ディル・ケッパーの活動記録

いざよい ふたばりー

序章 黎明期

はるか昔。

そこには何も無かった。

しかし、その何もない空間を見ている者がおり、時折それをしばしば眺めていた。後に神と呼ばれる者である。

これは神の気まぐれであり、何気なく、ほんの思い付きでポツリと呟く。

「この空間をただ遊ばせておくのはもったいないな。どれ、ひとつ…」

おごそかに何やら唱えると、その者には小さく些細な、しかし我々にとってはとても大きな爆発が起こった。

後にビッグバンと呼ばれるものである。

爆発の影響で、無数の星々が生まれたのでいくつかの星を並べた。

その中でも環境のと整っている星を見繕い、経過を観察し、それが落ち着くのを待ち、

「そろそろ頃合いかな…」

コホン、と咳払いをひとつ。

「光あれ。」

その星は光に満ち溢れた。しかし、ずっと明るいというのも疲れてしまうと思い、明るい時間と暗い時間が交互に訪れる様にした。昼と夜である。

そして雷や嵐、地震などを発生させ、その時に出来た大地と海、空などに生物を誕生させた。

「どれ、わしらに似た生物を作り、暇つぶし相手になってもらおう。」

詳しいことは省略するが、つまり人類誕生である。

しかしその時、僅かに加減を誤ってしまい、神に似てはいるが若干異なる人類も同時に産まれてしまったが、天地創造、生命誕生という大仕事の後ということもあり、

「少し疲れたな。ここらでひと休みと行こう。」

それに気づかぬまま、神はお休みになられ…


どれくらい経ったのだろうか。現在で言う石器時代の事。

至る所に人類による集落ができ、集落には二つの種族が暮らしていた。

片方は石や木などの加工、土をこねて器を作るのに長けている。

片方は火や水、雷など自然現象を操る事に長けている。

二つの種族は互いに協力し合い、狩猟と採集で生計を立てていた。

そんなある日、ある集落で、そろそろ食料が尽きそうだと言う事で、大掛かりな狩に出かけた。

男達はみなやる気に満ちており、しばらくは狩に出なくてもひもじい思いをしなくてもいいくらいの成果を上げた。

そんな中、ある集団が森の影からあくび混じりで呟いた。

「やれやれ、やっと狩が終わったか。今回は長かったな。」

「そうだな。しかしよく眠れた。そろそろみなと合流するか。」

どんな時代にも怠け者は居る。

ぞろぞろと歩いていると、声をかけられた。

「やや、お前たち、そんな所から出てくるとは。さてはサボっていたな。」

男達はヒヤリとし、振り返りつつ

「いや、これには訳が…なんだ、お前らか。」

言い訳を口にしかけたが、相手を見るやぶっきらぼうに言う。

「なんだとはなんだ。我々は同じ集落に住む者同士じゃあないか。狩をサボるのは良くないぞ。みなが一生懸命に獲物を獲っている最中、居眠りをするとは。」

「うるさいな。そもそもお前らはなんだ。ツノのある者、耳のとがっている者。おまけに妙な術を使い、まるで人間とはかけ離れている奴らと一括りにしないでくれ。」

「ひどい、あんまりだ。まるで我々が人間ではないような口ぶりだな。」

「ふん、どうとでも言え。それに前々から思っていたが、お前らが人間を名乗るな。バケモノめ。」

「ひどい、あんまりだ。撤回してくれ。」

「うるさいやつだな。俺達が寝ていようが大漁だったじやないか…」

怠けていた事を指摘され、頭にきた男達。

「これでもくらえ。」

男達は相手に石を投げつけた。当たりどころが悪く、バケモノと呼ばれた者の1人が死んでしまった。

「なんて事をするんだ。それでも人間か。」

「黙れ、お前らこそ火や水、雷を操る。そしてツノがあり耳がとがっている。人間などと名乗るのもおこがましい。邪悪なモノだ。そうだ、魔物だ。この魔物め。」

「ひどい、あんまりだ。こっちが下手に出ていたらなんだその態度は。」

魔物と呼ばれ、邪悪なモノと言われ、さすがに温厚な彼らも頭に血が上ってしまった。

口論になり、取っ組み合いになり、怠けていた者を1人殺してしまった。

「なんて事をするんだ。仲間が1人死んでしまったではないか。」

「うるさい、先に手を出したのはそっちの方だ。」

売り言葉に買い言葉、暴力が飛び交う。

そこに、騒ぎに駆けつけた者達がやってきた。

「何を騒いでいる。やや、これはどうした事だ。死人が出ているではないか。」

怠けていた者達は同情を買うため、わざとらしく訴える。

「助けてくれ。こいつらが我々の仲間を殺したんだ。それに見てくれ。俺は火傷を負い、友人は雷をくらって気絶している…」

「嘘ばかり言うな。先に石を投げたのはそっちだろう。」

ああだこうだと言っていると、騒ぎは広がり、野次や罵声が飛び交い、次第に事が大きくなる。

「だいたいお前らの事は気に食わなかったんだ。妙な術が使えるからといい気になりやがって。」

「お前らこそ嘘をつき、騙し、卑怯な事が得意じゃないか。おまけに怠け者で口が悪いとくる。いい加減にしろ。」

「黙れ魔物め。人間様にたてつこうと言うのか。」

「もうたくさんだ。お前達みたいなのが人間というのか。怠け、騙し、罵詈雑言を浴びせる。そんなものが人間ならば、我々は魔物で充分だ。」

「ついに本性を表したな。ええい、みんな、やっちまえ。」

瞬く間に争いは広がった。人間と魔物と言う区別がうまれ、人間は人間の、魔物は魔物の、それぞれを擁護し、加勢し、援護する。それは集落から別な集落にも及び、世界中の集落で人間と魔物とで争いだした。

中には争い事を好まないもの達もいるにはいたが、いつの時代も多数決で決まってしまう。

争いを好まないもの達は、人間と魔物とで手を取りひっそりと争いが終わるのを祈っていた。

騒ぎに目を覚ました神は、

「なんだなんだ。人が気持ちよく眠っている時に…。」

人間と魔物の抗争を眺め、

「あきれたものだ。人類同士で喧嘩なぞしよって。ああ、死人まで出ている。これは失敗作だったようだな…。もう知らん。勝手にするがいい。」

そして地球を見捨てた。


まだ文字と言うものも残っておらず、この抗争は後に語られることなかった。

そして相当の年月が流れ…


人間と魔物はおお互いにいがみ合ったまま、現在に至る。

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