第2話 勇者、無責任な大賢者に怒る!?02

「あの……召喚された理由はわかりました。じゃあ、僕たちが帰るにはどうしたらいいのですか??」


 正義は一番知りたいことを尋ねた。すると、ビンスは慌ててガンバルフを見る。つられて、みんなも一斉にガンバルフを見た。


「ウム……勇者たちよ……そなたたちが帰る方法は……」


 ガンバルフは思わせぶりに目を閉じる。全員、息をんでガンバルフの言葉を待った。


「…………知らん!!!!」


 長い沈黙のあと、ガンバルフは目をカッと大きく見開き、自信に満ちあふれた表情で言い切った。


 次の瞬間。


 ガンバルフの正面に座っていた茜が机を飛び越えてガンバルフに掴みかかる。


「ふざけてんじゃねーぞ!!」


 茜は両手でガンバルフの胸ぐらをつかみ、締め上げた。


「グ、グルジイ……ダ、ダズゲデ……」


 ガンバルフの顔色が苦悶で赤から青へと変化する。


「「おい、茜!! やめろ!!」」


 正義と勇人が慌てて止めに入った。茜の剣幕に気圧けおされた正義は敬にも声をかける。


「敬!! お前も見てないで手伝え!!」

「任せたまへ!!」


 敬は茜の腰にすがりりついた。


 普通、男が三人がかりで女性につかみかかったら犯罪だ。しかし、この場合は仕方がない。放っておくとガンバルフは昇天し、茜が犯罪者になってしまう。正義たちはやっとの思いで茜をガンバルフから引き離した。


「……本当に帰る方法を知らないんですか??」


 いきどおる茜を押さえながら正義が尋ねる。


「ゲホゲホ……し、知らん……す、全ては時の女神フィリスのおぼし……」


 ガンバルフは咳きこみながら答えた。


「だから、何を無責任なこと言ってんだテメー!! だったら、そのフィリスって女を連れて来い!!!!」


 再び怒りが頂点に達した茜は、正義たちを振り切ってガンバルフに迫ろうとする。ドンッ!! という音がして茜の腰にすがりついていた敬が後方へ吹っ飛んだ。蹴り飛ばされた敬を見て、正義と勇人は茜を押さえる手に力をこめる。


 しかし……。


 『帰る方法を知らない』というガンバルフの言葉は、みんなの心をしたたかに打ちのめした。正義が周囲を見回すと、沙希と京子が佳織に寄り添っていた。よく見るとうつむく佳織の肩が小刻みに震えている。佳織は泣いていた。しゃくり上げる佳織の姿が一層いっそう、小さく見える。


「とりあえず……警察に連絡っていう訳にもいかないし、今日は休んで、明日、聖堂とかを見てこようよ。何か帰る手がかりがあるかもしれないだろ??」


 ガンバルフが『帰る方法を知らない』と言っているのに、聖堂に手がかりがあるとは考えにくい。それでも、正義はみんなを励ますためにそう言った。


「……そうだね」


 佳織を慰めていた沙希がこちらを向いてうなずく。沙希は正義のそばまで来ると両手で茜の右手を握った。


「茜が怒るのも無理はないけど、今は落ち着こうよ」


 沙希の口調は優しいが、どこか有無を言わせない雰囲気だった。


「……わかったよ……沙希」


 正義と勇人は茜の身体から力が抜けるのを感じて手を放した。


「……敬、ごめんな」


 茜は蹴り飛ばした敬に謝って静かに席へと戻る。普段から勝気な茜の滅入めいる姿は、みんなを暗澹あんたんたる気持ちにさせた。自然とその場は沈黙が支配する。


──ゆ、勇者さまは深刻な顔をなさっておいでだ……


 酷く落ちこむ正義たち『勇者』を見てビンスは不安気な顔つきになった。困惑の眼差しでガンバルフの顔を覗きこむ。


「ガ、ガンバルフ先生。もしかして、とんでもないことをしてしまったんじゃ……」

「知らん!! 今さら遅い!!」


 茜に首を絞められた怒りが冷めやらないのか、ガンバルフはにべもない。


「あ、あの……お話しはまた明日ということで……。勇者さまもお疲れのことと存じます。今日は温泉にでもかって、ごゆるりとなさって下さい」


 ビンスはその場を取り繕うように言うとガンバルフを連れて部屋を出て行った。

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