ボクと吸血妃の疑似パーティプレイ

「えーと……あーでるちゃんでいいかな? ドイツ語分かんないんで」

ヴィッツのない者をなじるのは貴族アーデルではないわ。故に許しましょう」


 胸を張って答えるアーデルちゃん。上から目線に見えるけど『吸血鬼の貴族を演じている』と思えばむしろ可愛く見える。


「んじゃアーデルちゃんに質問。なんでこんな所に居るの? キミの学園……光華学園からわざわざこんな所に来るなんて」


 この前であった時も疑問だったけど、彼女がこの駅に居るのは少し疑問だった。

 ハンターランクをあげたいのなら、わざわざ橘花駅まで遠出しなくてもいいのだ。光華学園の近場にも駅がある。なのにわざわざ電車に乗ってここまでくる理由はなんなのだろうか?


「そう。それは運命ファタリテート。私が為さなければならない使命アオフガーベ。ここにいる『オウガ』……かの怪物ゲシュペンストを倒さねばならないの」

「……あー。『鬼の角』か」


『鬼の角』……『オウガ』の角を部位狙いして得ることが出来るレアアイテムだ。様々な武器に加工できるが、テイマーだと笛にして眷属使役の精度を上げることが出来たはずだ。


「そうね。それは否定しないわ。でも私がヤツに挑む理由はそれだけじゃないの。

 私のお姉様シュヴェスター……カミラ様が怪物ゲシュペンスト呪いフルーフに捕らわれているの」

「しゅべ……? ふるーふ?」

「ゾンビウィルスというケッテにより、天国パラディースに向かえないお姉様シュヴェスター……嗚呼、その身を開放しなくては!」


 言って泣き崩れるアーデルちゃん。


(んー……つまりあれかな? 1STキャラがカミラで、『オウガ』に挑んでゾンビ化したから、装備回収しに来たと。課金してないと装備回収できないからねぇ)


 そんな所かな、と辺りをつける僕。

『AoD』の課金要素は、主に死亡のペナルティ回避だ。

 この『AoD』は、死亡したらゾンビとなってフィールドを彷徨う。その際、装備などもそのままゾンビが使うことになるのだ。

 だが課金することでゾンビ化したキャラが持っている装備のコピーを、ホームのボックスに戻すことが出来るのだ。また。クローンを作ることでキャラそのものが復活できるのである。


(そんな露骨過ぎる課金要素が廃れた原因なんだよね。そりゃ、タダでゲーム運用はできないだろうけど、世紀末な難易度とゲーム仕様でこの課金は、ねぇ)


 僕は現実世界での出来事を思い出していた。銃以外は死ねというゾンビ戦の仕様。滅茶苦茶な戦闘バランス。そしてゾンビ化と言うデスペナと、それをリカバリするための課金要素。

 運営はそれでうまく回ると信じていたのだろう。キャラが死ぬ度に金が入る。そんな態度が客が離れる原因となったのだ。

 まあ、それは過去の話。そしてゲーム内での話。

 今目の前で唇をかんでいるアーデルちゃん。洋子ボクはその肩を叩く。


「そっか。それじゃ一緒に行かない?」

「……駄目よ。これは私の戦い。それに闇の血が貴方を傷つけてしまうわ」


 共闘しようと持ち掛けるが、あっさり断られる。

 ――うん。中二病の仕様だね、これは。中二病状態が発動している限り、パーティが組めないようになっているのだ。


「パーティが組めると、パーティチャットとかで連絡が取り合えるんだけど……まあそれが出来なくてもなんとかなるか」

「なんとか? やめなさい、人間メンシュ。闇の勝負……勝負ヴェットシュピールに巻き込まれるわ」


 今アーデルちゃんスマホでドイツ語辞典開いてたんだけど、見なかったことにする僕。……ってことは生粋のドイツ人じゃないんだ。


「でもアーデルちゃん一人で『オウガ』に勝てるの?」

「大丈夫よ。私にはこの子達がいる」


 言って彼女はコウモリの眷属を呼び寄せる。攻防一体となる動物使い。それは確かに万能ともいえるだろう。だが――


「『オウガ』のパワーは生半可な防御なんて貫いちゃうよ。そうやって死んでいった生徒はたくさんいるんだから」


オウガ』の一撃に耐えることが出来るのは、防御に特化した構成のみだ。宇宙服などの打撃防御高めの防具で、どうにか二撃は耐えられる。コウモリ数匹を防御に当てても一撃で蹴散らされるだろう。


