第3章 阿呆に揺れ動く仲間達

第7話 オタク心とテレビゲーム

『チャラ、チャラ、チャラ、チャラー♪』


「おっ、一瀬いちのせ。相変わらずやってるな」


 駆け足で階段を昇り、学園の三階にある寮の八畳部屋に戻った龍牙が、テレビから流れるお馴染みのゲームBGMを聴きながら、同居人に声をかけた。


「あっ、龍牙君。お疲れ様」


 同居人の名前は鳴武一瀬なるたけいちのせ

 同世代だが、年齢は早生まれの17歳。

 160センチの小柄なやせ形の体格で、黒の長髪に細い目つき、さらに度の厚い眼鏡をかけたオタクで、今は紺色の作業服を着て、テレビゲームを楽しんでいた。


 この一瀬が座って遊んでいる畳の床にはゲーム機があった。

 白の長方形のシルエットが特徴で表面の中央にふたがあり、そこにディスクトレイを開けるボタンがあり、内部ではゲームのCD ROM がくるくると回転している。


 そのDISCを回す蓋には『ZAGA』のロゴマークがついていた。

 一瀬が裏ルートで手に入れた昭和の名機、ゲーマーの心を震わす『ザガサターン』である。


 一瀬は、テレビゲームの飛行機を操って悪の敵キャラなどをやっつけていく2Dシューティングゲームが大好物で、そのゲームは『センターフォース』というシリーズ作品で、遥か昔の昭和時代に爆発的に流行ったレトロなゲームでもある。


「ところで、そんなに息を切らしてどうしたの?」


 コントローラーのボタンを指先でカタカタと鳴らしながら、16インチの黒のデジタルテレビに映るゲーム画面から目線をそらさずに聞いてくる。


「いや、ちょっとネズミと喧嘩してさ」

「あの仲良く喧嘩しろがフレーズな猫とネズミのアニメからだね?」

「さすが、話せば分かる相棒で良かった。そういう事だぜ」

「ふーん。それで何で衣装ケースを漁ってるの?」

「知らないのか。ネズミもヘビみたいに脱皮して大きくなるんだぜ」


『ドカーン!!』


 一瀬が瞬時に固まり、ゲームのコントローラーをそのまま滑らせ、テレビのスピーカーから飛行機の凄まじい墜落音が響く。


「それ、本当なの!?」


 一瀬は顔面蒼白になり、酸欠気味の金魚のように口がパクパクいっている。


「……ああ、俺も缶詰を巡って、奴のボディープレスで危うく死にかけたが、仲良く和解してな。

とりあえず寒いから服をよこせとなってだなー!」


 身ぶり手振りで大袈裟なリアクションをする龍牙。


「もう、やだよ。もう聞きたくないよー!」


 一瀬は部屋の隅へと逃げ込み、小動物の怯えたハムスターのようにプルプルと身を震わせ、縮こまっている。


「一瀬きゅーん。

まーだ、話は終わってないぞぉー!

お前を食ってやるー!!」

「ひゃあ、怖いよー!」


 龍牙が、その小動物を狙う飢えた狼のような前傾体勢で威嚇して、一瀬をビビらせる。


 それに対して壁際にある二段ベッドの下の自分が寝る場所に逃げ込む男のな? ハムスターちゃん。


「作戦大成功だぜ」


 龍牙が衣装ケースからユミの着替え用の白の半袖Tシャツと青の長ズボンを手にした時……、


『ピーンポーン、パーンポーン~♪』


 昼休憩終了のメロディーが天井に埋め込まれたスピーカーから流れる。


『皆さま、昼休憩が終了いたしました。各皆さまは各教師の言う説明に従い、速やかに作業内容に取りかかって下さい』


『ピーンポーン、パーンポーン~♪』


「龍牙君。昼からも草取りだよ。一緒に頑張ろうねっ!」


 背後から背後霊のように、にやりと怪しい笑みで近寄る相棒。


「すまん。後は任せた!」

「ちょっと、サボる気なの?

あの石頭な石垣いしがき教師に何て説明するの?

また、居残り作業させられるよ!?」

「ごめんな。上手く誤魔化してくれ。畑にある桜島大根で俺のダミー作っとくからさ!」

「はあっ!?」


 呆れてものが言えない一瀬に対して、そそくさと着替えとスコップを持ち、慌ただしく部屋から立ち去る龍牙であった。

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