宿、到着

途中どうなるかと思ったが東雲は怒りはしたもののねちっこく怒ったりせず、犠牲は片岡の頬のみで済まされた。片岡は「なんで俺だけー」とぼやいていたが知らん、勝手に見るのが悪い。そして宿に到着した俺たちはチェックインしようと宿に入ろうとしたのだがそれと同じタイミングで東雲の携帯が鳴る。


「母さんからだ、ちょっと出てくる」


東雲は待っててと手でジェスチャーをし少し離れたところで誰かと通話し始めた。すると四十川が俺たちに話しかけてきた。


「さっき何怒られてたんですか?なかなか追いついてこないから心配したんですよ?」


四十川はさっきの一件を知らなかった。と言うのも東雲と四十川は俺たちよりもかなり前を歩いていて四十川が疲れたので腰をかけられる場所で休んでいたそうだ、東雲は元々俺たちに四十川が先で休んでるからそこまで早く歩いて欲しいと急かしにきたのだ、そこであんなことが起きた、なので四十川は何が起こっていたのか知らなかった。


「ま、まぁな俺たちが歩くのが遅いから...、な、片岡」


「えぇ!?そ、そうなんだよ!いやまいったまいったぁー、ハハハ...」


四十川からの質問に俺たちが嘘すれすれラインで答えていると何か老けたのではないかというほど暗い顔をした東雲が帰ってきて。「行こう」と小さく呟くように俺たちに指示を促し先に宿に入っていった。俺たち3人は疑問に思いながらも東雲の後を追い宿に入った。


宿は古き良き宿という感じで年季が入っているが隅々まで掃除が行き届いていた。先に入っていった東雲が受付で鍵をもらっていたそして東雲がもらった鍵の数は1つで先頭で宿に入った俺は確かに受付の人が「4人部屋2泊ですね」といったのが確かに聞こえた。


--------------------------------------



東雲を先頭に3階の今日宿泊する部屋に移動すると俺が聞いたのは聞き間違いじゃなかったみたいだドアを開くと4人分の敷布団が並んでいる和室だった。


「2人でこれって広いねー、僕たちの部屋もこれくらいかな?」


「和室っていいですよねぇ、落ち着きます」


東雲、片岡は未だ状況が理解できていないようで部屋を見て回って感想を言ったりしている。東雲はというと先程同様にふるふると震えていた。


「お前ら、ちょっとゆっくりしててくれ、俺は東雲が受付のとこに忘れ物したらしいから一緒に取りに行ってくる」


「分かったー」


「分かりました」


笑顔で答える2人の様子を見るにまだこの事態に気付いていないらしい。


「ちょっと来てくれ」


「ちょっと...っ」


俺は東雲の腕を掴み部屋から連れ出し、1階の団欒スペースのようなところに腰を下ろした。


「どういうことだ、説明してくれ」


東雲は目を合わせようとせず恥ずかしそうに頭を掻きながら少しずつ説明を始めた。


「あのね、私あんまりネットで予約とか分かんなかったから宿の予約はママにしてもらったの」


「お、おう」


東雲がママ呼びって、なんか意外だ。


「それでねママは私とあやめが男友達と旅行に行くと思ってなくててっきり女友達と行くと思ってたんだって、それで私は2部屋取っといてってお願いしたけどママが変なところで気を使って1部屋しか予約しなかったの」


まぁ確かに、女友達4人で泊まるのなら2部屋より全員一緒の方が仲も深まるだろうしそれに旅費も浮く、東雲母の考えている事が俺にはよく分かる。なんなら俺も親だったらそうする。


「じゃあさっきの電話の相手は」


「そうママよ、うちと四十川家は仲良いから多分あやめのママから聞いたんでしょうね男友達と遊びに行ったって、余計なことしてごめんねって謝ってたわ」


東雲は会話を思い出したのかふふふと笑った。そして俺と目を合わせて頭を下げた。


「ごめん、私のミスでこんなことになって」


東雲の表情は暗い。


「気にすんな東雲」


「で、でも!私が、」


東雲の声は少し震えている、自分より人のために行動したいと考える東雲のことだ自分のミスで人を困らせる自分が許せないのだろう。仕方ないやつである。


「そもそもお前に何もかも任せすぎた俺たちが悪い、人間誰だって間違いくらいある。それに四十川は知らんが俺も片岡も同じ部屋になるのは苦じゃない、片岡に関してはむしろ喜ぶと思うぞ」


「で、でも...」


「そんなに気負う必要ないだろ?俺たちは旅行に来たんだ、楽に行こうぜ」


「うん、ありがと」


東雲は少し笑顔に戻った。


「そうだよね、遊びに来たんだし落ち込んでる暇ないよね」


そこからは東雲が片岡、四十川に事情を説明したり、片岡が女子と寝られることにテンションが上がり調子に乗ってまた東雲にビンタされたりさていたが東雲はいつもの東雲に戻っていた。


一悶着あったがその後俺たちは水着や着替えを持ち海に向かうことにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る