セッション5 雪の湯けむり温泉殺人事件。ドワーフの里で冒険者は見た!(3)

 TRPGはぶっちゃけ力が重要だ。


「シナリオは一本道です。これは絶対」


 故に、シナリオを作る上での重要な事はぶっちゃけて話そうと思う。


「いきなり夢の無い所来たっすね」

「商用シナリオでも無いかぎり、1回やったシナリオをまたやるって事は滅多に無いんだよね。だから、マルチエンディングとかは、ほとんど意味が無い」


 夢の無い話だが事実であるから仕方ない。

 語られない裏設定と言う奴も、みんな大好きでやりたくはなるけれど、そんなモノを考えるくらいなら見える所に力を入れるべきなのである。


「それでも、プレイヤーは思った通りに動いてくるかどうかはわかりませんよ?」

「そのために、次に行く道筋をちゃんと作る事が必要。第一の目的を果たしたら、同時に次の目的地が確定する。そういう感じ」


 ピロロロピロロと、聞き覚えのあるSEを口に出す。

 そう、言ってしまえばゼルダ方式。

 中ボスを倒す、パズルを解く、必要な場所にアイテムを持っていく。すると次のルートの道が開く。基本はこれだ。


 TRPGに翻訳すれば。

 酒場で悪人と戦うと、秘密の取引の日時を入手できる。

 その日時場所に行くと現れたのは既に見知った敵対者で。

 それと戦い倒すと、黒幕が誰かを吐いて……みたいにどんどんと話を続けていく。


 プレイヤーには考える間を与えず、どんどんと状況を展開して行って、プレイヤーを誘導していくマスタリング。


 選択肢が多い時、プレイヤーに

「どうする?」

 なんて言ったら最後。グダグダと迷走しはじめるのは必定だ。


 プレイヤーには選択をする時間を与えず、きっちり敷いたレールの上を走ってもらう。

 それが良いゲームマスターのなのだと思う。


「状況を動かす上での注意点は、不自然な事はしない事。俺達の常識もそうだけど、システム上出来るはずの事が、シナリオの都合で出来ないとか。そういうのをやると一気に醒めるから注意が必要だね」


 90年代くらいのコンピューターRPGでちょくちょくあったやつ。

 ヒロインが死んだ! 復活の魔法使えばいいじゃねえか!

 というアレだ。


 それぞれに思う所はあるんだろうけど、やっぱりこういう事をされると一気に萎える。

 「出来るのに、ゲームマスターの強権でやれない」という状況は、よろしくない。そっちに気を取られて不満ばかりが溜ってしまう。


「そうなると、F3ルールだと死者復活も出来るはずっすよね?」

「タイトルは殺人事件……だったのでは?」

「そうなるね。ちょっと厄介かもしれないけど、ここは逆に考えるんだ。復活が可能な世界で、何故殺人事件が起きるのか。その理由を考える事が出来るなら、シナリオの半分くらいは出来たと考えるんだ」


 ジョースター卿みたいな事を言う俺。

 ただまあ、正しい事を言っているはずだ。

 シナリオを作る上での縛り。それをシナリオフックと言う。


 『汝の自由にするが良い』と、TRPGの神ファラリスは言うけれど。

 TRPGは自由な遊びと言うけれど。


 全くの自由というものは、何一つとっかかりの無い、右にも左にも動けない不自由な状態で。

 逆に不自由というものは、それを足がかりにすれば先に進む事が出来るものなのだ。


 だからこそ、プレイヤーを全くの自由にさせる事も無いし、シナリオも縛りがあった方がいい。

 自由とはそういうものだ。


「でも、意味無いんすよね。殺人」

「そうなるね。F3ではステータス異常の一つに過ぎないから、すぐに【白魔法】で復活させられるね」

「シュトレゼンも出来るわよぉ」


 シュトレゼンの【黒魔法】の場合は死者蘇生リフレッシュじゃなくて死者操作ネクロマンシーだけどね。


「状態異常なら、コンピューターRPGみたいに、死亡状態になると他の状態異常が消えるとかどうですか?」


 敢えて死亡させる事で他の状態異常を消してしまうというのは、ウィザードリィから存在する裏技だ。

 死者蘇生よりも、石化解除の方がプリースト魔法レベルが高かったのが原因で、石化したパーティメンバーを落とし穴で殺して復活。というのをやっていた。

 まあ、割とすぐに石化も解除出来る魔法を覚えるので、そんなに多用した記憶はなかったりもする。


「残念だけどF3ルールだと、死亡状態になっても他の状態異常は消えないんだ」

「それは残念です」


 そもそもF3の場合、死者の蘇生や復活が出来るようなる頃には、大抵の状態異常は解除出来るようになっている。

 高レベルの【黒魔法】の【呪い】や神話級モンスターの特殊攻撃のような、解除するには特殊なアイテムか、非常に高いマイナス修正を受けた上で判定に成功するしかない代物もあるけれど、まあこれらは死んだところで無効にはならないので同じ事だ。


