生きる生きている
@azami0518
第1話 ごはん
ごはん
人と人とを繋げる手段。
引きこもりの子も病に侵されている人も
必ず何か口に運ぶ。
引きこもりの子にはドアの前に
病の子にはベッドの上に
引きこもりになった少女あるいは少年。
固く閉ざした扉は開かない。
心も、部屋も。
交わさなくなる視線、挨拶、言葉。
遠くなる距離。
そんな少女と家族を繋げたのはごはんだった。
毎晩少女の部屋の前に運ばれる一善のごはん。
シチュー、からあげ、焼きそば、グラタン、秋刀魚、ハンバーグ、カレー、肉じゃが
少女と家族をつなぐ唯一の存在
ごはんがあったから途切れずにいた関係
ごはんによってつながっていた関係
夢を追い続ける少年
それを誰よりも近くで見守る兄
思うように進まない足
簡単には認められない絶望感
怒り
焦り
涙
バツ印が増えていくカレンダー
いっぱいいっぱいになっていると思う
兄は毎日変わらずおいしいごはんを作ってくれた
鍋、うどん、そうめん、だし茶漬け
苦しみの爆発
我慢の限界
自己嫌悪
何も食べられない
いらない
散らばる白米
床に染みていく味噌汁
形の崩れた豆腐
床に転がるチキンカツ
兄はいつも笑顔だった
少年が苦しいとき
つらいとき
兄は笑顔で見守っていた
諦めかけていた夢
届かない目標
降ってこないアイデア
少年は何かを見つけた
いや、少年に何かが降ってきた
ドアを開ける
たくさんの人に囲まれた少年
兄に気づき笑顔で手を振る
呼ばれて離れていく少年
人々が見上げた先に飾られた一枚の絵。
白米と豆腐の味噌汁
キャベツとトマトが添えられたチキンカツ
題名、「後悔」
その夜
いつも笑顔だった兄は
初めて泣いた。
ごはんは何のために食べるのだろう
生きていくためか
欲望に応えるためか
人間として今この世で生きていることを確かめるため
ただのおにぎりにも涙があふれるほどの安心感がある
作り慣れないおかゆにも優しさがこもっている
おいしいと思えること
誰かと一緒に笑いながら味わえること
一人では意味がない
僕は生きている
この世界で生きている
この世界のものを口に入れてそれを使って生きている
ごはんは「この世界」と「自分」を繋ぐ
大切な役割を持っている
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