第99話 蘇ったバビロナ王朝

「さあ…そなたの願いを頭に浮かべながら…ゴブレットの葡萄酒を一気に飲み干すのじゃ…」


「はい…」


マザー・ハーロットの言葉に頷いてジーニャは杯を手に取った。


「いよいよやな…姉ちゃん…頑張ってな!」


婚礼の衣装からいつもの姿に戻った…ジーナや優也…そして仲間達が見守る中、ジーニャは杯に口をつけて…そして葡萄酒を飲み干す…



「ああ…シャブリヤール様…いよいよ…あなたとまたあの夕陽が見れるのですね…」



二人で見た夕陽を思い浮かべていたジーニャの意識は…だんだんと…うす…れ…て………………
















……ここは…?



目を覚ましたジーニャはゆっくりと瞼を開けた…




……安心せい…お前は急に倒れてしまって今、この神殿のベッドで寝ておる。もともと酒に弱い上、疲れが限界に来ておったのだろう…全く…みんな心配しておったぞ。





……マザー・ハーロット…様?す、すみません…

そ、そうだ…願いは…バビロナはどうなったのですか…?




……願いは叶ったぞ…自分の目で確かめてみるか…?





……でも…私…身体が…動かないのです…





……わらわは今、肉体とは別の…意識の海の中のそなたと話しておる…わらわがそなたの意識を空中庭園の上まで引き上げるから自分の目でバビロナの街を見て参れ…





……は、はい…








気がつくとジーニャは空中庭園を見下ろしていた…


身体は羽のように軽く自在に空を移動する事が出来た。彼女はバビロナ神殿と城下町の方を確かめて空を駆けて行く…あの方に…逢う為に…










街は…沢山の人で賑わっていた…

市場は活気づいて…馬車が右往左往し、川が流れ…

緑は萌えて…


あの頃と変わらない…豊かな…ジーニャが心から望んだバビロナ王朝の街が確かに復活していた。


「ああ…」ジーニャは溢れる涙を拭うのも忘れて街の人々の様子を見て回る…そしてとうとうバビロナ神殿の近くまでやって来た…


神殿へと続くイシュータルの門まで来た時、衛兵が二人…門を守っている…ジーニャは衛兵に話しかけた…



……あなた達…門を開けて…いるのでしょう…王が…が…




しかし衛兵はジーニャに全く気付いていない様子でしっかり前を向いている。懸命に衛兵に訴えかけるジーニャ…



……逢わせてよ…あの方に…でないと私…何の為に…うううう…


ジーニャはその場に崩れ落ちた…




……ムダじゃ…



……マ、マザー・ハーロット様?




……お前は今、意識と身体を引き離して身体は空中庭園の中のベッドの上じゃ…誰もお前の存在に気づくまい…



……そ、そうなのですか…





その時、衛兵二人が話し始めた…




「なあ…今日の儀式…もうすぐ終わるのかな?」



「さあ…何でも…王女様の大切な儀式らしいから…」



「王女様…王がお亡くなりになられて辛いだろうな…」



「ああ…幼い頃からずっとお側におられたからな…

意志を継いでこの国を守ると…我々で王女様を支えないと…」






二人の話を聞いたジーニャはかつて受けた事の無い程のショックを受けてその場に座り込んでしまった。



……ど、どういう事ですか…?マザー・ハーロット様…王は亡くなったなどと…私の望みは叶ったのではないのですか?そ、そんな…私は一体何のために…





……そなたの願いは確かに叶った…しかし…わらわにはそれ以上の事は話せんのじゃ…さあ…こちらへ帰ってくるのじゃ…



ジーニャは精も根も尽き果てた表情でもう誰とも話す元気も残っていない様子であった。

シャブリヤール王に会える事だけを願って…これまで幾多の困難を乗り越えてきた彼女はもう生きる事への未練も一切無くなっていた…




ジーニャの身体がフワリと宙に浮かび上がる…彼女は再び空中庭園へと向かっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る