第2話:川崎・利家
ノブレスオブリージュ・オンラインには有名な格言がある。
「メンテナンスが終わるとどうなるの?」
「知らないのか? 臨時メンテナンスが始まる……」
その格言通りに、シーズン5.3導入初日から2日目の昼までに臨時メンテナンスが3回も
唯一の救いと言えば、『公式の中のひと』である
プレイヤー側から見れば、月額課金をしているゲームなのに、そのゲームを遊べないことは損失以外の何ものでもない。普段はだらだらと街中でチャットして遊んでいる層もここぞとばかりにノブレスオブリージュ・オンライン運営陣をSNS上で叩いたのだ。
「詫びメダルはよ!」
これがノブレスオブリージュ・オンラインのプレイヤーたちのSNS上での総意であった。
それは臨時メンテナンスが1回
シーズン5.3が10月16日に実装されてから、早3回も臨時メンテナンスが
しかしながら、GM山道にとっては、これは会社に与える損失そのものであり、この方策はなるべく使いたくなかったのである。だが、そうは言っても、サーバーが物理的にダウンしてしまうほうが手痛い損失であるために泣く泣く、ノブレスメダルをプレイヤーに配ったほうがまだマシと言える状況であった。
「くっ……。会社から認められているノブレスメダルの配布用無料分保有量が無くなってしまいます……。このままでは来月の
損して得とれという言葉通り、一定額のガチャ無料というのはどこのゲーム会社でも
「じゃあ、成長促進アイテムでも配ったら良いんじゃないッスか?」
「川崎くん……。それ、2カ月前にやって、プレイヤーたちから大不評を買ったのを忘れたのですか? ほとんどのプレイヤーたちはレベルカンストしているんですから、成長促進アイテムなんかもらっても嬉しくもなんともないとゲーム内で所属しているクランメンバーから文句が出まくっているッスって、あなた自身が言ってましたよね?」
「あれ? そうだったッスか? いやあ、俺っち、3日前の晩飯のオカズがなんだったかも忘れてしまうタイプッスから!」
だいたい、自分よりも10歳近くも若いのだ、
『十五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども、のりをこえず』。これはかの有名な孔子の言葉だ。
ならば四十路の自分はいちいち癪に障る言葉で怒らない態度を示すべきだと
「これ以上の臨時メンテナンスは
「ん? じゃあ、今日1日はどうやって乗り切るつもりなんッスか? 根本的な解決方法はまだ見つけれてないッスよ?」
それをやるかどうかの緊急会議だと
「川崎くん、緒方くん。そして、臼井くん。僕はこの後、サーバールームの奥にあるあの部屋に入ろうかと思います。あそこにある『D.L.P.N』システムを使えば、この臨時メンテナンスの嵐からノブレスオブリージュ・オンラインを救うことが出来るという確信めいたものがあります……」
「えええ!? 山道さん、あれがあるのはエイコウ・テクニカル社の伝説じゃなかったんッスか!?」
「それだけはやめてください! 前任のGM上杉さんが消息を断つ前に向かった場所があそこだと言われているんですよぉ! 今、山道さんに何かあったら、ノブレスオブリージュ・オンラインは物理的にサービス終了してしまいますぅ!」
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