第5話 禁じられた教育

 あれから約一分が経過しても、未だに開けた缶詰から光害レベルな光の波があふれ続けて止まらない。


 その眩しさに目を凝らしながら彼の目先に映るのは……。


「ぶっ!?」


 龍牙は思わず吹き出した。


 目の前に見えるのは、何も纏わぬ裸のままに中で横たわる姿で、彼と同世代くらいのあどけない美少女。

 透き通る白い肌、150くらいの小柄に背中まで伸びた茶色の長い髪。

 頭のてっぺんには大人の握りこぶし二つ分の大きな黄色のリボンが特徴的で、まだ幼さの残る女子の裸体ときたものだ。


 すらりとした細いやせ形に童顔の穏やかな眠り顔とは正反対な豊満な膨らみ。

 およそ、Cカップはありそうだ。


「本当に人間か?」


 龍牙が真相を確かめようとそのほっぺたに手を伸ばし、


 摘まんで、


 伸ばして。


 頬をつねった!?


「んっ……」


 すると、眠り姫がしかめ面になり、痛そうな反応を漏らす。


 外見に見合わず、それなりの反応をしめす少女に対して、彼は、さらに腕の膨らみに手を伸ばそうとする。

 無心になり、黙ったままいたずらをぶつけている。


 ……何より龍牙にとって女子との出会いは久し振りだったからだ。


****


 ……遥か昔、この地球の日本国には女性という生き物がいた。


 だが、例の第三次世界大戦が長引くにつれ、日本軍人や兵士などの男性は心身的に廃れ、疲れていった。


 そんな閉鎖されていく空間で繁盛していた日本政府黙認の『コスプレ(メイド)喫茶』という文化は男のストレス発散にはちょうどよい代物だった。


 しかし、不得意多数の男性を相手にして、幾度もの女性達が過労やストレスなどで体調を崩し、心身の重い病気に侵されて、

命を落としていき、やがては、このブラック営業にもあたった『コスプレ喫茶』という施設は日本の世から姿を消した。


 でも、それで終わりではなかった。

 身近なメイドによる飲食サービス行為で厳しい戦乱を生き抜けるならと、海外の途上国などのように労働基準法をゆっくりと緩和させた日本政府。


 その結果、より度重ねる接客サービスに身を任せるかのように、今度は男性達は幅広い形で成人女性をやみくもに捕らえ、そのコスプレ営業をさせるようになった。


 この戦時中に物資が不足し、デフレでコスプレ道具も品薄で高額になり、闇市でもなかなか手に入らない時代。

 ましてや、この戦時中にパートナーを探す余力もない。


 その目的を発散するために、そうまでして女を作ってまで大金を払う必要もないと、男性達はそれらを購入せず、恋人も作らずに、ただ手軽なコスプレ喫茶だけに情熱を降りそそいだ。


 結果、予期しない恋心に巻き込まれた女性もいた。


 それに不満を懐いた兵士陣は、女に恋人が出来ると喫茶の接客係に支障を起こすおそれがあるなどという身勝手な理由で、恋人が出来た女性は、もはや用済みとし、パートナーの発言にも耳を貸さず、永久追放や異端への島流しを繰り返した。


 また、コスプレ喫茶の対象に幼すぎて未発達の女の幼児は強制拉致され、体が熟すまでとある地下牢にて監禁されたが、親元で暮らしたい幼児が見知らぬ兵士どもの言うことを聞くはずがなく、

日本国憲法を一時廃止していた日本政府の口封じにより殺害された。


 これが至上の歴史に残る過去に兵士達がしでかした暗雲の南京事件に次ぐ、女性の大量虐殺事件の真相である。


 こうして子孫は途絶え、この日本国から女性は消失した。


 はずだったが……。


****


『ガコン!』


「ふがっ !?」

「……何をするのですか!」


『ガコンガコン!』


「この、この、変質者さん!」

「ぐはっ、ちょっと待て!?」


 龍牙のいやらしい手つきに、裸の女性が、たまたま床下で手にした物体……。


 そのベートベンの肖像画の凶器の角がいくども龍牙の頭に炸裂する。


『ガコンガコンガコン!』


「もう、この世から永遠に消えてください!」

「うがっ、うぎっ、待て、うぐっ、痛て、マジで痛い。痛たた、お願いだから、俺の話を聞いてくれ!?」


『ガコンガコンガコンガコン!』


「強制セクハラ犯罪者には人権はなし!

問答無用です!」

「ぎゃあああああ!?」


 南無阿弥陀仏、チーン。

 龍牙よ、安らかに眠れ……。

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