ボクらVS狗岩+テントウムシ……はぁ!?

「一気に行くよー!」


 その後も洋子ボク等は犬ゾンビを駆逐していく。目的はここに出没するボスゾンビの狗岩だが、未だ出現していないので今は犬ゾンビを狩っていく。

 こういう時はダメージを受けない事を考えて、入り口付近で控えておくのがセオリーだ。事実、他のクランはメインのメンバーは入り口付近で待機している。狗岩登場のサインと同時に、動き出すのだろう。

 だけど、洋子ボク達はそれはしない。それは索敵用のメンバーがいない事もあるが、


「他のクランがいない間にドロップ品とか稼いでおかないとね! あわよくば、武器強化の加工品が手に入るかも!」


 そんな物欲まみれな理由でもあった。

 勿論それだけではない。


「ゾンビを狩るのはハンターの務め。それは大物ではないと言う理由で活動を控える等、笑止ですわ。常に全力で進むのです」

「イエスイエス! 取れる時に取るのは正しいヨ。濡れ手にバブルデス!」


 福子ちゃんやミッチーさん。二人の実戦動作の確認もある。訓練して身に着いた技量がどこまで通用するか。それを体感してもらうのだ。二人は水を得た魚のようにフィールドで狩りを続けていく。

 ……その、僕自身もここまで効果あるとは予想外。本当に追い抜かれそうでうれしいやら怖いやら。


「ホイ! 攻撃見え見えネ!」


 事、ミッチーさんは見違えるぐらいに回避術が高まっていた。チェンソーザメの時は十条の命令もあって防衛に回っていたけど、ここまで動けるようになるとは。


「すごいよミッチーさん! ほぼノーダメージじゃん!」

「当然ネ! こんなのバス停の君の訓練に比べればスロウリー! 挙動見て回避余裕ヨ!」

「ええ。ヨーコ先輩の訓練に比べれば、この程度のフェイントはむしろ猶予時間ですわ!」


 複数の犬ゾンビに過去かれても、パニック一つ起こすことなく対応していく二人。うんうん。大したもんだ。


「……なんなんだ、あいつら。あの数に囲まれて大丈夫なのか?」

「ありえないだろう? <ESPバリア>も<守護天使ホーリーエンジェル>もないのに」


 そんな洋子ボクらを見るクランの人達。彼らの常識から言っても信じられないだろう。自分達の倍以上の犬ゾンビを相手に、苦戦することなく狩りを続けている姿は狩りを知る者からすれば異常だ。数の暴威、犬ゾンビの攻撃速度と連携、それらに自分達の半分以下のランクであるハンターが対応しているのだから。


「おーい、一緒に狩ってく?」


 軽く手を振る余裕すら、洋子ボクにはあるのだ。その呼びかけに、三秒近く躊躇した後に、


「いや。苦戦しているようなら手助けしようと思ったけど、大丈夫なようだな」

「いい狩りを」


 相手が危険な時以外の横殴りはマナー違反。そんなハンターのマナーに従って、彼らは手を振り去って行く。洋子ボクも軽く親指を立てて、彼らを見送った。


「いい調子だね。結構ドロップ品も集まったんじゃない?」

「十条チャン、きちんと運ぶネ」

「わ、分かっている! ……しかしさっきのハンターじゃないが、よく対応できるものだな」


倉庫ストレージ>としてアイテムボックスを背負っている十条が、そんなことを呟く。


「あれぐらい慣れれば余裕だよ。キミも訓練を続けていればできたのにね」

「お断りだ。ミーはあんな変態的な動きなどしたくない。優雅に、そして美しい超能力ハンターを目指すのだ!」


 洋子ボクの言葉に手を振って答える十条。どのあたりが優雅で美しいのかはわからないが、まあそれも一つのスタイルだ。

 そんなことを繰り返しているうちに、村全体に咆哮が響き渡った。


<ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!>


 音そのものが衝撃となって村を揺るがす。同時に月を隠すように犬型の何かが跳躍し、村のどこかに着地した。


「あれが……狗岩。『オウガ』よりも大きいですわね」

「動きもあれの比じゃないからね。それじゃ、行くよ!」

「アイアイサー!」


 狗岩が着地したと思われる地点に向かう洋子ボク達。そしてその方向には、他のクランも向かっていた。


「生き残っていたか、【バス停】」

「逃げ回っていた……わけじゃないようだな」


 並走する他のクラン――【ヴァンキッシュ】のエンブレムを持つ生徒から話しかけられる。洋子ボク達の動きは、先行部隊を通じて知っていたようだ。


「悪いが狗岩は渡さないぜ」

「それはこっちのセリフだよ! 横殴り禁止、とか言わないよね?」

「当然。ハンターのルールに則って、その上で狗岩は【ヴァンキッシュ】が倒させてもらう!」


 横殴り――ピンチの時以外は誰かが戦っているゾンビを殴ってはいけないというルールは、ボスゾンビに関しては例外となる。相手が一体しかいないと言う事もあるが、そうしなければ倒せないほどの強さでもあるのだ。

 で、皆で殴った場合は最もダメージを与えた者がMVP――そのボスを倒した栄光を得られる。具体的にはボス固有のドロップアイテムなどだ。狗岩の場合は『神通石』――高品質な弾丸を作り出せる材料になる。


「MVPアイテムは要らないんだけどね。でも、挑まれたのなら勝つ!」

「ええ。この『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』は如何なる決闘からも逃げませんわ」

「ワクワクするネ!」


 そして洋子ボクらは狗岩が戦っている場所にたどり着く。

 既に数名のハンターが交戦しており、銃声と怒声。そして獣の咆哮が響いていた。面で包み込むように打ち放たれた弾丸を岩の皮膚で弾き、鋭い爪と牙でハンターたちを蹴散らす狗岩。

 ハンターも関節や目と言った弱点を攻めながら、傷ついた人間を後ろの下がらせて第二部隊が前に出る等して対応していた。


「お邪魔しまーす!」


 一応断りを入れながら、狗岩に殴り掛かる洋子ボク。狗岩に接しているのは高重量の盾を持った防御役タンクのみで、近接武器を持って挑むのは洋子ボクぐらいだ。駅名表示板の平たい部分でハンマーのように殴りつける。だってコイツ、斬撃防御めっちゃ高いんだもん。打撃系で攻めるのみ!


「うっは! ヘイトこっち向いたかな!」


 狗岩はこちらに顔を向け――ると同時に爪を振るう。右から二つ、左から一つ。緩急入れぬ連続攻撃。右の一つを転がって躱し、左からの斬撃をバス停で防御する。そして三つ目ともいえる右の攻撃を、バス停を振るって切り払った。


「ほらほら、こっちだよ!」


 言いながら横にダッシュする洋子ボク。ひらりと舞うブレードマフラーが岩の肌を裂く。斬撃ダメージなのでそれほどダメージは高くはないが、『傷つけようとした』ことで苛立ちを感じたのか顔がこちらに向く。そこに、


「これでも喰らうネ!」


 ミッチーさんが近づいて、毒ガスを噴射する。意識がこちらに向いていたこともあり、狗岩はまともにガスを喰らってしまう。鼻先を激しくこすりながら地面を転がる狗岩。だが――


「ミッチーさん、5の方向!」

「ッ! 危なかったね……!」


 悶えながら振るわれる狗岩の噛みつき攻撃。それをなんとか避けるミッチーさん。反応が遅れれば、はらわたを食い破られていたかもしれない。


コウモリのフレーダーマウス戦争・クリーク――」


 そして悶える狗岩に向かって飛ぶコウモリの群れ。言うまでもない、福子ちゃんだ。動きた泊まった瞬間を狙ったのか、待機させていたコウモリも一緒に襲い掛かる。更に、


「――三連ドライ!」


 舞うように奮われる福子ちゃんの剣撃。走りながら命令を放っていたのか、コウモリの襲撃とほぼ同時に剣を振るう。

 うわぁ、眷属使役テイマーの三連攻撃。教えていない事なのに、それを自分のモノにするなんて。


「一を知って十を得る。ええ、当然ですわ。それがこの私、『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』。

 貴方を超えると言う言葉、その誓い。嘘偽りではないと知りましたか?」


 ふふ、と微笑む福子ちゃん。

 いやホント、僕が教えることなんかすぐになくなりそうだ。


<オオオオオオオオオオン……!>


 立ち直った狗岩が跳躍する。状況を仕切り直し、村のどこかに着地したようだ。


「おいおいマジか。【バス停】の奴ら、本当に狗岩を倒しそうだぞ」

「はっ、負けてられっかよ。――おい、狗岩は村長の家近くに行ったようだぜ」


【ヴァンキッシュ】のハンターたちは、洋子ボクに向けて、狗岩が逃げた先を教えてくれた。村中に散ったクランメンバーが場所を教えてくれたのだろう。だけど、それを洋子ボク達に教える義理はないはずだ。


「いいのかい? そんなこと教えると、ボク等が狗岩をあっさり倒しちゃうぞ」

「ぬかせ。【ヴァンキッシュ】を舐めるなよ。むしろいいハンデだ。」

「ハンター権に関しては俺らも思う所があるからな。【バス停お前ら】の存在がいい風向きになればいいとは思うぜ。

 ――まあ、それと勝負これは別だけどな!」

「そりゃどうも!」


 言ってサムズアップする洋子ボクと【ヴァンキッシュ】のハンター。


「ふ、愚かですわね。ですがその正々堂々たる態度は貴族アーデルとして敬意を表しますわ、【ヴァンキッシュ】」

「これが日本のことわざで言う所の『努力・友情・勝利』の三本柱ですね!」

「……まあ、少年漫画っぽい気持ちの良さは間違っていないのかな?」


 首を傾げながら、村長家の方に向かう洋子ボクら。途中襲い掛かってくる犬ゾンビと拳大のテントウムシを蹴散らしなが――

 テントウムシ?


「ひぃ!? ……あうあうあうあう……!」


 巨大ともいえるテントウムシの足の動きに、福子ちゃんが悲鳴を上げる。中二病モードが解除されたのか、素に戻っていた。


「なんだぁ? 戌岩村は犬ゾンビしかいないはずなのに――まさかこいつは」


【ヴァンキッシュ】のハンターも、この異常に顔を青ざめていた。


「『彷徨える死者ワンダリング』――ナナホシ!?」

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