ボクといけ好かない課金野郎
『じゃあ福子ちゃんは学校に戻って、また夕方に訓練再開だね』
「再開……ええ、大丈夫。福子は強い子です。頑張れます……!」
こうして午前はお互い学校の授業、午後はテイマーの訓練の為に橘花駅に来ると言うサイクルが出来上がった。福子ちゃんは一旦光華学園に戻り、夕刻にゾンビの出現と共にこちらにやってくる。
あと、
そんなサイクルも三日四日経てば、余裕も出てくる。
「このパターンならこうですわ!」
福子ちゃんの眷属同時攻撃も、ほぼ問題ない形に仕上がる。ゾンビの動きや地形、その他も諸々の効果も即座に判断し、複数のゾンビ相手でも問題なく同時に攻撃できるようになった。
「すごいすごい! ほぼズレなしだね。これならチェンソーザメ相手は問題ないよ!」
「ふっ、永遠の好敵手である私を鍛えたことを後悔させて……あの、子供扱いはやめてほしいんですけどっ! あうぅぅぅぅ……」
よくできました、と福子ちゃんの頭を撫でる
「それじゃあ、明日サファイア号に行こうか。『金晶石』を手に入れて、クラン作って――」
「『金晶石』を手に入れるのかい、キミタチ」
いきなり割って入る声に振り向くと、そこには一人の男性がいた。その後ろには様々な学校の生徒が居る。苺華学園のメカニックに氷華学園のサブマシンガンな軍人。櫻華学園の仏法僧に――あと
で、声をかけた男がこれまたすごい。紋章から柊華学園なのだと判断できるが、頭装備は金のマスクに王冠。金刺繍の赤マント。武器は超ド派手な装飾をつけた浮遊砲台。足も浮遊シューズと柊華学園の超能力者ならではの装備だ。
――これは全部課金アイテムだ。王冠と金マスクは『オリハリコンマスク』と言ってゾンビウィルス遮断率100%の優れもの。マントも斬撃打撃8割カットの超防御力。浮遊砲台も<テレキネシス>持ちが使える眷属の上位バージョン。浮遊シューズも地形効果無視の優れもの。
(っていうか。他の連れ添いも課金アイテムバリバリじゃん! 何あれ何あれ!)
彼が連れている生徒も、ガチガチの課金アイテム装備だ。『AoD』は課金の有無で難易度が大きく異なる。高ランク狩場は課金しないと死ぬいうレベルだ。僕みたいなプレイヤースキルが高い人間はともかくね!
「ええ。明日にでもサファイア号に向かって、チェンソーザメを倒しに行くつもりですわ」
「ふぅん。じゃあそれ、ミーに売ってくれないかな?」
「はぁ?」
福子ちゃんの言葉に、不躾にそう言い放つ男。思わず問い返すが、男はそんな
「それよりさ。キミ、光華学園だよね。ミーのクランに入らない? 眷属使いはミーの劣化版になるけど、そういうのもいいよネ。
光華学園専用の
言ってウィンク。うわぁ、何コイツ。
「あー。福子ちゃんはボクとクランを組む予定だから――」
「ザコは黙っててくれないかな。バス停とか言うネタ武器使いには用がないんだ。後……ブレードマフラー? 恥ずかしくない?」
うわあ、一蹴かよ。いや、ネタ武器なのは否定しないけど!
「へっ、当然だろう。お前のようなヤツが十条さんの目に留まるわけないだろうが」
「――って、
『SVLK-14S』……現実世界では4キロ先の相手を狙えるスナイパーライフルだ。世界最強の飛距離と精度を持つと言われており、『AoD』でもその精度に恥じぬスペックを持っており、スナイパーライフル最強の一角。そんな課金アイテムだ。
「悪いか! オレはハンターランク10の凄腕スナイパーだぞ。それが十条さんに認められたんだよ!」
「うわあ……。まあ、どうでもいいけどね」
課金アイテム――『
『
(課金システム自体はゲームの運営継続のために必要なんだけど、それが露骨過ぎたのがこの『
この『
課金自体は別段攻められるものではない。使えるリソースは使ってゲームを楽しむ。それも楽しみ方の一つだ。一定のルールにのっとった行動であることには間違いない。
「ミーと一緒に無双しようよ。金ならあるんだ金なら!」
ただまあ、お金で他人を支配しようという考えは流石に閉口する。
それは福子ちゃんも同じなのか、やんわりと断りを入れていた。
「いいえ。私は結構ですので」
「一度知れば病みつきになるよ。大丈夫、お金は払うからさ」
はたから見れば、ゴスロリ中学生を金で買おうとする男そのものである。
で、他の人も止めずに見守っているという事は、似た環境で勧誘されたという事なのだろう。課金装備をちらつかされて、受け取ってしまったという事か。
困っている福子ちゃんを見て、流石に横槍を入れる僕。
「そういえば、『金晶石』を売ってとか言ってたけど、なんなの?」
「ああ。そうだった。ミーもクランを作ろうと思ってね。でも『金晶石』は売ってないから困っていたんだ。
どうせキミは使わないだろうから買わせてもらうよ。見たところ近接武器だけのネタキャラだ。クラン作ったって誰も入らないだろうし」
「私が入りますわ! ヨーコ先輩の
ひどいこと言う十条に、福子ちゃんが怒りの声をあげる。
「オゥ! それは良くない。この女はどうせ長生きできない。こんな近接武器だけのネタハンターなんか、すぐにゾンビに囲まれてジエンドだ。
おそらくレディのような有能なテイマーが支えていたのだろうが、それは間違っている。レディはミーの元でもっと高い世界に羽ばたくことが出来るんだ!」
確かに難易度的な意味で近接武器だけのハンターはすぐに死ぬ。それは嫌になるほど実例がある。実際、課金アイテムを使った方が強くなるし、今まで苦戦した相手をあっさり倒せるようになるのは気持ちがいいんだろう。
だけど、この勧誘はナイ。っていうか福子ちゃんにベタベタしすぎてムカついた。なので強引に行くことにする。
「ふふん、ボクをそんなハンターと思ってもらったら困るよ。
何せボクは超カッコイくてカワイイんだからね!」
福子ちゃんが何かを言う前に、そう言ってポーズを決める。
相手が呆れている隙に、福子ちゃんの手を取って走り出した。
「そんなわけで、『金晶石』は売りませーん! 他当たってねー」
相手の返事も聞かずに、その場を去る。怒っている声が聞こえるけど、戻って聞く義理はない。
そのまま駅のホームまで走っていく。福子ちゃんとはここでお別れだ。
「あの方、私達をなんだと思っているのかしら! というか、ヒトの話を聞くつもりがないのかしら!」
「だろうね。お金を使えば他人が自分の思い通りになって当然。そう思ってるんだろうね」
怒る福子ちゃんに、肩をすくめてそういう
「ああいう手合いは相手しないのが一番だよ」
「はあ……でもあのお方も『金晶石』を求めてるんですわよね? サファイア号で鉢合わせになるかも……」
「その時はその時で。今は気にするだけ時間と精神の無駄だよ」
あんな輩の事を考えるなんで時間の無駄だ。明るくそう言って福子ちゃんを駅から送りだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます