ボクらは新しい仲間を迎える

「新しいクランメンバー……ですか?」

「ワオ! キュートなガールデスネ!」


 音子ちゃんを連れて帰った洋子ボク。それを出迎えた福子ちゃんとミッチーさんの反応はそんな所だった。


「うん。櫻花学園の音子ちゃん。いろいろあって【バス停・オブ・ザ・デッドここ】に入ることになったんだ」

早乙女さおとめ音子おとこです。バ、バステト様を信仰しています……よ、よろしくです。エヘ、エヘヘヘヘ……」


 言って頭を下げる音子ちゃん。人見知りする性格かと思ったが、笑顔で自己紹介を行った。


「(コウモリの君、小学生相手にヤキモチはしてないデスヨネ?)」

「(し、しませんよ。さすがに……)」


 ミッチーさんと福子ちゃんがヒソヒソ話しているけど、よく聞こえないので置いておこう。


「で、この子何が出来るんデス? あまり戦えそうにみえないんデスガ?」

「はい、音子は隠密と索敵が、できます。エヘ、エヘヘヘヘ……」


 隠密系。音を殺して先行し、マップの先を確認する役割だ。ゾンビは音と臭いを頼りに人間を察知するので、それを断ってマップを先行し、罠を仕掛けたり、高所を取って狙撃してもらったりするのだ。

 で、索敵。早い話がレーダーだ。マップ内のゾンビを調べることが出来る。陰に潜んだり、風景に溶け込んだりしているゾンビも見つけることが出来るので不意打ちされる可能性が大きく減るのだ。


「<オラクル>系なんだ。音子ちゃん」

 

<オラクル>……櫻花学園の生徒が取れるスキルの一つである。神様の言葉を聞くとかそんなので、マップ内のゾンビを全部把握できるスキルである。アイテムを消費すると、隣のマップのソンビも調べることが出来るので、捜索系三大スキルの一つである。

 僕が『知っている』のはマップにどんなゾンビがいるかであって、そのゾンビが『何処に隠れているか』はランダムなのだ。なので確実にわかるのは大きい。

 まあ、大体予測つくけどね。負け惜しみじゃないからね!


「音子は、重たい銃とか使えません。弱いんで……。バステト様に、色々聞いておくです。エヘ、エヘヘヘヘ……」

「バステトって、ネコの神様?」

「はい! ネコの神様です。ネコいいですよね。本当はおねーさんみたいに光華こうか学園にはいってネコになりたかったんですけど、遺伝子の問題で無理だって言われて。でもそんな時にバステト様の声が聞こえてきて、でも音子は要領が悪いからうまく聞き取れなくて、そんな時に『偽典・バステト』をいただいて声を聴くことが出来て!

 ……はっ、あの、すみません。つまらない話ですよね。忘れてください。エヘ、エヘヘヘヘ……」


 福子ちゃんの質問に急にまくしたてる音子ちゃん。その後に我に返って小さくなる。


「い、いえ。その好きなものになると話が弾むのはよくある事ですし」


 落ち込む音子ちゃんに声をかける福子ちゃん。


「うんうん。福子ちゃんもあーでるもーどに『入っちゃう』と割とまくしたてるもんね」

「自分に浸った時のヨーコ先輩に比べればまだマシです」

「そーそ。好きだから熱くなるネ。なので気にするのナシヨ」


 なぜかミッチーさんが流すように手を振って、この話をしめて終わる。微妙に納得いかないけど、まあ長く続ける話でもないので何も言わないでおく。ボクが可愛いのは真理だし。


「でもまあ、入ってもらったのはいいけどしばらくはゾンビ狩りできないんだよね。濡れ衣っぽい疑惑を受けて――」

「あ、その件ですが進展がありました。

 御羽火おうか港の下水道に発生したゾンビ退治を手伝えば、罰則を撤回してくれるそうです」


 言って椅子に座る洋子ボクに、福子ちゃんがそう告げる。そのまま渡してきた書類に目を通した。


『(前略。日にちとか組織名とか挨拶とかそんなものが書かれた後に)


【バス停・オブ・ザ・デッド】の諸君らに置かれましては先のナナホシ襲撃の際に他クランを見捨てた容疑あり。されどナナホシの脅威および情報を伝える重要性の高さ、さらに己が臆病を認めて罰を受け入れた様子もあり、反省の意ありとみなす。

