第一章 Starting Over
第一話 the under tale
出会いは然程悪くない。情けなくって恥ずかしくて。狂おしいほど愛おしくて暖かな繋がり。けれど、運命の赤い糸はすぐに切れてしまうほど細く、か弱いことを彼らは知っていて。だから精一杯背伸びをして続けるシーソーゲーム。過ちを積み重る度、
-次はもっと上手く-
無理して前に進もうとする。けれど失敗から学んだのは成長ではなくて、自身の愚かさだけだった。正解のない答案用紙に負かされるのはこれで何度目だっけ?作り物の笑顔でさよならして、これでいいんだって嘘をつく。
そんな、始まる時には終わっている物語を綴ろうと思うのです。
**
「あっ」
「……?」
見たくないものでもついつい見てしまう事ってあると思う。例えば突然目の前に現れた美少女とか、例えばやたらしつこいビラ配りのお姉さんとか、例えばその掛け算とか。
**
「はぁ〜、えぇっとね、七崎さん」
職員室のとある一角。初春を迎えたというのに未だ寒さが残る。職員室も外気に対応して暖房絶賛稼働中……なのはいいけれど、流石に温暖すぎよね?公立なんだから寧ろ懐を暖めてほしいものだわ。
春休みも後半戦に突入した頃、荒んだ空気の充満する職員室の一角、
「はい、何でしょう先生」
「いや、確かにね、書類も完璧だし理念も立派よ。活動内容も申し分ない」
「はい」
「……部の創設条件は?」
「諸々の必要書類提出。桜音学園に相応しい活動理念を掲げ、それに見合った活動を行う事。部員となる生徒が最低三名いる事です」
「宜しい。では現段階での部員数は?」
「私一人です」
「あと二人、期日までに集められる?」
「問題ありません」
「そう……」
そのセリフに一抹の不安を覚えたのは、果たして気のせいだろうか?
「
話を終え、静寂に包まれる職員室。去っていく彼女のすらりと伸びた後ろ姿が、普段より小さく見えた。
**
「失礼しました」
一礼して職員室を後にする。覚悟は出来た。大丈夫。やれる事を精一杯やるだけ。
自身に言い聞かせ、少女は荒野を進む。
**
認めよう。その日は音楽に夢中で周りが見えていなかった。
だって仕方ないだろ、ライブが近いんですよー。はぁー楽しみ♡早く来週末にならんものかね。にしても明○のいちごオ・レうめぇー!これがなきゃ死んでるわ!
とまぁそんなんで、学校に着いたことすら意識外なんだからさ。急に人の手が出てきたらそりゃあ誰だって驚くでしょう。まーたいつものビラ配りねと、テキトーに無視を決め込む。が、視界の端に捉えた、伸びた手の袖口に微かな違和感を覚える。うちの高校の制服……?
徐々に顔を上げ、相手を確認する。
……我ながら間抜け声を上げてしまった。最悪だ。彼女の頭には?マークが浮かびまくっていることだろう。恥ずかしい!
「もしかしてこの部に興味あるのかしら?」
変な妄想をしていたら少女の方が声をかけてきた。この部とは?改めてビラを見る。するとそこには「アクティ部!」の文字が。あ、あくてぃぶ?なんつーネーミングセンスだ。もしかしてこれのことを言ってるのか?部活動の新設でもするつもりなのか?幾つか疑問が湧き、再び彼女の顔を見やる。あれ、なんかどこかで見たような感じ……ん?あーそういや去年新聞部の奴らがこぞって特集組んでたっけな。
七崎白羽は何故か少し苛立ち気に俺の返事を待っていた。
「ぶ……」
「もういいわ。さようなら」
口を開きかけた瞬間、俺の疑問は彼女の言葉に遮られる。
えぇーナニソレ聞いてないんですけどー。まさかのタイムオーバー。そうか、遅かったのか。うーん、女の子って分からんなぁ。まぁ、気になるところはあったが別にどうでもいいことだ。我関せず。
俺は歩き始める。あぁ、部活動名に関してだけは何か言った方がよかっただろうか?
**
そう、我が校、
閑話休題。
十日はあっという間に流れ、最終日。部活動紹介が始まった。新入生はこの後すぐに入部届を書くため、ここでのアピールが部員獲得に大きく影響する。そのため各部が力を入れているのがよく分かる。トップバッターを務める陸上部をはじめ、野球、サッカーなど運動部系はそれぞれ得意のパフォーマンス。あちこちで歓声も上がり、人気の高さが窺える。文化部で言えば、やはり吹奏楽部と美術部は強豪と言われるだけあって流石の出来だった。各々が存分に持ち味を魅せる中、最後にステージに上がったのは七崎だった。会場が少しどよめく。
「こんにちは。私は桜音学園二年の七崎白羽です。今日は大事なお知らせがあってステージに上がらせてもらいました。皆さまの貴重なお時間をいたたぐことをお許し下さい。私はこの度、新しい部を創設する事にしました。名前は、活動的を意味するアクティブのカタカナ表記に加え、最後のブを部活動の『部』の字に置き換えた『アクティ部』です。活動理念は、桜音学園の生徒として、学校・社会・地域の人々の模範となる活動を行い、学園と地域社会を繋ぐ事です。活動内容はお助け業務にはじまりボランティア活動、地域の行事への参加、清掃活動など多岐に渡ります。根気が必要ですのでやる気と節度、誠実な部員を募集します。私の話は以上です。ご清聴ありがとうございました」
室内は一転、静まり返る。と、すぐに一人がぼやく。すると方々から口々に呟れる批判の嵐。
え?急に出てきていきなり宣伝とか何?意味わかんない。やる事多すぎっしょwwてか節度とか誠実とか何様って感じ。『アクティ部』ってそれダサすぎw。お助け業務って適当じゃね?
「静かに!みんな静かにして下さい!」
司会の声が響くが、その勢いは収まる気配がない。当の本人は俯いてしまっていて、長くしなやかな黒髪の隙間からは、その表情を窺う事が出来なかった。
静かにしろ!!落ち着け!!
あちこちで教員が声を張り上げるも生徒たちの興奮は中々鎮まらない。
「……るせぇな」
そんな中、静かに、しかしはっきり伝わる声。
「うるせぇー!!!!!」
誰よりも大きなその声は、この空間全ての音を吸収した。この時の俺は、自分自身に驚いていた。あの時、何故か口に出ていた言葉。
「たった今、ちょっと概要聞いた程度のお前らに何が分かるんだよ!彼女は期間中毎日ビラ配りしてただろうが!それを見てみぬフリして無視して。まるで今初めて知った、みたいなそういうの胸糞悪いんだよ!七崎の左手、小指らへん。多色の汚れがある。左利きの彼女は横書きに文字を書く際に小指側が用紙につく。大して見ようとも分かろうともしないお前らが彼女の努力を侮辱するんじゃねー!!!!」
この叫びを皮切りに、教員たちが割って入る。会場は徐々に落ち着きを取り戻す。が、この騒ぎだ。当然、イベントは中止になった。こうなった以上、やるべき事は一つだ。俺はある人の所へ向かった。
……にしても、らしくねーなぁ、俺。
-部の新設期日まで、あと2日-
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