「一度は死亡状態にするメリットっすか……死んでいる間は動けないとかっすかね?」

「あ、それならこんなのはどうです? 何かを盗もうとして、その邪魔をさせないために殺害するんです」

「ミステリなら、後頭部を殴って気絶させる奴だね。なるほど、それなら殺害する意味があるね」


 それともう一つ、殺害を選ぶ理由を思いついた。

 死体は石化などの状態異常の対象にならない。つまり、死亡状態時は他の状態異常にかからないのだ。

 こいつは黙っておいて、シナリオのオチとして使うこととしよう。


「じゃあ、こうしよう。ドワーフ氏族の秘宝を手に入れるため、何者かが族長を殺した。蘇生した族長も背後から一撃で倒されたため、誰の仕業かは分からない」

「これは犯人をかばっているパターン」

「メタ読みはやめてください」


 茶々を入れるエルフ師匠をたしなめつつ、俺はシナリオをまとめ始める。


「その事件に巻き込まれたプレイヤーキャラクター達は、真犯人を見つけるべく捜査を開始……ちょっと弱いな。ゴルンが犯人と疑われて投獄された事にしよう。それで、無実を証明するために、パーティが捜査をすると」

「はいしつもん」


 白々しく手を上げるエルフ師匠。

 すました顔の目だけが、いかにも嬉しそうに笑っている。

 何かツッコミをいれる気だ。


「さて、導入が出来た訳だけど」

「無視しない」


 ぺしん、とエルフ師匠のツッコミが俺の頭を叩く。

 流石に無視はやり過ぎだったか。


「質問の答えは順を追って説明しますよ」

「それは分かってるけど、黙っているのもヒマだし」


 酷い理由だった。


「で、質問。捜査するとして、具体的にどうすればいいのでしょうか」

「関係者の聞き取り調査です。例えば、背後からの攻撃とは言え、族長を一撃で殺せるのは、一族でも6人しかいない……。みたいな情報を全部揃えると、一人の容疑者が浮かび上がります」


 入試なんかでやる論理問題みたいな奴だ。

 その場にいたのが何人で、Aの隣にはBとCがいて、Bよりも上座にいたのは2人しかいなくて~。という情報から、ABCDEFGの並び順を答えなさい。

 そこまで難しくするつもりは無いけれど、全部の情報を開示されれば容疑者が一人に絞られる。

 それくらい分かりやすくするのが、推理シナリオには必要な事だと思う。


「それはプレイヤーキャラクターがいなくてもいいのでは?」


 エルフ師匠は鋭いツッコミを入れてくる。

 そう、情報を全部集めれば犯人が分かるというのなら、プレイヤーキャラクターでなくてもいい。

 これが問題だ。


 『別に俺でなくてもいいじゃん』は、ゲームでもリアルでも、モチベーションに直結する重要な要素だ。

 ましてや、強盗殺人事件ともなれば、警察的な組織が捜査するのが当然だろう。

 それを押してプレイヤーキャラクターが動くとなると……。


「ドワーフ氏族は2つに分裂している事にしましょう。お互いにお互いの司法組織は手を出せないし、うっすらと敵対しているので、片側の者が相手側に入って捜査も出来ない。中立であるプレイヤーキャラクターだけが捜査する事が出来る。と、いうのはどうです?」

「よろしい」


 にっこりと、満足そうにエルフ師匠が頷いた。

 まあ大筋は、これくらい詰めておけば十分だろうか。


「後は細かい部分だね。何かこう、入れて欲しいシチュエーションとかはあるかい? 唐突なのでもいいよ」

「それじゃ、ゴルンのお宅拝見的なイベントが欲しいです!」

「ラッシュとしては、盾の方をなんとか出来ませんかね」

「【黒魔法】いっぱい使いたい」

「経験点いっぱい欲しい」

「はいはい。要望は聞くだけは聞きますよー」


 次々出てくる要望わがままをノートに書き写す。

 はてさて、この中のどれだけ使う事になるのやら。

 一つくらいはシナリオの参考になるのがあればいいんだけれど……。

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