 よって御羽火港下水道にて発生しているゾンビ駆逐作業一週間をもって、発足の終了とする。


(後略。組織の意向に感謝しろとか、そんな感じのしめ文章と印鑑とかそんな感じ)』


「……下水道かぁ……」


 御羽火港下水道。ありていに言えば『効率の悪い狩場』だ。ゾンビの数は多いけどドロップアイテムは目立ったものはなく、特定のボスゾンビがいるわけでもない。地形も起伏に富んでいて気が付くと逃げ場がなくなるなんてザラである。

 なので『AoDゲーム』でもあまり人がいない狩場だった。そこに一週間行けと言うのか。


「嫌そうですね。ですけど、現状選択肢はありません」

「そうネ。これ断ったら難癖付けられてクラン活動をさらに制限されそうデスヨ」

「だよねー」


 うー。組織ってメンドクサイ。


「……? よくわかりませんが、おねーさんたちはハンターできるんですか? できないんですか? あ、音子はどちらでもいいです。できないなら、お掃除とかお料理とかしてますね。エヘ、得意なんです。前のクランでは良く教えられましたから」

「前のクラン? 音子ちゃん、クランに入っていたの?」

「はい。その、【聖女フローレンス騎士団】って所です……。追い出されましたけど。エヘ、エヘヘヘ」


【聖女フローレンス騎士団】……名前から察するに櫻花学園しゅうきょう系かな?


「ああ……聖女フローレンスですか」


 福子ちゃんはうんざりとした表情でため息をついた。


「知ってるの、福子ちゃん?」

「はい。聖女を名乗っているフローレンス・エインズワースを中心としたクランです。彼女に従う多くの人間で構成されていて、クラン規模は3000を超えるとか」


 おー。結構すごい。

 クラン規模は所属するハンターランクの総数なので、低くともハンターランク30代が100名(クランメンバーの最大数)になる。かなりのモノだ。


「カミラお姉様シュヴェスターも一度お誘いを受けたみたいですが……あまりの独善性に断ったそうです」

「どくぜんせい?」

「よーするに、自分に従わない者は即排除。自分を褒めたたえない者は即断罪。自分の意見に従わない者は即私刑。日本のことわざでいう所のオタサーの姫ネ」

「音子、頑張って家事したんですけど、駄目でした。フローレンス様とネコ、どっちを選ぶのかって言われて、ネコって言ったら……駄目ですね、音子。エヘ、エヘヘヘ……」


 笑いながら顔を下げる音子ちゃん。


「あ、大丈夫です。次は間違えません。音子はおねーさん達が大事って言います。だから見捨てないでください」


 そして、笑顔のまま洋子ボクらにそう告げる。

 そこにどんな過去があって、どんな意図を込めて笑っているのか。そこまでは理解できない。こうして笑うことで、音子ちゃんは何かを誤魔化してきたのだろう。

 その笑顔の裏にある本当の表情かおは分からない。安易に理解した、なんて言えるはずがない。


「え? いいよ別に」


 だけどまあ、そんなことはどうでもよかった。

 分からないけど、それでも確かなことはある。


「………え?」

「え? だってネコ好きなんでしょ。だったらそれでいいよ」


 好きという気持ちを、我慢しちゃいけない。嘘をついちゃけない。

 だって僕は洋子ボクが好きで、それに嘘つけって言われたら絶対許せないし。だからそういう気持ちを間違っているなんて絶対に言えない。


「だよね?」

「はい。私もネコは好きですよ。コウモリの方が好きですけど」

「ワクチン接種とダニ駆除はした方がいいデスけどネ。野良猫は危険ヨ」


 福子ちゃんとミッチーさんに確認すれば、ノータイムで頷いてくれた。


「え、あ……ああ、いいんですか? ネコ好きって言って。それでも、置いてもらえますか?」

「むしろ居てほしいかな? 探索役がいると助かるし。勿論音子ちゃんがイヤじゃなければなんだけど」

「は、はい。音子、頑張ります。ありがとうございます……!」


 泣き出しそうな顔で頭を下げる音子ちゃん。


「大丈夫ですよ。ヨーコ先輩は貴方を苛めたりしません」

「ソウネ、安心してクダサイ」

「はい。はい……!」


 そんな音子ちゃんに優しく声をかける福子ちゃんとミッチーさん。

 誘った動機が動機なだけに少し罪悪感めいたものはあるけど、彼女が喜んでいるのならこれで良かった良かった。


「……その、訓練はものすごく厳しいですけど」

「日本のことわざで言う、難易度アルティメットですケド」

「…………あ、かわいがり、あるんですか? 大丈夫、音子、我慢できます。エヘ、エヘヘヘ……」


 そしてさりげなく洋子ボクが苛めるんじゃないかという事を吹き込む二人だった。もー!

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