噂?」
「そうそう、例の件。部活動紹介で叫んでたでしょ」
「……なんだ、お前もそっち側の人間か」
「違う違うって。あなたを探してたんだ。お礼を言いたくってさ。よくここを歩いてるっていうから見てたの」
「礼?ってかその目撃情報をリークしたヤツを教えろ」
「それはちょーっと言えないかな。それでこの間の件、私、司会進行役だったの。でもあの騒ぎを鎮める事が出来なかった。もうパニックになっちゃってさ。取り返しのつかない事態になっちゃった、どうしようって。そんな時、あなたの声が聞こえた。凄かったなぁ、一瞬にして場を制圧しちゃうんだもん。それで、私は救われた。ありがとう、助けてくれて」
「俺は別に、助けたつもりはない。お前が勝手に助かっただけだろ。それで礼を言うのは筋違いだ」
「ううん、違うよ。確かに、キミにはそのつもりがなかったのかもしれない。でも私は、キミの言葉に救われた。だからやっぱり、ありがとう」
溢れんばかりの眩しい笑顔。その表情は、思わずシャッターを切りたくなるほど美しかった。
「そうかい。じゃあもう用件は済んだって事だ。さ、帰った帰った」
「むっ、なにかなその余所余所しい言い方は!まだ私の質問に答えてもらってないじゃない。それと、私の名前は『おまえ』じゃなくて『あざか』ね」
「質問?……あぁ。見ての通りだが?」
「見て分からないから質問してるの!」
「ぼーっとしてるのさ。この辺を散歩して、惹かれるものがあればシャッターを切る。気のまにまに珍道中ってな」
「へぇー、いいなぁー。ね、どんなもの撮ったの?見せて見せて!」
「おい、やめろバカっ!あっ、カメラに触るなー!」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。それとも何か見られたくないエッチな写真とかあるのかなぁー?」
「ンなもんねぇーよ!いいから返せ!」
「返してほしくばここまでおいでー!」
「このっ……!」
この時胸の中に感じた温もりを、俺は決して認めなかった。
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