海へ

宿を出た俺たちは数分前に通った道を引き返し駅のところまで戻ってきた。


「海だぁ!!」


「ですね!」


片岡と四十川は相変わらず元気そうだ。東雲もそんな2人を見て優しく笑っている。


「ん?、何よなんかついてる?」


「いや、東雲ってそんな顔するんだなって」


「別にいいでしょ!どんな顔してても!」


東雲もあまり表に出さないが海で遊ぶのが楽しみなのだろうかどことなくテンションが高い気がする。当然、俺も楽しみだ。


海に着くと今日は炎天下ということもあり海が輝いて見えてとても綺麗だ、遊びに来ているのは俺たちを除いて10人くらいだろうかそこまで人は多くない。海の家があったので更衣室を使わせてもらいちょうどパラソルや浮き輪の貸し出しなんかもしていたので借りることにした。


「ゆう!遊びに行こうぜ!」


なぜか競泳用のようなピチピチの水着を身につけ浮き輪を装着し準備万端な片岡は待ちきれないのか水辺まで行っていないのにすでにゴーグルを付けていた。その隣にはテンションが上がりふんふん言って目を輝かせている四十川もいた、ピンクの水玉模様の少し子供っぽいようなデザインの水着だが四十川によく似合っている、四十川も早く遊びたいのだろう時折海をチラチラ見ている。


「俺はパラソル立てたり休憩できる場所作ってから行くから先楽しんでてくれ」


2人の顔は今日一番の笑顔になった。


「おう!行こーぜあやっち!」


「お先です!」


俺が言い終わるか終わらないかくらいの時に2人は海に向かって走り出した。そんなに楽しみだったのか。東雲はというと。


「あやめぇ!日焼け止めはぁ!?」


お母さんになっていた。海までの道中も何度か塗るように促していたが四十川が嫌がって塗らず、今も東雲が追いかけようとするとギアを1段階あげて海の方に逃げて行った。


「はぁ、はぁ、な、なんで、あんなに早いのよ」


四十川は元陸上部で走るのがかなり早いのだ、帰宅部で運動不足の俺や東雲では追いつけるはずもない、諦めて帰ってきた東雲は俺が立てたパラソルの下に腰を下ろし上がった息を整えていた。東雲の服装は四十川とは対照的に黒っぽいスポーツウェアのような水着の上からジャージを羽織っていた。


「大変だな」


「全くよ、あやめは昔から日焼け止め嫌がるのよベタベタするから嫌いなんですって毎年真っ黒になるのに」


肩を下として「はぁー...」と東雲はため息をつく。遊びに来ているのにもう疲れている、苦労人である。東雲は俺が設営をしている間も遊びに行く様子はなく片岡と四十川が遊んでいるのを微笑ましそうに見ていた。


「東雲は遊びに行かないのか?」


東雲は少し渋い顔になった。


「誰にも言わない?」


「何をだ?」


ジト目で俺を見つめてくる。何秒か見つめた後また片岡たちの方に視線を戻し俺から顔を見えないようにして話した。


「私、泳げないの」


「意外だな」


俺がそういうと東雲は顔こそ見えないものの耳が赤くなっているので照れていることが分かった、そんなに恥ずかしいことでもない気がするが気にしているのならあまり触れないほうがいいと思い話を変えることにした。


俺と東雲は今まであまり1対1であまり話したことがなかった、俺は基本片岡と一緒にいたので常に東雲と話すときは俺と片岡と東雲という構図で話していた、なので話すことには困らなかった。東雲と話していると一通り遊び終えたのか片岡と四十川が海から上がってきた。


「りん!りん!お魚さんがいたよ!」


「海だからね」


はしゃぐ四十川を東雲が優しく受け答えしている。片岡はというと。


「いい、波だったぜ...」


「いや誰だよ」


髪をかきあげながら俺の方に格ゲーのように横移動で近づいてくる片岡はいつもより声のトーンを1段階落として話している。うざい。


「おいおいゆう、お前は遊ばないのかい?」


「喋り方どうした」



喋り方までおかしくなっている片岡はまた髪をかきあげて「ハハ!ッいつものことだろう」と言いながらトイレの方に歩いて行った。うざい。


「そういや私たち、まだお昼ご飯食べてなかったね」


忙しくて気づかなかったが確かに言われてみればお昼を取っていなかった。


「そうだな、お昼にしよう」


俺たちは海の家でお昼を取ることにした。四十川もトイレがしたかったのか先に海の家に行ってしまった。


「東雲、俺たちも...」


振り返るとさっき片岡と四十川が飛び込みをしていた岩場に走り出した東雲の姿があった。

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