冥宮【ドラゴン・デス】 一

~ ヨハン・パノス ~


 生は流。流の果ては無。しかし無は死ではない。


 と、纏放を習う時に先生が言っていた。


 無は生の過程の一つ。

 無は生の流れの中に有り。

 死は無とはなり得ない。


 死はただ在るのみ、と。


* * *


 画面の中で山と荒野の風景が流れて行く。

 ゴーレムの操縦腔そうじゅうこうに座り、ホテルで貰った朝食のドーナツを食べる。チョコミントのトッピングがウマ。


 飛び出して来た家みたいな大きさの猪を砲撃で吹き飛ばし、迷彩模様の狼の群れを火炎放射で灰にする。

 空からバカでかい怪鳥が氷塊を吐き出して攻撃してきたが、自動で放たれた魔導矢ミサイルが爆砕し、詰めの砲撃で怪鳥を撃墜した。


「やっぱパーナの作品は豪快だなあ」


 完全自動制御なので、呑気に三つ目のドーナツを食べる事ができた。今度はプレーン。


 紙パックの紅茶を飲み終えた頃には、整地された砂利の道路が見えた。

 

 車輪が刃になっているので道路に乗り上げる事はせず、横の荒れ地を並走する。


 大型旅客馬車の窓から手を振る子供達の姿が見えたので、ゴーレムの両手を振って応えると、大歓声を上げてくれた。


 風を感じる。

 いや、完全密封なんで気分だけ。


 空を見上げると翼を広げたゴーレムが飛んで行った。

 遠くに見えた小さな城壁はあっという間に目前となり、速度を落として馬車とは違う専用の入口から内部へと入る。


 一度機体から降りて、受付でロストレインから貰った許可証を出す。


「どうぞこちらへ」


 魔導車に案内され、より奥まった場所に【赤薔薇の車輪戦騎レッドローズ・ブルチャリオット士】を止めた。


「お疲れ様です」

「ありがとう」


 背部から出て、地面に着地。

 背嚢はいのうを背負い直して、酔い止めを飲んだ。


「今日は観光ですか? それとも戦争、でしょうか?」


 真剣な目で赤薔薇の車輪戦騎士レッドローズ・ブルチャリオットを見上げる彼に苦笑する。


 真紅を纏う重装甲の人型上半身と、ハリネズミのような武装で固めた装輪戦車型の下半身。

 筒型魔導連弩八門、速射型魔導砲四門に加え、両肩部に装備された重加圧魔導砲二門の威圧感が半端無い。


『ようこそ『古代王国の夢』へ。このダンジョンは皆様へ古き時代の夢を提供いたします』


 アナウンスが聞こえた。

 

「基本的に観光と探索ですよ。休暇ですから」


 明らかにほっとした彼に手を振ってエレベーターに乗った。


 鏡に俺が映る。


 あ、寝ぐせだ。


 

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