ボクは金晶石を手に入れた!

「もうキミに用はないんで帰っていいよ」

「ミーの謝罪を軽く流された!? いや、ミーの話を聞いてくれ!」

「なに? 悪いけどドロップ品とか『金晶石』とか譲る気はないからね」


 食い下がってくる十条に、手を振ってこたえる洋子ボク。福子ちゃんも同意見なのか、無言で頷いている。


「キミ達はミーがそんなことを要求するような男に見えるのか!?」

「見える」

「見えますわ」


 十条の叫びに、冷たい目で答える洋子ボクと福子ちゃん。その威圧に押されたのか言葉を詰まらせる十条だが、


「う……。い、いやできればそうしたいと言う想いはあるけどさすがにそこまでやるのもなんというか自分でもセコすぎるというか」

「あるんだ。そういう気持ち」

「だってクラン作れば専門の家がもらえるんだぞ! 家具とか買って色々コーディネイトしたいじゃないか!」

「あー……あったね、そう言うの」


 クランはメンバーのみが使える専門の家ハウスがもらえる。クランの規模に応じた大きさの家で、壁紙やら床やらソファーやら色々置くことが出来るのだ。支給される家具の他にも課金して買える家具もあり、それで様々な装飾を飾るのが趣味な人もいる。

 見た目だけじゃなく実効果を伴う家具もあるため、家のコーディネイトは遊び以外の要素も含んでいる。


「ミーの財力をふんだんに使い、ヴィクトリア朝も顔負けの西洋風な館を作る……。素晴らしいと思わないか!」

「楽しそうだね。ボクの趣味じゃないけど」

「そういうのは自分のクランを作って、自分のクランハウスでやってください」


 にべもなく答える洋子ボクと福子ちゃん。それで話は終わりだよ、とばかりに既に終わっていたドロップ品の確認に映る。


「おー、サメの肝臓腎臓骨に歯に。わぁお! ヒレもあるよ!」

「ヨーコ先輩が切り取った分ですね。……このロレンチーニ器官てなんです?」

「ああ、それはサメのセンサーみたいなものさ。レーダー系装備を強化する素材なんだけど……ボクら両方とも持ってないしなぁ」

「そうですわね。ヨーコ先輩の情報が正確すぎるので、不要かと。

 あ。そしてこちらが『金晶石』ですわ」


 チェンソーザメの腸内から取れた金色の石。ハンターとして実力を持ち、チームをまとめ上げた者のみが得られるとされたチェンソーザメを倒した証。それが『金晶石』だ。


「福子ちゃんのおかげで、楽勝だったね」

「楽……だったかどうかはともかく、褒めていただいて感謝します。これもヨーコ先輩の教えの結果です」

「ま、終わり良ければ全てヨシさ! これを生徒会に出してクランを申請すれば、ボク等のクランの完成だ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 さっきから後ろで何か喋っていた十条が、ここで大声を上げて割り込んでくる。


「もー、なんなの? 繰り返すけど、『金晶石コレ』を売ったりあげたりなんかしないからね」

「そ、それは……うむ、仕方ないと思う。その権利はユー達にある。そこはもう納得しよう」

「納得っていうか事実だけど。で?」

「その…………ミーをユー達のクランに入れてもらえないだろうか?」


 はあ?


「こ、こう見えてもミーはハンターレベル20の凄腕ハンターだ! クランの箔をつけるには悪くない人材だと思うぞ!」


 クランにも箔と言うか規模レベルがある。それは所属するハンターのランク合計値が基準となっている。その合計数が一定数以上になるとクランハウスの部屋数が増えたり、クランスキルと言うクラン全員に効果のあるスキルの数が増えるのだ。

 そういう意味合いもあって、高ランクハンターがクランに入る事自体は悪いことではない。【ナンバーズ】などはランク50超ハンターの集まりだったので、ハウスの規模もクランスキルも最高峰だった。


「ユー達のランクは12と11? そんなんじゃ、クランランク2まで遠すぎる。ミーを入れれば一気に倍!

 むしろミーに入ってくださいとお願いする立場だと思うけどいかがかな!?」

「……そこでそう言えるのは本当にすごいと思うよ、ボク」


 自分のしたことを棚に上げて、よくここまで言えるよなぁ。感心するけどそれはそれ。


「逆に言うと、テイマーとして福子ちゃんに劣るランク20って何、って話だよね。装備だけが立派な成金ハンター?」

「精神防御が強い恥知らずというのはどうでしょうか?」

「ああ、それはあるかな。何があってもへこたれない鉄の精神力。使い道って、ゾンビの盾にするしかないけどそれでいい?」

「いええええあああああああああ!? そ、そんなのはそんなのはミーの役割じゃない! ミーは後ろで采配を握る王にして軍師! 装備品なら買ってやれるぞぉ!

