セッション1-7 エピローグ
「【
【白魔法】は神霊や光のエレメントの力を行使する魔法で、治療や浄化に加えて、レーザーや雷撃と言った強力な単体攻撃を扱う。
その中で、【
序盤中盤にかけてのパーティの生命線であり、【魔法使い】の最大の役割だと言ってもいい。
その重要さの割に、必要とされる【魔力】リソースは少ない。
【魔法使い】が攻撃回復両方を行わなければならないから、というのが一番の理由なのだけど、もう一つ理由がある。
「そしてシュトレゼンは48時間以内に3時間の礼拝か、相当する善行を捧げる事」
そう。【白魔法】は【魔力】と共に礼拝や善行と言った行動リソースを必要とする。
これが、日をまたがない単発シナリオだったら使い放題と言ってもいいのだけど、キャンペーンなんかになると、面白い事になっていく。
礼拝時間が足りなくて、【白魔法】が十分に使えない状態で冒険開始とか。
礼拝代わりに託宣と言う名の強制シナリオが始まったり。
プレイ中の行動にも逐一ゲームマスターが干渉出来るようになる。
酷いゲームマスターになると明らかに即死トラップが待っている場所に、泣いている子供とか出して。
『神は言っている。あの子供を助けに行け』
とかもやる。
というか、公式シナリオでそんなのもあった。
あれは酷いと思った。
酷いですよ公式さん。
とは言え、フレーバーとしても、ゲーム進行にも重宝する設定で、俺がゲームマスターをする時にも活用させてもらったものだ。
「それじゃゴブシャーマンを簀巻きに。早く~」
「はい。ララーナの行動順で簀巻きにします。ラッシュごと」
「オレごとかよ!」
「文句言わない。まとめて簀巻きにすれば、逃げられる危険もないでしょう」
「そうだね。では、手持ちのロープでグルグル巻きに出来た」
多分、厳密に言うとこの辺、判定が必要なのかもしれない。
でもまあ正直、このシナリオのヤマはもう終えている。
後はニュアンスでも、誰も文句は言わないだろう。
「そいじゃあ、残りはワシに任せてもらおうかい」
「えと……まずお姫様を助けて……」
「後、ゴブリンシャーマンも魔法陣の外に持ってった方がいいな」
「じゃあ、ラッシュごとロープで引っ張って」
「痛い痛い。床で擦れる」
皆、リラックスした様子で適当に話を始める。
空気はすでにエピローグだ。
まあ実際、ここで事故って全滅とかは無いだろう。
「……アミュレット」
おけさんがぼそりと言った。
「あ、そうか。まずはゴルンの持ってるアミュレット入りの小箱を……」
「シュトレゼンに持ってもらおうぜ。なんか、ゴブリンシャーマンとかお姫様に近づけると、良くなさげ」
むにむにさんとラッシュ君の言葉に、エルフ師匠は聞こえるように舌打ちをする。
「かしこい」
一言つぶやきにやりと笑う。
「怖っ! この人怖っ!」
「すっかり油断してました……じゃあ、アミュレットはシュトレゼンにお願いします」
「じゃあ、アミュレットが魔法陣から離れると魔法陣の光が完全に消える」
「その間、ワシはゴブリン4体と死闘をしてるんじゃな」
「判定なしで勝利でいいよ。そっちは」
「くー! ドワーフの斧の鋭さ、その身をもって味わうがいいわ~!」
ブンブンと斧を振り回すジェスチャーをしてみせる。
「はい勝利」
にべもなく言うエルフ師匠。ちょっとしょんぼり。
「なんか味気ないのぉ」
「それで、ゴブリンシャーマンはどうしましょうか?」
「魔法陣が消えたって言っても、ここでシメるのもなんか危ない気がしない?」
「ゴブリン語が分かるシュトレゼンは分かるんだけど、ゴブリンシャーマンは『先に散った仲間よ済まぬ』みたいな事を言ってる」
「口も塞いでおこう」
ゴブリンシャーマンの口を塞いで、それから一つ前の部屋に戻る事にした。
「ここで仲間と一緒に弔ってやるのはどうじゃ?」
「そうだね。なんか武人っぽいし」
「目的とか尋問しなくていいですか?」
「口を割りそうに無いわい。それに、拷問でもしようものなら、シュトレゼンが止めるじゃろ」
こういう時に【白魔法】の強制力がものを言う。
「神は言っている。勇士には相応しき最期を。2時間分の礼拝に相当」
エルフ師匠の宣言で、結局そうする事になった。
「それではシナリオ終了です。全員に所定の経験点を与えるので、各自レベルアップ等をしていて下さい。その間にエピローグを語ります」
貰った経験点は全員レベルアップ出来るくらい。
成長の遅い【エルフ】のララーナはギリギリの数値だ。
これからこのキャラクターを使用し続けるなら、段々とレベル差はついていく事だろう。
まあ、それはそれで楽しいんだけれども。
「さーて、スキルは何をとるかなー。【盾使い】予定だったけど【格闘】もいいな」
「ララーナは【弓使い】一本伸ばしと決めました」
「ワシはどうしたものかのう。【盾使い】を0レベルで取るのも良いが……」
「…………」
無言で【黒魔法】を2レベルにするおけさん。
悪魔や魔神、闇のエレメントを扱う【黒魔法】は、呪いを主に扱うが、他にも幻術などの精神制御系の魔法も範囲に含まれる。
そう言えばおけさん、昔から幻術系の魔法が好きだったなぁ。
レベルアップの瞬間はやっぱり楽しい。
ワイワイガヤガヤと、お互い何をやりたいか、セッションで足りなかった部分は何かを話して、誰が何を強化するかを決めていく。
そんな中、エルフ師匠が咳払い一つ。
エピローグをすらすらと読み始める。
「程なくお姫様は目を覚ました。ゴブリンシャーマンの【黒魔法】で眠らされていたらしい。この国……と言っても地方領主みたいなものなんだけれども……は代々アミュレットを保管していて、闇の勢力からアミュレットを守る他、もしもの時にはそれを有効活用する義務も持っていた」
「なんだか壮大はストーリーが始まりそうな予感ですね」
「勇者になっちゃったりするかな、オレ達」
エルフ師匠の卓なら勇者になります。
この卓が続けばになるけれど。
「そんな中。聖都でアミュレットを必要とする事態が発生した。と言う事で、当主の名代として、このお姫様。名前はエレンデルね。がアミュレット他一式を持って旅立つ事になった。しかし、その情報は闇の勢力にも知られていた。突然の襲撃を受けて護衛は全滅。襲撃者もゴブリンシャーマンとその配下4人を除いて全滅。ゴブリンシャーマン自身も深手を追う」
「それで、近くのゴブリンの巣にゴブリンシャーマンが匿われた所を、俺達がやってきた。そんな所っすか」
「そう。タイミングが遅れれば大変な事になる所だった」
となると、世界を救ったのは封印用の指輪をチョロまかしたゴブリンになるなぁ。
まあ、そういう皮肉な展開も好きだからねエルフ師匠。
「人里まで戻って、報酬を受け取って。それからエレンデルは改めて君たちに依頼する。『聖都までの道のりの護衛をどうかお願いしたい』」
「壮大なキャンペーンの始まりって感じだなー」
「本格的ヒロイック・ファンタジーの導入ですね」
喜ぶむにむにさんとラッシュ君。
いかにも大上段のファンタジーは、彼らの世代には逆に新鮮なのかもしれない。
そうでなくても、やはり物語の主役になると言うのは、こころ踊るものなのだ。
「……神は言っている。『エレンデル姫を聖都に届けよ』と……」
勝手に託宣を受けているおけさん。
しかしちょっと待って欲しい。
「え、続くのこれ?」
これはコンベンションの卓で。
コンベンションは基本、一期一会のものなのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます