夏休み

夏休みが始まってから2週間が経った。東雲は看護の専門学校、四十川は料理の専門学校に内定を取る事ができ2人ともとても喜んでいた。そして俺と片岡はというと...


「なぁ、ゆう、ここの問題なんだけどさ」


「あぁ、それはだな」


俺の家で数学の参考書を解きまくる日々が続いていた。3年生の宿題は1年生、2年生と比べると比較的少なく始めの1週間のうちに全て終わらせてしまい数学に集中する作戦にしたのだ片岡の勉強嫌いは少しマシになったとはいえ始めのうちは流石に嫌がっていた、「僕はコツコツする主義なのさ」や「こんなの拷問だ!」なんて言っておりどうなることかと思ったが1週間経てば毎日勉強する事が習慣となっていた。


ピピピピ。


「終わっったぁぁぁ...」


「お疲れ」


一時間にセットしていたタイマーが鳴ったので午前の部は終了となった。ここまでで計3時間、片岡と話し合い毎日2人で7時間以上は勉強すると決めたので残りは4時間だ頑張ろう。


ピンポーン


と俺の家のインターフォンが元気よく鳴る、モニターを見ると大きな手提げを持った東雲と四十川だった。


「ほれ、差し入れ持ってきたんだからさっさと開けろー」


「お昼ですよー」


俺と片岡はここ数日間、東雲と四十川の手料理が昼飯になっていた、この2人は内定が決まると俺と片岡を何かサポートできないかと考えた末にこの答えに行き着いたらしい。女子2人は俺が玄関のドアの鍵を開けると「お邪魔しまーす」と元気よく入ってきた。


「お腹すいたぁー!」


リビングの方から片岡の元気な声が聞こえてくる、そんな片岡の小さい子供のような声に東雲はそのまま「子供か、あんたは」と笑いながらリビングの方へ歩いて行った。


「四十川も気にせず上がってくれ」


「あ、はい、お邪魔します」


四十川はまだ人の家に上がる事に緊張しているの顔を真っ赤にしながらてこてこリビングの方に歩いて行った。俺も四十川を追いかける形でリビングに向かうと東雲が手提げから昼飯らしき物を出し、片岡が箸を並べている最中だった。そして肝心の昼飯が何かと言うと。


「じゃーん、今日はみんな大好き冷やし中華にしましたー」


「おぉ...」


料理を全くと言っていいほどしない俺と片岡は店でも出せるんじゃないかというレベルの冷やし中華が出てきて驚く。


「辛いのが大丈夫ならラー油かけると美味しいから各自でかけてねー」


そして東雲のお母さん感がすごい。


「みんなお箸持った?持ったね、はい、じゃあいただきます」


「「「いただきます」」」


箸を持ち、まず麺をすすることにした。


「うめぇ...」


その言葉は俺の口から自然に出ていた、しかも夏の暑い日に食べる冷やし中華は格別だ、夏バテ対策なのか麺の上に乗せられているトマトやキュウリなど色とりどりの野菜もササミも卵も冷やし中華のタレと絡まり美味しく、また紅ショウガは少し味に飽き始めた時に食べるといいアクセントになる。とりあえず言いたい事は超うまいという事だ。


俺と片岡が勢いよく食べているのがおかしいのか女子2人は料理に手を付けずに笑いながらこちらを見ていた。片岡がそれに気づき指摘する。


「あれ、しのりんたち食べないの?」


東雲はふふふっと笑い言う。


「いや、こんなに美味しそうに食べてくれるのなら作りがいあるなって、ね、あやめ」


「う、うん」


四十川も嬉しそうに首を縦に振る。


「でもこんなにしてもらって悪いよ」


「そんなこと気にしないでよ、私たちがしたくてしてんだからさ」


「い、いやぁでも」


俺の言葉を東雲は「それにさ」と遮り続ける。


「私たち友達なんだし、助け合って当たり前じゃんね」


東雲は柄じゃないこと言って照れているのか俺から目をそらす。しかし耳が真っ赤になってしまっているので照れている事はこの場の全員がお見通しだ。その空気に耐えかねてか東雲が切り出す。


「そ、そうよあんた達に言おうと思ってたのよ、旅行の事」


旅行?


「あやめと話し合ってね、あんた達がいいなら来週の月曜日から2泊3日で旅行に行こうと思ってるの。担任に聞いたら小鳥遊は試験のボーダ超えてるそうじゃん、片岡も後少しだそうだし、それに息抜きもたまには必要でしょ?」


「旅行、か」


「いいじゃーん旅行、行こーよ最後の夏なんだし」


俺が悩んでいると言うのに片岡は速攻で行くことを決めたようだ、まぁ最後の夏休みだし、いいか。


「そうだな、行くか」


「やったぁぁぁぁ!」


こうして俺たちの2泊3日の旅行が決まった


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