セッション6 ありったけの夢航路(2)

「文面が堅い」


 エルフ師匠の感想はばっさりだった。


「堅いっすか。うーん、やっぱりなぁ」

「でも、二重線で囲ったあたりはヨシ。こんな感じで、もっと自分を解放するといい」

「セッションに向かう雰囲気作り。という意味もあるからね。お互い同じ趣味を持った同士なんだから、クサいくらいに頑張って書いちゃっていいよ」


 皆の休みの揃った朝。

 もう、おなじみになったメンバーが、テーブルを囲んで顔を合わせる。

 卓の上にはキャラクターシートとメタルフィギュアとダイスが置かれ、上座に立ったマスタースクリーンのむこうがわにはラッシュ君が緊張した面持ちで座っている。


「なるほど。参考にして頑張るっす」

「がんばれ」

「まあ、ゆるーくね」

「私もその内マスターやってようかなぁ」

「プレイヤー専ってのもありよ?」


 慣れない内はハジけるのだって難しい。

 普段、自分の一面を隠している人となると尚更だ。

 だからまあ、ラッシュ君には遠慮無く自分をさらけ出して欲しいし、それに慣れて欲しいと思う。


 そのためにも、出来るだけプレッシャーを受けないようにしたい。

 補助役としての俺の役割ってのは、そこにあるのだろう。


「じゃあまあ、始めるかい?」

「ん、あ。そうっすね。それじゃあ、セッションを開始します! 初ゲームマスターで不手際なんかもあると思いますが、お手柔らかにお願いします!」

「ういうい」

「はい、よろしく」

「よろしくおねがいしますー」

「期待だけしとくわね」


 ちょいと堅い開始の挨拶。

 それでも、結構これも重要だと思う。

 言葉にしなくても分かる間柄だとしても、言葉にするともっと簡単に伝わる事もある。

 だから敢えて口にする。


 ちょっとしつこいと思ったって、それを許すのだって仲間の役割だ。

 なにしろ、初挑戦というやつは、いつだって緊張するものなのだから。


「今回はハンドアウトの通り、ランダムイベントをクリアしていく形式です。一応、簡単なマップやダンジョンの準備はありますが、出てくるモンスターやイベントはランダムで決まります」

「20が出るとドラゴンが出るヤツ」

「ドラゴンも出るっすよ」


 エルフ師匠に応えて言うラッシュ君。

 実際ドラゴンの出るマスはある。

 そう、マスがあるのだ。


「えー、それじゃあまずは皆さんにこれをお配りします。適当に一枚取って下さい」


 と、ラッシュ君が配るのは、100円ショップなんかで売っているビンゴゲームの記録シートだった。

 5×5のマス目に数字が入っていて、抽選された番号枠は折り外せるようにミシン目がついているやつ。

 それと、島だとか山だとか波だとか、色々な絵が入ったファンシー感じのシールも一緒に回して渡す。


「ビンゴゲームでもするんですか?」


 首をひねるむにむにさん。

 その反応に、にんまりと笑いを返すラッシュ君。


「大体そんな感じっすね。おりゃ!」


 一声上げて、テーブルの下から取り出したのは、紛うことなきビンゴマシーン。

 ハンドルを手回しすると、球状の籠の中から番号が入った玉が出てくるアレ。

 ラッシュ君がサークルのイベントで使った私物らしい。

 今回は、それに銀紙で作った剣とか、海賊帽やドクロのシールだとかをベタベタ貼ってある。

 なかなかどうして、雰囲気あるものに仕上がったのではなかろうか。


「ランダム数値はこのビンゴマシーンで抽選します。1セット2回抽選で、登場するモンスターやキャラクターと、イベント概要が決定されます。皆さんは自分が選んだ記録シートに発生したイベントを記録して下さい。それが、旅の記録になります」


 片手に記録シート、もう片手にイラストシールを持って説明をするラッシュ君。

 説明を聞いていたエルフ師匠も、なるほどという顔をする。


「セッション進行で、地図が生成される、と」

「そういう事になるっす。誰か一人のシートの1列が埋まれば、『それが正しい地図だった』という事になり、セッションは終了です」

「なかなか面白そうじゃない」

「冒険の記録が残るのは嬉しいかもしれないですね」

「いいアイデアだと思うよ」


 ビンゴマシーンだとかルーレットだとか、普段のTRPGで使わない器具を使うのも楽しいものだと思う。

 トランプなんかのカードを使うシステムだっていくつも存在しているのだから、見た目にも楽しいこういうギミックはどんどんやるべきだと思う。

 進行度をビンゴゲームという形式で可視化したのも面白い。

 初ゲームマスターで気合を入れていたというのもあるけれど。これはラッシュ君、なかなかいいゲームマスターになるかもしれない。


 惜しむらくは。このアイデア、ほとんど全部ラッシュ君一人で考えたもので。

 俺は大して役には立っていない事である。

 やった事といえば、通り一遍のアドバイスをしてランダム表を埋めるのを手伝ったくらい。

 世話役とはいったい……。


「長丁場になったらご容赦下さい。あと、ビンゴの宣言を忘れずに。それでは抽選開始します!」


 元気のいいラッシュ君の声。

 高評価に自信をつけたのか、声色には張りがある。


 大げさなくらいに力を入れて、ビンゴマシーンのハンドルをぐるりと回す。

 ガラガラと音を立てて籠が回って、中の玉が目まぐるしく転がって。

 そして出てきた1つ目の玉は……。

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