剣と敗北の聖女 十三

『ブモオ―――――ッ!!』


 赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルの口腔から放った劫火の吐息デスヒートが木々を焼却すると同時に吹き飛ばし、荒野へと続く黒焦げた道を作り出しました。


 足の蹄の間から円刃輪チャクラムホイールを出し、すね脹脛ふくらはぎの放射口より火炎を吐き出して、重蹄騎士レイドブルが疾走します。


 すぐに荒野が現れ、打ち捨てられて朽ちるままとなった廃村を駆け抜けます。


(いよいよですか)


 荒野の端が見え、そこより低地となった場所に広がる湿原が姿を現しました。


 重蹄騎士レイドブルの索敵が無数の魔獣の存在を捉え、とりわけ保有魔力量が多く危険度の高いものが空に、地面に、地中に、数十体と潜んでいる事を教えてくれます。


 ボルトニア王国と二バラギア共和国の国境に広がる、魔獣の巣窟として悪名高い『トールヴァ湿原』。


 元は白硝杉の広がる森であり、地下には魔晶石の鉱脈が広がっていたそうです。

 しかし五十年前の開拓で掘削中に水脈に当たり、高濃度の魔力を含んだ水が地表に湧出してしまいました。


 低地に在った森の地面は水で覆われ、それによって多くの生物が魔獣へと変わりました。


『本当に』


 魔獣達が赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルの前に姿を現し襲い掛かって来ます。


 空から怪鳥が突撃槍のような嘴を向けて。

 地表からは太い触手の群れと、それごと呑み込もうと怪魚が顎門を広げて。

 地中からは異常な魔力反応が異常な速度で。


『もし普通のゴーレムだったらと思うとぞっとします』


 迫撃魔導砲が撃ち出した特殊魔導弾の直撃を受けた怪鳥は、極大の爆炎の中で塵灰となり。


 重蹄騎士レイドブル劫火の吐息デスヒートによって凡そ二キロ先までが焼却され。


 地中から来た何かは円刃輪チャクラムホイールに切り刻まれると同時に炎に焼かれ、それで終わりました。


 かつて『魔獣を生み出す汚泥の沼胎』と恐れられたトールヴァ湿原は、しかし赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルの力によって呆気なく蹂躙されていきます。


『これなら突撃兵ストライカーを出すまでもありませんでしたね』


 三角錐に翼を付けた姿の白薔薇の突撃兵ホワイトローズ・ストライカー重蹄騎士レイドブルの後ろに続いて飛翔していますが、今の所全く出番がありません。


『グオオオオオッ!!』


 進行方向にある池塘ちとうが爆発し、小山程もある大鰐が姿を現しました。


 縦長の瞳孔に殺意を滾らせて、赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルへと驀進して来ます。


『ゴルルウゥ』


 大鰐の周囲の水が浮き上がり、それが散弾となって襲って来ました。


『ブモオ―――――ッ!!』


 その水魔法を劫火の吐息デスヒートで迎え撃ちます。


『グルオオッ!!』


 水魔法は蒸発しましたが、大鰐はその濃い緑色の鱗を焦がしただけでした。


『先程の言葉がフラグとなったのでしょうか。行きなさい突撃兵ストライカー


 目前に迫る大鰐へ、重蹄騎士レイドブルを追い越した二機の白薔薇の突撃兵ホワイトローズ・ストライカーが突撃します。


『グオッ!?』


 突撃兵ストライカー達が鱗を砕き肉の中へと突き進んで行きました。


 そして次の瞬間。

 

―― ズドーーーンッ!!


 天空を突く白い火柱が上がりました。

 その炎の中で大鰐のシルエットは瞬時に崩れて消え行きました。


 紅のエレメンタル・コーティングを施された赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルは『火』に無効化レベルの耐性を持っています。


 なのでこのまま火柱へと突っ込み、無傷のまま先へと抜け出ました。


『確か今のがトールヴァ湿原の主の一体でしたよね。他の主も襲い掛かって来てくれると助かるのですが』


 戦力を考えると、赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルが動く今の内にと思うのです。

 

 ただ……。


『これは傲慢、なのでしょうね』


 湿原と数多の魔獣を焼き払い、更に主を四体焼却して。


 まだ距離はありますが、狩の城を視界の中に捉えました。


『入庫迫撃魔導砲。出庫重加圧魔導砲』


 重蹄騎士レイドブルのオプションを換装。

 迫撃魔導砲が蔵庫に消え、高威力の重加圧魔導砲が重蹄騎士レイドブルの背中に装着されました。


(古いお城でしたが、要所要所はきちんと改修されていて、都市結界も最新の高出力のものでした。もし普通に軍で攻めていたら、それなりに時間を取られたかもしれません)


 湿原が終わり雑草の繁茂した硬い地面へと変わりました。


『ですがこの赤薔薇の重蹄騎士レッドローズ・レイドブルの前では』


 重蹄騎士レイドブルを前傾姿勢にし、重加圧魔導砲の標準を狩の城へと向けます。


『無意味ですよ』


 重蹄騎士レイドブルの魔力を重加圧魔導砲へ集中。


『発射』

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