第14話 あなた、バレバレなんです
「……ふむ、大体の話は分かった。なるほどのぉ……」
一階の職員室の灰色のデスクに頬杖をついて、うむうむと頷きながら龍牙の話を聞く石垣教師。
なぜか、そのデスクに置いている梅干しの丸い容器が気になるが、深くはつっこまないようにしよう。
──なお、この広い職員室には、いつも二~三人しか教師はいない。
龍牙がイタズラなどの悪さをして、ここで説教を食らう時があるが、それでもいつも少人数で応対している。
そう、この学園のすべての生徒達は約100人にも満たなく、この高校は普通の高校と同じく三学年制。
一学年に一クラスしかなく、各人数は少なくて約30人程度である。
それで教師の頭数も減らし、経費削減で少数精鋭なやり方なのだろうか。
──ふと、龍牙が職員室の窓際から外の様子を伺うと、夕焼けで濁った空模様から、赤茶けた砂漠に光が射し、パラパラと天気雨が降っていた。
雨は乾いた地面を濡らし、でこぼこな地面のあちらこちらに水溜まりができていく。
通り雨だろうか。
いよいよ夏がやってくる。
外出はできないが、この学園には広い室内プールがある。
そろそろ、プール開きも近い。
「しかし、不思議な縁じゃな。
この学園に小さい頃に生き別れた腹違いの弟が紛れ込んでいて、このようなきっかけで出会うのじゃからのう」
もちろん、この話の内容は教師を
無闇に女性だと明かすわけにはいけないからだ。
おそらくバレたら捕まり、学園の上層部へと連絡が下るだろう。
この島に一人しかいない女性。
貴重なサンプルとして色々と実験される可能性もある。
そうなれば弓の身の安全は保証できない。
「……弓君、ちょっとこっちに来なさい」
「はい」
弓がトコトコと小動物のような可愛らしい足取りで近づく。
「ワシは石垣教師じゃ、よろしくじゃ」
弓の目を優しく見つめ、握手を求める石垣教師。
「……うむ」
一瞬だけなにかに気づいたような石垣教師だったが、すぐに手を離し、かけていたサングラスを外し、龍牙の耳元にボソッと呟く。
「……ズバリ、弓君は女の子じゃな」
「何で分かるんだよ?」
「元体育教師をなめるでない。
握った時の肌の質感、体から漂う特有の匂い、龍牙以外の男性に接して戸惑う潤んだ瞳、女性らしい緩やかな体のフォームなどなど……。
ワシが紛れもなく何年か前に指導した女性達そのものじゃ。
……それに、Tシャツの下にサラシを巻いても胸がバレバレじゃぞ。
よくバレずに、ここまで来たのぉ」
「それで、変態ロリコンじいさん。
弓をどうする気だよ?」
「失敬な。別にどうもせんよ」
「はっ?
何もしない?」
「うむ。もうすぐワシは定年じゃし、面倒なことは極力避けたいんじゃ。
龍牙もその方がよかろう」
「ありがとな」
「……それに兄弟ではなく、大切な彼女なんじゃろ?」
「……なっ、何だよ!?
そんなんじゃ!?」
トマトのように赤い顔になり、分かりやすい反応で動揺する龍牙。
そんな彼を見た石垣教師が、イタズラっ子のような笑みを浮かべてサングラスをかけなおす。
「それから、今日から弓君は龍牙と同じ部屋に住むがよかろう。兄弟ならそうした方がいいじゃろう」
「えっ、僕はどうなるの?」
「鳴武は、今から荷物をまとめて隣に部屋移動じゃ」
「ええっ!? あのマッスル池田の隣なの!?」
サヨナラ、一瀬。
肉体改造でムキムキになっても、その野郎と仲良くな。
しかし、マッスル池田って何者だろう。
今をときめくピン芸人みたいな呼び名だが……。
「これで弓君は心配ないじゃろ」
石垣教師が、弓と龍牙にグッと親指を立てる。
「石垣教師、ありがとうございます」
「本当にありがとうな」
教師の
「あと、弓君。何か必要な物があるなら言ってくれ。
身の回りの物なら、ワシが直通便で取り寄せるからな」
「ありがとうございます」
「サンキュウ、じっちゃん♪」
「龍牙よ。礼ならいらぬ。
お前は明日、今日やってない草取りをやってくれれば問題はなしじゃ」
「げっ、マジかよ!?」
思い出したかのように愕然としている
龍牙。
弓に接して多忙のあまり、すっかり昼からの作業の事を忘れていたようだ。
龍牙よ、お気の毒さま。
「お前のぶんの仕事はたっぷりと残しておるからな。明日は覚悟するんじゃな」
「ひぇー、オタスケー!」
「案ずるな。誰も助けはこん。明日は他の皆は内職作業じゃからな」
「ガチョーン♪」
「いつのボケネタじゃ。お前、まだ生まれてないじゃろ?」
「ラジオで知りまちた。てへぺろ♪」
二人のコントのような話を聞いてクスクスと笑う弓。
「それから、龍牙。今日の夜の授業は免除しておく。
きちんと単位はつけとくから、今から弓君の引っ越しを手伝うんじゃぞ」
「ありがとな」
「じゃあな。ワシはこれから職員会議で忙しいから離れるぞ」
石垣教師が椅子から立ち上がり、首を左右に捻り、コキコキとこりきった首を鳴らす。
そして、同じ部屋にいた二人の教師と共に
「……素敵な先生ですね」
「でも、もう60過ぎたヨボヨボけどな」
「龍牙さん、その発言は失礼ですよ」
「ごめん。そうだな。さあ、部屋に戻ろうか」
「はいっ」
****
やがて、二人は過ぎ去り……。
「……あの、僕の存在を忘れてない?」
二人のパーティーから外された一瀬が現れた。
そこへ……、
「どうも、石垣先生の電話にて、お迎えに参りました。
マッスル池田でぇーす!」
身長180センチ、黒髪の坊主頭で褐色な肌にハハハと白い歯を光らせている池田も現れた!
なぜかピチピチの白いTシャツを脱ぎすて、ムキムキな大胸筋をプルプル震わせながら一瀬の元へやって来る。
「ぎゃあああ、露出狂!?」
「いえいえ、とんでもない。
新しいルームメイトに対する愛情表現どぇーす♪
……あら、アナタ、よく見ると、なかなかいいオトコじゃない。もろ好みよん!」
そのまま、一瀬を強引にハグしようとする。
「ぎゃあああ!?
止めろぉぉ!?」
まあ、色々あるけど一瀬も頑張れ……。
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