空の箱庭 一
~ 廃都・ライラ ~
ガレ王国の遥か上空には一つの浮遊島が隠されている。
魔月奇糸団の第十一席【愚の灯 ロストレイン】の所有物であり、元は彼が滅ぼしたある国の首都であった物だ。
山水画に描かれるような山と、広大な湖と、朽ちるままに任せた都市の残骸。
それを眺める事のできる丘には広大な東方風の館が造られている。
木の匂いが立ち込め鳥の声が響く、訪れる者の少ない閑静なこの土地は今。
東西南北の各地より訪れた客達と、それを持て成す者達で賑わっていた。
「折角の『赤陽館』も、こうなると掃き溜めですわね」
扇子で口元を隠した
一人の青年が手に持つ酒杯を握り潰した。
「おい女。喧嘩売ってんのか?」
「あら、買いたいんですの?」
殺気を漲らせて青年が立ち上がる。
傍らの神官の少女が必死に止めようとするが、振り払って腰の魔剣へと手を伸ばす。
(良いわね。とても美味しそう)
オリエッタは目を細め、扇子で隠した紅の唇を舌で舐めた。
周囲の視線がオリエッタと青年に集まる。
それは表裏の世界にその名を響かせる怪物達のものであり。
オリエッタはそんなもの意に介さず。
青年はこの場所に招かれた事への緊張、そして何より、自尊心を強く刺激されて。
止められなくなり、オリエッタへ剣を抜いた。
いや、抜こうとした。
「やめておけ。この妖婦の誘いに乗って、その餌食となる事はあるまい」
巨躯の侍、
「邪魔だ!」
青年がケビラの顔へ左拳を放った。
鋼を打つ轟音、その余波で部屋が軋み、調度品の幾つかが床へと落ちた。
「っ」
「お前もここに懸けるものを背負って来たのだろう? 妖婦の言葉に惑わされて、無為に死んで。それで本望なのか?」
「……いや」
青年が手を放す。
「すまない、いや、ありがとう」
「気にするな」
ケビラは青年の肩を軽く叩いた。
「俺も若い頃はすぐ頭に血が昇った」
ケビラは笑い、そしてオリエッタを睨んだ。
「あら、残念」
青年と神官が去って行く。
オリエッタは彼らと反対方向に。
ケビラもまたオリエッタに続く。
「何処へ行く気だ?」
「始まるまでは自由行動よね。摘まみ食いは怖いお侍様に怒られますから、素直に見学しようかと。まあお姉さまから聞いてましたので、赤陽館には前から興味もありましたし」
扇子を閉じる。
オリエッタの紅の瞳が周囲を一瞥する。
「ほんと、皆さんギラギラしていて結構ですわね。なのに聖櫃というのは、そんなにも魅力的に映るのでしょうか?」
「お前は違うのか?」
「私はハリス様の継承者と戦えると聞いたから来たのですわ。言いましたでしょ、私は黒翼になると」
メイドから飲み物を受け取り、階段を上って行く。
二階の窓の外を見ると、茜色の雲と空が見えた。
「あら?」
部屋の隅で屍のように生気の無い顔で座り、手酌でひたすら酒を飲み続けている男がいた。
「もしかして、グレーベルですか?」
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