炎上の後

 ヒロシは、2杯引っかけた後、Barオパールを出て、忘年会の店へと向かっていた。賑やかな商店街、すれ違う人をよけながらヒロシは先ほどの店の出来事を思い返していた。


 マスターが怒鳴った後のバーは、何事なかったように楽しい雰囲気に戻った。どうや日野原とユミコの夫婦は、半年前にあの店で知り合って最近結婚したらしい。おそらく、日野原はピクルスのママと別れてユミコと付き合うことにしたのだろう。ユミコは日野原の前の女のことを少しは知っていたが、具体的なことは今宵に初めて聞いたらしい。もっともユミコは日野原の過去をあまり気にしていないようだ。そうだろうな、色々と経験してきてやっと結婚をした、すべて受け入れるつもりということだろう。


 そして、日野原もユミコの色々とあった過去を了解済みのようだ。おそらく日野原があのバーでユミコに最初に出会った時に、ユミコは例の調子で日野原に絡んで自分の過去を話したであろう。そんな話をあのバーで交わしているうちに二人は盛り上がって結婚にまで漕ぎ着けたと想像できる。


 ヒロシは、商店街の一番はずれにある居酒屋についた。今宵は会社の職場の連中とこの居酒屋で忘年会だ。いつもは職場のある横浜でやるが、部下の1人の地元の戸越銀座に良い居酒屋があるらしい。今年は趣向を変えてここになった。そのおかげで奇妙な出会いがあったものだ。ヒロシは入口の前に立ち止まり改めて思った。


「それにしても何で僕が怒られるんだ? 俺じゃないだろう。あの夫婦の方が可笑しいだろう、僕を巻き込んだのはあちらだろう・・。まぁいいや、今日の忘年会はこの話を肴に飲んでやるか。」


ヒロシは店の引き戸を開けて中に消えて行った。

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