第8話:不正プレイヤー

「これは……。ゴミデータが原因と考えるのは早計かもしれませんね。もっと上位の階層にアクセスしたほうが良さそうです……。えっと、左足に力を入れてっと」


 山道・聡やまみち・さとるは左足にじわじわと力を入れる。それと同時に左手の指も動かす。すると、山道・聡やまみち・さとるは宙を浮かびあがり、地面から30メートルほど離れた地点にまで昇る。これももちろん、GM権限のひとつだ。ノブレスオブリージュ・オンラインの世界を俯瞰して全体を見渡すための機能である。


「う~ん。微調整が難しいですね……。いつもならPCのディスプレイとキーボード、それとマウスでやっていることです。さらには実際にゲーム内にログインしてやるのは稀ですし……。まあ、文句を言っても仕方ありません。さってと……」


 山道・聡やまみち・さとるは街の全体図から、そこがフランス陣営に所属するプレイヤーたちが根城とするフランス陣営の仮の首都:ブルージュであることに気づく。フランス領土にはいくつかの大きな街があるが、イングランド陣営との最前線ということもあり、ここブルージュにプレイヤーが殺到している状況なのだ。


 しかしながら、あくまでも根城であり、新規ダンジョンやバトルゾーンが追加されれば、その近くにある大きな街にプレイヤーは民族大移動が如くに活動場所を変えることはある。しかし、ダンジョンやバトルゾーンも旬が過ぎれば、結局のところ、元の根城に帰ってくるのが世の常とも言えた。


 山道・聡やまみち・さとるは空中からつぶさにブルージュの街中を観察する。それをした理由はどこにデータのよどみが発生しているのかを調べるためだ。


「うーーーん。メモリーがパンクしそうな原因と言えば、ゴミデータなんでしょうけど……。その一番の原因となりそうな『バザー』や『銀行バンク』まわりにそういった反応がない以上、そうではないですし……」


 山道・聡やまみち・さとるは首をひねることとなる。サーバー負荷の原因は主に3つある。アクセス集中、ゴミデータの処理失敗。そして、不正ツールによる異常数値の発生が起き、それをサーバー側が拒否反応を示すことだ。


 この3つの要因から導きだせることは明確であった。


「ちっ……。大陸系のプレイヤーが日本国外部からアクセスして、さらには不正ツールを使っている可能性が高いってことですね。臨時メンテが終了したばかりだというのに、メモリリークが起きそうになるなんて、これ以外、考えられませんよっ!」


 山道・聡やまみち・さとるはつい口汚く舌打ちをしてしまう。不正ツールはサーバー側への負担が非常に大きい。わざと偽のデーターを大量にサーバー側に送り、サーバーのメモリーに大きな負荷を与え、それで自分たちが不正をしていることをごまかす方法をとっているからだ。


 山道・聡やまみち・さとるはさらに上位のシステムにアクセスすることを決める。左足と左手に力を入れて、上層へと昇っていく。山道・聡やまみち・さとるの身体はぐんぐんと大空高く上がっていき、ついには上空1000メートルの地点まで昇り詰めることになる。


「なるほど、なるほど……。旧ダンジョン群で、ドロップアイテム目当てに放置マクロを使っているわけですか……。そりゃそうですよね。比較的に新しいダンジョンでそれをやれば、こちら側も馬鹿ではありませんから、すぐに異常に気付きますし。多数の小グループに分かれて、荒稼ぎをしているわけですか……」


 放置マクロとはパソコンやゲーム機の前にいなくても、とあるソフトウェアを用い、自動でキャラクターを操作させて、プレイヤーが何もしなくても勝手にアイテムなどをかき集めてくれるシステムを指して言われる言葉だ。


 ノブレスオブリージュ・オンラインへ割り当てられる予算が減らされるということは、同時にそこで働く人員も減らされることとなる。予算がたっぷり割り当てられていた前々任のGMナベシマの時代では、その放置マクロを使用するプレイヤーたちをバイトが逐一取り締まっていたのだ。


 しかしながら、前任のGMウエスギの時代には、バイトを雇う金も無く、さらに山道・聡やまみち・さとるがGMになった時は、ユーザーサポートの人員も半分へと減らさなければならないといった状況にまで陥る。


 ぶっちゃけ、不正ツールを使用するプレイヤーたちを取り締まることに関して、物理的に割ける人員がいない状態になってしまっていたのだ、ノブレスオブリージュ・オンラインの運営陣には。よって、細々ながらも不正ツールを使用している悪徳プレイヤーたちは徐々に勢力を増していき、ついにはノブレスオブリージュ・オンラインのサーバーをダウンさせる原因になるほどまでに成長したのだろうと、山道・聡やまみち・さとるは結論づけるのであった。


「よおおおし! 大掃除としゃれこみますかっ! 見える、僕にも見えるぞおおお!!」


 山道・聡やまみち・さとるは『D.L.P.N』システムに繋がったことにより、不正ツールを使用するプレイヤーがどこの誰なのかはっきりと、手に取るようにわかる。プレイヤー名だけではなく、接続IPから、どこの国から接続しているのかもわかる。もちろん、不正プレイヤーたちは、いわゆる『串』と言われるシステムを利用して、所在不明にしているのだが、それでも山道・聡やまみち・さとるはその『串』を突破し、そのプレイヤーの個人情報すらも掌握する。


「はーははっ! 『D.L.P.N』システムは素晴らしいですねえ! こんなに楽々と不正プレイヤーを洗い出せるのならば、このシステムを政府に勧めたいくらいですよっ!!」


 山道・聡やまみち・さとるは昂揚していたといっても過言ではなかった。次々と脳内に流れ込んでくる個人情報から、ついにはその本人のネット上での犯罪歴までをも洗い出すことに成功したのである。


「こいつは小悪党ですねぇ! どうやらRMT(リアルマネートレード)の使いっぱしりをしているようですね。しかし、本家本元はどこに潜んでいるのでしょうか? あっ、こいつですかっ!」


 山道・聡やまみち・さとるは不正プレイヤーの個人情報をデータベースに保存しつつ、そいつのキャラを消去し、さらにはアカウントを永久凍結していく。さらには、おおもとの同一IPから接続できないように徹底的なブロック処理をおこなう。


「あはーーーん! まるで1週間続いた便秘が解消された気分ですよぉ!」

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