 金! 金ならあるんだ!」


 課金アイテムが交渉の拠り所だったのだろう。後藤を始めとしたメンバーは、それでついてきた。

 お金とは、言ってしまえば資本主義における行動の結果だ。どういう形であれ――反社会的行動でなければ――お金を持っていると言う事は社会で認められた証でもある。言わば、努力の証ともいえよう。

 成金、と十条の行動を否定する気にはならない。どうあれ彼は力を手に入れて、この世界で戦っている。それは事実なのだ。

 ただ、それを認めたうえで僕は――


「そんな装備なんかなくても、ボクは強いからね!」

「ええ。そんなヨーコ先輩の教えがあれば、この先も戦えますわ」


 そんな戦い方ではない戦いを選んだのだ。

 課金アイテムざいりょくになびかない洋子ボクと福子ちゃんを見て、交渉の材料がなくなった十条はガクリと首を垂らす。


「ま、流石に無下にするのは可哀想だからね。チャンスをあげようか」

「チャンス、だと?」

「そ。ボクのテイマー教育を受けて、覚えることが出来たらクランに入れてあげる。福子ちゃんと同じ事ができるなら、盾じゃなくても使えるからね」

「本当にそんなことでミーをクランに入れてくれるのか!? いや、その程度でいいならいくらでもやるぞ!

 ふははははは、ミーのハウス! 財を駆使して豪華な家を作るぞ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「で、その十条さんはどうなったんですぅ?」

「んー。三時間ぐらいで『もう無理!』って言って逃げてった」


 橘花学園生徒会室の椅子に座りながら、洋子ボクは紀子ちゃんと話をしていた。紙パックのジュースを口にしながらの雑談ダベリである。

 今回の狩りのドロップ品を学校に提出し、その処理も終わっている。ハンターランクも洋子ボクは16に。福子ちゃんも15になった。順調順調!


「むしろ私はあのスパルタに三時間も我慢できたものだと思いますわ」

「えー。福子ちゃんは最後まで耐えれたじゃないか」

「私の場合は、厳しさに耐える以上の目的もありましたし……」

「?」


 もじもじする福子ちゃんに、疑問符を浮かべる洋子ボク。よくわからないけど、頑張ろうと言う理由があるのはいいことだ。


「でもまあよかったんじゃないですかぁ? 厄介な人に絡まれずにすんでぇ」

「まーねー。もう二度と話しかけてこないかな?」

「だと嬉しいですわ。お金で人の心を動かそうとするなんて、自分に自信がない証拠ですもの。そのような御仁とのかかわりなど、時間の無駄です」


 容赦ない福子ちゃんの意見だが、それが洋子ボク/僕と十条の違いだ。プレイヤースキルで戦うハンターと、アイテムの力を駆使して戦うハンター。

 実の所、ヤな相手だとは思ったけど嫌いにはなれなかったんだよね、十条アイツ


「それでですけどぉ……クラン名は本当にこれでいいんですかぁ? 一度決めたらぁ、変更はできませんよぉ?」

「え、何かマズい事書いてた? 倫理的にヤバい単語とかは入ってないはずだけど」

「そういうのではなくてぇ……本当にでいいんですかぁ?」


 紀子ちゃんが指差す申請書。そのクラン名の欄には、ボク直筆のクラン名が書かれてあった。


【バス停・オブ・ザ・デッド】


「うん! ボクのクランにぴったりのサイコーの名前じゃん!

 バス停を使ってこのゾンビ世界を打ち砕く! となるともうこの名前しかないよね!」

「うわぁ、本気なんですねぇ。しかも善意なんですねぇ……。そのぉ、そちらから反対意見とかはないんでしょうかぁ?」 


 胸を張って主張する洋子ボク。紀子ちゃんはそんな洋子ボクから視線をそらし、意見を求めるように福子ちゃんを見る。


「ヨーコ先輩がこれでいいみたいですので」

「そのぉ、折角の二人クランなんですからぁ、もう少し……犬塚さんにムードを求めるのは無理としてぇ、せめてもう少しきちんとした名前を付けた方がぁ……」

「ヨーコ先輩がこれでいいみたいですのでっ」


 何かを諦めたように、同じことを固く告げた。これ以上言わせないでください、と言わんがばかりの硬さである。


「…………あー。でもこんなヘンテコな名前だとぉ、誰もクランに入ってこないと思いますのでぇ、そう言う意味ではいいんじゃないですかぁ」

「はい……。お気遣いありがとうございます」

「なんでそこでボクを残念な目で見るのかなぁ? 折角のクラン発足なんだから、明るくいこうよ!」


 なんだか残念な空気になった生徒会室の空気を切り替えようと、明るく言う洋子ボク


「さあ、【バス停・オブ・ザ・デッドぼくたち】の進撃はこれからだ!」

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