ボクとクロネコの攻防
【聖女フローレンス騎士団】【ダークデスウィングエンジェル零式】【ハンドオブミダース】の三クラン連合部隊は事実上壊滅した。壊滅、とは言っても死んではいないので再挑戦自体はできるだろう。そしてフローレンスさんを始めとして、この三クランのメンバーにはその気骨がある。
だけどその際にはメンバーの変更があるだろう。今回は
だけど、それは
(再挑戦してきたときに、音子ちゃんがそれに含まれる可能性は……あまり高くはないかも)
あてずっぽいだけど、そんな気がする。おそらく次は火力重視で編成し、再挑戦してくるだろう。音子ちゃんの隠密&情報収集能力が高いとはいえ、作戦そのものに情報収集役の重要性が低いのなら、それに特化した音子ちゃんは外される可能性は低くはない。
故に、この瞬間が最後のチャンス。戦闘部隊を崩壊させ、
(……まあ、本当なら戦闘のさなかに『命令』解除する予定だったんだけど)
戦闘中に音子ちゃんが影から潜んでくる可能性は、あった。なので当初は戦闘をできるだけ長引かせて、相手の罠に突撃し、できるだけ音子ちゃんを誘って捕まえる予定だった。なのに三クランを倒してしまい、そのチャンスは今この瞬間しかなくなってしまった。
…………なんでこうなったかって、
うん、まあ、その。ちょっと調子に乗って暴れすぎました。
だってこいつら強いんだもん! そりゃきゅんきゅん来ちゃうよ!
(おおっと、それはもう仕方ないや。反省終了。棚上げ棚上げ。
来るなら、そろそろ――かな)
ふう、とため息をつく。
(――来た)
こちらがわずかに気を抜いた隙を逃さず、それはやってきた。前回の反省を生かしてか、真後ろではなく
踵を二回叩く。ブーツからダガーが飛び出て、同時にいるであろう場所に蹴りを放つ。前回と同じ展開。タイミングもばっちりだ。
だけど、蹴りが当たった感覚はない。当然だ。音子ちゃんはダガーブーツの事を知っている。前回と同じ展開だからこそ、それをよけることなど容易い。『そこにいるだろう』ではなった攻撃など、来ると分かっている音子ちゃんからすれば避けて当然だ。
背後を取られる。その瞬間に前に出て振り返った。体を右にひねりながら踏み出し、二歩目で180度回転する。だけどそこには誰もいない。攻撃されて逃げていった――わけがない。
背後を取られた。後頭部から数センチ離れた場所に、フィラデルフィアの銃口の気配を感じる。明確な殺意が
だけど、それはないと判断したのだろう。今までの
(あ。本気で感動した。ダメダメダメダメ、まだ泣いちゃダメ! 我慢だよ、ボク!)
あふれそうになる感情を必死で抑え込む。このまま撃たれて死んでもいい。それがこの子の糧になるのなら、それでもいい。そんな気持ちが一瞬だけもたげてきた。あの日偶然出会って、一緒にクランで狩りをして、そんな音子ちゃんだからこそ許してしまいそうになる。
だけど、ダメ。泣くのも、殺されるのも、まだ早い。
(確実に、背後を取るからこそ)
フィラデルフィア・デリンジャーは『相手の背後を取る』ことが条件だ。だから
(仕掛けられる罠がある)
何度も何度も訓練した手つきで、スマホを操作して背後に入る音子ちゃんに画面を見せる。音子ちゃんが
流れる動画は『命令』解除のプログラム。その色彩と音声が『命令』を解除する。
問題は、時間だ。『命令』解除は動画を見せてすぐではない。何秒かこの動画を見せる必要がある。そして音子ちゃんが引き金を引くのに、一秒も要らない。だからこの罠は失敗する。
「『偽典・バステト』はまだ持ってる?」
背後にいる音子ちゃんに語り掛ける
『命令』解除に必要な数秒を会話で稼ぐ。苦しいけど、これでだめなら――
「クランハウスで餌をあげてたネコはまだ元気かな?
最初は、それだけのつもりだった。苦肉の策。数秒程度話を聞いてくれればいいな、ぐらいの。
「そういえば背、伸びたね。半年で結構背が伸びるんだ。成長期?」
最初はどう時間を稼ごうかと悩んていたけど、気が付けば言葉はあふれていた。
「すごいよね、足運び。今後ろに回ったのもそうだけど、その前のもわかんなかった。本気で殺された、って思ったもん」
口は止まらなかった。言いたいことが止まらなくて、堰が切れたようにしゃべりだす。
「向こうのクランで虐められてない? フローレンスさん改心したみたいだけど、なんだかんだで人使い荒そうだし……あ、ボクもか。あはははは」
止まらないのは言葉だけじゃない。感情も止まらない。
「ちゃんとご飯食べてる? 遠慮しないで好きなもの食べないとダメだよ。ネコにいいものあげて自分は食べないとか、音子ちゃんやってたし」
聞きたいこと。言いたいこと。それがたくさんあふれてくる。
「友達出来た? 隠密部隊の仲間とうまくやれてる? 困ったことされてるんならいつでも言ってよね。言っても
喋ってないと崩れそうなテンション。だけど、それももう限界で。目からは涙が止まらなくて。
「元気に……音子ちゃんが元気で……もう、それだけで……よかった……!
ありがとう……。ありがとう……」
涙を拭きながら、何とか言葉を放つ。『命令』解除の動画はすでに再生が終わっている。
フィラデルフィアの銃口は未だに
銃口を向けたポーズのまま、音子ちゃんは動かずにいた。
「……洋子おねーさんは、泣き虫ですね」
小さく、
「ごめんなさい、忘れていて、ごめんなさい。音子、洋子おねーさんの事、ずっと忘れてて。あれだけ一緒に戦って、あれだけ尊敬していたのに。音子は……」
「……うん、ごめんね。ごめんね……」
鳴きそうにしゃくりあげる音子ちゃんに、
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