エルフ師匠のマスタースクリーンのむこうがわ
はりせんぼん
セッション0 ~豪腕導入~
ぴろりん。
間抜けな電子音がした。
初めて携帯電話を持った時から使っているメール着信音。
ちょっとなんとかならないかと、よく言われるが、二十年以上使っていると、今更変える気にもならない。
たまの休日。婚活サイトのデートの約束。
一月前から用意していた休みの予定は、今さっき幻のようにキャンセルとなっていた。
正直、当日ドタキャンはやめてもらいたかった。
百歩譲って、当日ドタキャンでもいいけれど、せめて自分から連絡はして欲しかった。
ダメだな。次無いな、これは。
まあ、そんな訳で急に暇になってしまった休日の昼下がり。
この日のために下ろしたスーツにシワが寄る前に、さっさと家に帰るかと。
そんな事を思っていた時のメールだった。
「何だよ。休みに仕事のメールすんなって……ん。エルフ師匠が何で?」
取り出したスマホの画面には、酷く懐かしい名前があった。
エルフ師匠。
俺が携帯電話を初めて持った頃、同じサークルにいた先輩だ。
皆からエルフさんとか、エルフ先輩とか呼ばれていた人だった。
師匠とか弟子とか、そう言うのはあまり好きではないと言っていたエルフ師匠を、俺が勝手に師事していた。
就職してサークルに通うことも無くなって、以降ずっと、エルフ師匠との連絡も途絶えていたが……。
『貴方が暇を持て余していると、先輩から久しぶりのメールが来た。メールの内容は『すぐに助けに来て欲しい』。君は親愛なる先輩を助けるため、かつて通った公民館に向かう事にした』
豪腕マスタリングで知られたエルフ師匠だった。
メールの内容も豪腕だった。
状況説明の後に、決断と行動まで決定済みなのは、最近のプレイヤーには嫌われるんじゃないのか?
「まったく。仕方ないな、エルフ師匠は」
そんな事を思いながら、俺はかつて通った公民館に脚を向けていた。
どうせ、暇でもあるのだし。
師匠の呼び出しには粛々と従うのが弟子の役割だし。
何よりだ。十数年ぶりのハンドアウトが下された。
暇だ何だと言い訳も、シナリオに参加するためのフレーバー。
心はすでに、空想の翼を広げて、魔物が潜むダンジョンを目指していた。
これで何かが変わる訳がない。
良くても昔に戻るだけだろう。
心の中で漏れた声は、高鳴る鼓動と腹の底に溜まる熱であっという間に溶けて消えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます