ボクは探偵キャラじゃないんだよね
カオススライムが崩れ去り、静寂が訪れ――
「貴方、何者ですか!? 説明しなさい!
そもそも『私を躊躇なく殴った』というのはどういうことですか!」
フローレンス(本物)が
「うーん。説明はするから落ち着いてくれない? そりゃいきなり自分と同じ姿をした人が現れて混乱するのは分かるけどさあ」
殴りたい衝動を押さえながら、落ち着くように言う
「……ふ、確かに懺悔の言葉を聞くのも聖女の務め。死にゆく者にも慈悲を与える。これこそが聖女たる余裕!
さあ、聖女に仕える精鋭部隊【聖女フローレンス騎士団】! さあ皆の者! 私が誰だか言ってみなさい! 特別に、称えることを許しましょう!」
「我らが聖女フローレンス・エインズワース。天から神の声を授かった至上の歌姫にしてこの不浄の世界を払うために降臨された天使!」
「あらゆる美を凌駕する最高級の乙女にして、死を超越した存在に鉄槌を喰らわす戦乙女! その鼓舞に、全ての男は奮い立ちます!」
「嗚呼、聖女フローレンス! その名は希望の旗! 絶望の淵に立つ我らを立ち上がらせる希望の姫! そう、我ら騎士団はフローレンス様と戦うために生まれた運命の戦士!」
…………うわあ、やっぱり流れで殴ってもよかったのかもしれない。
称えられて落ち着いたのか、騎士団も聖女様もこちらの話を聞く空気になってくれた。いいんだけど、なんか釈然としない。
ともあれ、
「『
「人の姿をコピーするゾンビ?」
「……にわかには信じられないが、あのフローレンス様を見てしまった以上は……」
話を聞いた者達の反応は、概ねそんな感じだった。全てを信じることはできないが、見た事実は否定できない。そんな顔だ。
「あの歌声は確かにフローレンス様と同じものだった。あの奇跡まで真似ることが出来るとなると……」
彼らがあのフローレンスを偽物と断言できなかったのは、カオススライムがスキルまでコピーする事が原因だったようだ。
自分が取り込んだフィールド内に居るハンターのスキルを同レベルでコピーして、会話記録をみてその当人が言いそうなことを言って他人を騙す。それも複数名。いやホント凄いとは思うよ。
――逆に言えば、この騎士団は聖女様のことをスキルでしか見ていなかった、ということになる。
「ふん。ですが先ほど首を切って倒したのでしょう? ならこのバカげた騒動も終わりですわ」
「残念だけど、あれは本体じゃない。カオススライムの体の一部のようなもので、まだコピーは生み出せる。ノーダメージではないけど、まだ終わってないよ。この騒ぎを収めるにはその本体を倒すのが一番なんだけど……。
問題はそれがどこにいて、誰に化けているかが分からない事なんだよね」
これが厄介なのだ。
カオススライムを倒すには、本体を叩くしかない。だけどその本体がどこにいるのかがレーダーではわからない。そもそも移動もままならない状態なのだ。
「ならどうすればいいのですか!? 敵か味方かもわからない状態で、敵か味方かもわからない相手と戦い、偶然それが敵の本体であることを願うしかないと言う事なのですか!?」
フローレンスが
「そんなことないよ。対応策はいくらでもあるさ。
例えばこの子の持つ<オラクル>とかね!」
「いあいあいあいあいあ、あの、あの……すみません、ご紹介にあずかりました<オラクル>使いです」
唐突に話を振られて、キョドった自己紹介をする音子ちゃん。
「カオススライムの妨害は<オラクル>には通用しないからね。ランダム移動はどうしようもないけど、移動先にカオススライムが変身したハンターがいるかいないかはわかるよ」
「どれが変身したモノかは、分からないのですか?」
「そこまでは。でもそれだけでも充分じゃないかな」
カオススライムの厄介な所は、『いる』か『いない』かが分からない所だ。敵か味方かが分からない状況で『いない』ことが分かれば安心できるし、『いる』なら心の準備が出来る。
「はっ、その程度で対応策? つまらない」
だが、聖女様はそれを切って捨てた。
「大方、この私に売り込んで騎士団の地位を得ようとする詐欺なのでしょうが、この知識溢れる私には通用しません!
ああ、そのなんとかとかいうゾンビの情報はありがたくいただきましょう。ええ、小銭でしたら幾らでも恵んであげますわ」
「いや。ボクは自分でクランを立ち上げたわけだし、そんな地位要らない……まあ、いいや」
いろいろ面倒くさくなったので、会話を切り上げる
「騙されないように注意するんだね。
それじゃあ、行こう」
音子ちゃんと十条に声をかけ、移動を開始する
「よし、サクッと次行こう。サクッと合流して、サクッと脱出!」
「いいのか? 連中と協力すれば数で探すこともできるぞ。人探しに人海戦術は有益だと思うが」
「要らない要らない。連携が取れない人の手伝いは、この状況だとマイナスだよ。カオススライムに隙をつけ入れられる」
十条の言葉に手をひらひらさせて返す
「合言葉とか決めても、その記憶をコピーされる可能性があるからね」
「成程……。しかし、そうなるとなおのこと敵か味方かわからないじゃないか。さっきみたいに殴って確かめるしかないじゃないか」
「……あのねぇ、ボクをバス停で殴る脳筋キャラだと思ってる?」
「まさか。ユーのことはバス停で殴って解決する人の言う事を聞かないナルシストキャラだと思ってるぞ」
「酷いな、キミ!」
ツッコんだ後にため息をつき、言葉を続ける。
「聖女様二人のうち、片方がこういってたよね。『私の身体を真似て何をなさろうとしているのですか!』って。
体を真似るなんて、カオススライムの特性を知らないと出ない言葉なんだよ」
突然自分と同じ姿をした者が現れた場合、どう思うだろうか?
先ずはありえないと否定して、だけど否定もできない現実を受け入れるしかない。ならこの現象はどういうことなのだろうか? 誰かの変装? 薬物による幻覚? 唯似ている人? ドッペルゲンガー? 様々な可能性をよぎるだろう。いきなり『自分の姿を真似た』と断言はできないはずだ。
そもそもフローレンスのあのヒステリックな性格を鑑みるに、冷静にそこまで判断が出来ていたかさえ怪しい。
「なので、偽物はあの瞬間に分かってたんだよ」
「あ、あの。じゃあ両方殴るつもりだったとかいうのは、どう言う事なんですか?」
「…………ノリ? いや、音子ちゃんの件で本当にあの聖女様にはムカついてたし」
いやまあ、誤魔化しているように見えるけど半分はノリだ。
残り半分は、何でバレたかを教えると警戒されかねないからだ。相手に隙があることを教えてやるほど、僕は親切でもない。
「あ、その気持ちは嬉しいですけど、その、洋子おねーさんが悪く思われるのは、音子は嫌です」
「もー、音子ちゃんは可愛いなあ」
「音子は可愛くなんか……えへ、えへへへ」
思わず音子ちゃんの頭を撫でる
「繰り返しになるけど、サクッと合流して、サクッと脱出だ!」
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