「ならなおの事よ。貴方は巻き込めないわ」

「あはははは。だよねー」


 いうまでもなく、洋子ボクの制服など紙きれ同然だ。彼女からすれば洋子ボクを自分の事情に巻き込むことなどできないのだろう。なにせ死ぬ可能性が高いのだから。


「でもついていく。どの道『オウガ』に挑むつもりだったし。ついでに君のしゅべ……カミラ様とかを倒す手伝いもするよ!」

「分からないわね。なんでそんなことをするの?」

「キミが優しくていい子だからだよ。ボクはそういう子を助けることにしてるんだ!」


 指を立てる洋子ボク。その言葉に怪訝な顔を浮かべるアーデルちゃん。


優しいツァールト? 冗談はやめてくれないかしら?」

「初めて会ったとき、ボクを含めて助けてくれたじゃないか。それに今だって、巻き込まないようにしてくれている。キミはそんな優しい子だよ。

 まあ、その優しさを裏切るんだけどね!」


 言って腰に手を当てて胸を張る洋子ボク。その態度に納得したのか、アーデルちゃんはため息をついた。


「分かった。貴方、馬鹿ナールなのね」

「なーる? よくわからないけど納得してくれたのなら問題なし!」

「勝手にしなさい。言うまでもないけど、パーティなんか組まないから」


 うんうん。組みたくても組めないもんね、性格上。

 ともあれ、許可と言うか同意は得た。一緒に『オウガ』退治だ!


「先陣はボクが切るから、アーデルちゃんはその後をついて来て。

 そっちの攻撃にボクが合わせるから!」

「ふん。精々私の子達に巻き込まれないようにするのね」

「はーい。努力します!」


 言って指を立てる洋子ボク。それに対するレスポンスはない。だけど洋子ボクから少し離れて追うように動いてくれているのは、背中越しに分かった。

 ――一応言うと、『AoD』は味方攻撃フレンドリーファイヤが存在する。だけど味方の攻撃でゾンビ感染率は上がらず、攻撃の衝撃でのけ反るだけなのだ。味方の攻撃で死んだりゾンビ化するすることはない。


(ないんだけど、ゾンビと戦っている時にディレイ発生のけぞるのはゴメンだね。速度こそがボクの強みなんだから!)


 一秒の停滞が死を招く。それが洋子ボクの戦闘スタイルだ。

 そんなわけでアーデルちゃんの攻撃は、全部回避しないといけない。最も、致命的な巻き込みはしないんじゃないかな、っていうポジティブな思いもある。


「ま、なんとかなるか!」


 言ってマフラーで口を覆う洋子ボク。新たに現れたスポーツ用品を持つゾンビ達。それに向かって突き進む。


「一体目! すぱーん!」


 振るわれるラケットを上半身をかがめて回避し、そのまま突き進む。そのまま一気に――


「甦れ、闇の眷属。血の饗宴をここに開催しよう――」


 アーデルちゃんの言葉。それを聞いて洋子ボクはゾンビへの攻撃をキャンセルし、その横をダッシュで通り抜ける。ブレードマフラーがはためいて、触れたゾンビの腕を傷つけた。


血のブルート狂信者ファナティカー!」


 洋子ボクがいた場所に殺到するコウモリの群れ。ブレードマフラーで切りかかられてのけ反っていたゾンビは、殺到するコウモリに食い破られるように力尽きた。


(うっはー。前見た時もそうだったけど、かなりの実力だね! 十匹近いコウモリを無駄なく割り振ってる!)


 一撃でゾンビを葬るアーデルちゃんの采配に舌を巻く僕。不慣れなテイマーはそこで全部の眷属を解き放ち、防御がおろそかになるのだ。

 だが、ゾンビを倒すのに必要なだけの眷属を攻撃に回し、残りは何かあった時の予備として防御に回している。その采配の上手さは、一朝一夕で身につくものではない。かなりの鍛錬を積んだのだろう。


「いけるいける! ナイスだよ、アーデルちゃん!」

「当然よ。『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』の名前は、軽くはないの」


 ほどなくして、二階を突破する洋子ボク達。

 さて、鬼退治と行きますか!

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