ボクらはいろいろ話し合う
「イエース! できるなら、毎日クランハウス内でバス停に貫かれたいデース!」
クラン加入動機としては如何なものかと思いながらも、実際のところクランに加入したいと言う人がいるのは純粋に嬉しかった。
ちなみにクランメンバー同士で戦うことは可能である。ゾンビ戦と同じようにウィルス神職率が上がり、100%を超えて大ダメージを受ければKOという形式だ。設定的にはそういうVR空間で戦うとか。
「うん。加入は嬉しいかな。ボクらの目的を考えれば、戦術の幅が増えるのは嬉しいし」
サファイア号で彼女の戦闘スタイルはある程度理解している。
「ヨーコ先輩がそうおっしゃるのでしたら、私からは特に」
「? 歯切れ悪いけど、反対意見ある聞くよ。ボクらは同じクランなんだから、蔑ろにはしないよ」
なにか含むような福子ちゃんの言葉に問いかける
「いいえ。戦術云々は同意です。……その、玄関口でいきなり抱きついたりとかは、少しモラル的に。あと先ほど決めたクランのルールに反するかと」
福子ちゃんの言うクランのルール、というのはどちらかと言うとクランハウス内の生活ルールだ。過剰なプライベートの過剰禁止とか過剰なスキンシップ禁止とかそう言う事である。
だってこれ決めとかないと、僕が色々耐えられなくなる! この前の夜のようなことが起きたら、本当にアブナイ。実際、さっきも色々理性が吹き飛びかけたし。
「ああ、確かに。さっきみたいなことはもうしないでね」
「オウ! クランルールは守るデスネ。失礼デシタ!」
言って敬礼するミッチーさん。
「(私の時はあんな反応しなかったのに。確かにあのときは私も寝ぼけてましたけど、反応が違いすぎません? ……やっぱり子供には興味はないのでしょうか……?)」
「福子ちゃんなにか言った?」
「いいえ! まだまだ成長いたします、という決意を、固めたのです!」
唇を尖らせ胸に手を当ててぶつぶつ呟く福子ちゃん。何があったのか聞いてみたら、噛みつくような表情でそう返された。
「ところで目的ってナニね?」
「ええ。私達は今のハンターランク至上主義者に対して意見するために戦っているんです」
ハンターランクが高い人間は優遇されるべし。ハンター以外の生徒はハンターに尽くすべし。
この学園都市の電気ガス水道を始めとしたライフラインや、食料上下水道などの供給は、ハンターが狩ったゾンビの細胞をエネルギーとしている。そして強いゾンビ程、そのエネルギーは多い。
故にハンターがゾンビを狩るからこそ、学園都市は回っているのだ。それは間違いない。その命がけの行為を蔑ろにするわけではない。
だが、それをもって『ハンターに従え』と言うのは違う。ゾンビ細胞をエネルギーに変換する人や、そのエネルギーを供給するために働いている人、食料を作ったり運んだりする人、それら全員が偉いのだ。
「なので、低いハンターランクでもここまでやれるんだ、という事を示すのがボクらの目的なんだ」
「アンビリーバボー! バス停の君、ハンターランクはオ幾つ万円?」
「ミッチーさん、日本語変じゃない? ボクが16で福子ちゃんが15」
「そう言えば、私達のことをなんとかの君とか。古文表現なのはなんでなんです?」
「ワタシに日本語教えてくれた
あー、変な人に教わったんだなぁ。
「ちなみにミッチーさんのランクは?」
「ワタシ、8ヨ」
「……さすがに低すぎません? サファイア号って推奨ランク20ですよ?」
「クローン復活すると、ハンターランクが1下がるので仕方ないデース」
「あー…………」
『
まあそれでも、ランク9でサファイア号に行ったわけである。十条に<ドクフセーグ>を貰ったとはいえ、無謀と言えば無謀だろう。僕みたいにきちんとした勝算があったわけでもないのだろうに。
「一番高い時は20ぐらいありまシタ! でも、『柊華廃病院』でハンマー持った医者に叩き潰されて、その時気付きまシタ!
死ぬの、すごく気持ちいいデース!」
………………ん?
今、聞き捨ててならない事を聞いた気がする。
「ごめん。待って。待ってぷりーず。ええと、気持ちいい?」
「イエース! まさに天にも昇る感覚とはこの事デシタ!」
「実際に魂は昇りかけてますわね、ええ」
「それから、様々なデスを経験しまシタ! 墜落死、感電死、焼死、溺死……ワタシのおすすめ精神的なショック死デス! 日本のことわざで言うSAN値直葬?」
そんなことわざはないけど、それ以前にツッコミどころが満載だった。ツッコむと怖い所を避けて、核心だけをついて問いかける。
「つまり……自殺マニア?」
「ノー! ワタシ、宗教上の理由で自分から死ににはいきまセーン! 危険に挑み、その結果として死亡する。全力を尽くしても適わず、圧倒的な力に心は屈せずとも気高い心を持ったまま破壊される。
アア……素晴らしいデス!」
うっとりとするミッチーさん。うわぁ、変態さんだー。
「そしてこの前はチェンソーザメに殺される経験をした上に、バス停に心臓付近の内臓をざっくり斬られるベストなデスを経験したデスヨ!」
「あー……どうも、って言っていいのかなこれ?」
「やめてください。私に振らないでくださいよ」
「そんなワケで! 自分のランクに見合わない場所へのハンター大歓迎デス!」
ニッコニコしながら言うミッチーさん。
歓迎ムードだった
「まあ、危険な狩りへの反対がないのはいいことかな」
「……そうですね。目的を聞いて委縮しなかったのは、確かに悪いことではないと思います」
思考の末、僕はそう割りきった。諦めのため息とともに、福子ちゃんも同意する。そんな二人にミッチーさんは親指を立てた。
「でも、死にに行くようなことはしないからね。きちんと勝算があることを踏まえて行動するから」
「イエース! 死ぬかもしれないドキドキハラハラ感が長く続くのはオッケーです! 日本のことわざで言う寸止めプレイ?」
「そんなことわざはない!」
ツッコミの手を入れる
「それじゃあ、クラン加入と言う事でこの書類に記入お願いね」
「イエース! ……ところで、この書類3サイズ書くところはドコね?」
「書かなくていいから、そんなこと!」
「ホワッツ? 日本の女性プロフィールは3サイズ必須聞きましたヨ? カップのサイズまで書くこともあるから覚えておけと」
「……誰に聞いたの?」
「ワタシに日本文化を教えてくれた
「その人のことはあまり思い出さなくていいと思うな、ボク」
笑顔で言うミッチーさんに、やんわりと忘れろと告げる。
「ちなみに上から97・60・91のGカップデース!」
「きゅう、じゅう……なな!? G……!」
「確かに、すごい……」
非現実な数字に驚く
あまりの衝撃に言葉を失う僕。その間にミッチーさんは書類を掻き、提出してくれた。記入漏れなどんがないことを確認し、受理する。
「あと部屋なんだけど……まだ掃除中なんでボクの部屋を使って。ボクはソファーで寝るから」
「ノゥ! クランマスターをそんな所で寝かせるわけにはいきまセーン! ワタシ、寝袋あるから大丈夫デス」
「いや、流石にそれはボクの気が済まないっていうか」
「だったら同じ布団に寝るのがベストデース。日本のベッドは狭いですけど、何とかなりマース!」
「反対ですわ! クランルールは守ってください!」
笑いながら言うミッチーさんに、きっぱり釘を刺す福子ちゃん。
最終的に、三人が居間に寝袋と布団で寝ると言うなんだかよくわからない状況になるのであった。
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