ボクもハンターゲームに参加しようかな
バス停。ブレードマフラー、橘花学園の制服、スニーカー。バックの中には抗ゾンビ薬入りのジュースパックが三個ほど。
「よし、準備完了!」
久しぶりのゾンビハントスタイルだ。福子ちゃんもミッチーさんもいつもの格好である。
「バ……バス停?」
ちなみに音子ちゃんの格好は隠密重視装備だ。闇に紛れる黒フードと黒い布マスク。フードがネコミミなのが音子ちゃんらしい。武器らしい武器は拳銃ぐらいだが、それを使わないようにするのが隠密及び探索系だ。
「えーと、カッコいい……素敵……強そう……洋子おねーさんらしい武器ですね」
色々言葉を選んだ後に、そんな言葉を返す音子ちゃんであった。
「ふはははは。このボクのバス停にかかれば、どんなゾンビも死亡確認!」
「ゾンビは元から死んでいますけど」
「っていうか、そのことわざは『あとで復活する伏線』デスヨ」
胸を張る
「そろそろ<
「<
「そこまでしなくていいですわよ、音子さん。役割分担は大事ですから。隠密と探索、よろしくお願いしますね」
「はい。福子おねーさん」
「あ、こっちこっち……って、キミかよ」
やってきた人物に
「失礼だな! ミー以外に誰も引き受けないからこうなったのだ! むしろミーは被害者だぞ!」
<
前回<
「被害者?」
「そうだとも! 【
「同罪って……別にボク等悪いことしたわけじゃないし。それはキミも見てただろう?」
「世間はそうは思わないんだよ! SNSとか見てないのか!」
十条の言葉に肩をすくめて首を振る
ハンター関連のSNSは先のナナホシ襲撃で荒れていた。
で、その感情の矛先がどこに向かうかと言うと……『その場に居たのに何もしなかったクラン』で、しかもそのクランが『ナナホシをあと一歩まで追いつめたけど逃げられた』と言い張ったのだ。
その反応がまー、すごかった。
「罵詈雑言の嵐だったね。臆病者とか嘘つきとか書かれてたし。ここぞとばかりに不満と不安をぶつけられたよ。ナナホシの件で皆ストレスたまってたんだろうね」
「なんで他人事なんだよ!? ミー達の話だろ!」
「だってあまり見てないから。直接何かしてくるわけでもなさそうだし、放置してた」
言って頷く
「ま、チェンジ出来ないなら仕方ないか。今回もよろしく」
「できれば今回で終わりにしたいものだ。ミーもとっととハンターに復帰してクランを立ち上げたいんでな。そしてクランハウスでスローライフを過ごすのだ!」
ゾンビアポカリプスなゲームでそれは無理設定じゃね? と言いかけて――やめておく。ゲームの楽しみ方は人それぞれであるべきだ。少なくともルールを守っている限りは。
……まあ、もうこの世界をゲームと思えなくなっている僕がいるんだけど。
なので別のことを言ってやった。
「ま、これまでのお礼にチェンソーザメを狩るのに付き合ってあげてもいいよ」
「断る」
「速攻で断られた! なんでだよ!?」
「だってバス停だし」
さ、差別だ! そんな
「普通の反応と思いますけど……いえ、ヨーコ先輩が悪いと言うわけではなく」
「十条チャンのプライドからすれば、バス停に助けられたとか受け入れられないデショ」
「エヘ、音子は、かっこいい、かっこいい? すごいと思うですよ。エヘ、エヘヘへ」
素で答えた後でフォローを入れる福子ちゃん。遠回しにバス停カッコワルイと言っているミッチーさん。何かを誤魔化すように笑う音子ちゃん。
そして三人とも、微妙に
「まあそれはともかく!」
これ以上何かを言っても、適当に受け流される。その空気を察して無理矢理話を切り替えた。戦略的撤退は早いに越したことはない。
「世間がどう思おうと、ボク等はボク等のペースで行くだけだからね。ナナホシの件は撤回するつもりはない。あれはボク等がギリギリまで追い込んだから、逃げたんだ。
今回の下水道もうっとうしいけど、ここでハンター協会に逆らっても面倒にしかならないからね!」
実際のところ、色々しがらみとかが鬱陶しいのでクランを解体して自由に暴れたい、という気持ちがないわけでもなかった。
ただ――
「? どうしたんです、ヨーコ先輩」
「熱い視線を向けて、イヤン。照れるデス」
「えへ」
「……別に」
気が付くと福子ちゃんとミッチーさん、そして音子ちゃんの方を見ていた。
うん、本当に何でもない。ただ自由よりも大事なモノもあるんだと思い直しただけだ。
「それじゃ、行くよ! 【バス停・オブ・ザ・デッド】出発だ!」
言って
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その名の通り、この御羽火島と日本本土を繋ぐ港の下水道だ。前にサファイア号に向かう時に降りた『湾岸センター』駅から歩いてすぐの場所に港がある。港自体は船もなく閑散としており、下水道まではゾンビに出会うことなく行くことが出来る。
「それじゃ、復習と言うか再確認。
下水道に出るゾンビは港の職員がゾンビ化したもので、際立った特徴はない。強いて言えば学校周辺よりもタフなぐらいだ」
実際、特徴らしい特徴は何もない。ただ数が多いのでパニックに陥らなければ問題はない。
「数が多いので広範囲にガスを撒けるミッチーさんは結構有利かな」
「ですね。いいハンデです」
「言ったなコウモリの君」
「ただ地形がいろいろ入り組んでいるので、ある程度自動追尾してくれる福子ちゃんのコウモリも不利じゃないかな」
「フフン、バス停の君にここまで言われて負けたら、赤っ恥ジャネ?」
「ええ、今のうちに言ってなさい。結果が全てです」
「もー、ギスギスしない」
始まる前からけん制しあう福子ちゃんとミッチーさん。喧嘩しているというわけではないし、むしろある程度仲がいいからこその競争心なんだけど。
「あんなの遊びなんだから」
あんなの、というのは前に言った約束と言うかゲームのようなものだ。
『狩り勝負をして、勝ったものが何か命令できる』
そんな適当な勝負事。それを聞いた二人は妙にやる気を出したのだ。
「(勝ってヨーコ先輩と……清く正しいお出かけデートを、でも先輩が望むなら福子は……!)」
「(リアルにバス停で貫いてもらうね……! あるいはエロい命令して、堪能するのもイイネ!)」
二人の願いを前もって聞いた方がいいのか、聞かない方がいいのか。いろいろ迷ったけど、気にしない事にする。だって、
「まあいいや。ボクが勝てば何の問題もないし」
「「……………………は?」」
何とはなしにつぶやいた言葉に、福子ちゃんとミッチーさんは固まった。
「え? ボクも参加してもいいんでしょ。
あ、二人だけの勝負にする? じゃあボクは無関係。勝っても命令しないけど命令されないってことで――」
「だ、駄目です! ……いえ、ヨーコ先輩が参加するとかなり勝ち目は薄いのですが、それでも駄目です! ヨーコ先輩も勝負の対象です!」
「ソウネ! そりゃ、バス停の君のガチ狩りとか勝てる気しないけど、無関係はノーよ! レッツ関係者! カモンカモン!」
必死になる二人。参加してほしくないけど参加してほしい。そんな風に感じる。
よくわからないけど、参加した方がいいようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます