第2話 きゅうけつき
少女を家まで運んで、とりあえず二階の寝室の布団に寝かせた。
救急車か?
スマホで電話をかけようとして、はたと思いとどまる。
何か事情がありそうだ。
外に連絡するのは後でもいいだろう。
見たところ、弱っているだけでひどい状態ではない。
まずは満たしてあげられるものがある。
きゅうううぅと可愛らしく腹の虫が鳴っていたからだ。
料理しますか。
YouTubeを参考にしながら、だしで味付けした卵入りのお粥をつくった。
お盆に乗せて持っていく。
寝室の扉を開けると、少女は上半身を起こしゆらゆら覚束なくふらりとだが目覚めていた。
先ほどより元気目だ。
なおも目をむにゃむにゃ擦っているが。
よく見ると日本人離れしている。
シルバーブロンドの跳ねっ返りのクセ毛に濡れた碧眼、肌はシミひとつなく抜けるように白い。
血管まで見えてしまいそうだ。
糸のような細目ではあるが、美貌を少しも損ねてはいない。
体は全体として華奢で、ずいぶん痩せているのが見て取れる。
左手の甲だろうか、ぷくっとしたコブの膨らみがあった。柔らかそうだが、病気だろうか?
儚さと不可思議さが同居していた。
それでも可愛く、愛らしいのに違いはない。
小妖精。
ロシアあたりの子だろうか?
少女は観察してる間に、粥をガツガツ飲み込むようにかっ込むと可愛くゲェとげっぷを出し、すぐに目を細めて線にして、マサキをじっと見すえてきた。
「まれ、びと」
「?」
「招かれて日本へ来たのだ。早よう歓待せんか」
ほれほれ、と急かすように首を動かす。
「なんでウチの車庫に?」
うっ。
そう言われて少女は口籠った。
「それは…オマエのおかげでいくらか元気になったからで…そもそもアタシは死のうとしてたんだ。あそこは死場所としてふさわしそうだったから、だ」
えっ!
なんてはた迷惑な女の子だ。
はあああぁ。
「家出でもしてきたの?お家はどこ?連絡先はわかる?どうしてこんなことしたの?」
しまった、問い詰めすぎたかな。
「アタシは…そうだな、きゅうけつきだ。eventhorizon。家なぞない。こんなことをしたのは、アタシはたいそう力あるきゅうけつきだったのだが、今ではほとんど失ってしまってな、もう何も出来ん。取り戻すことも絶対に叶わんだろう。日に日に弱ってゆく体を自覚して、そろそろ死のうと思っていた。そこにオマエがやってきて、アタシにぱわーを注入していきおった。おかげで少々複雑な事情になっている」
だいたい話してくれた内容は、とても信じられるものではなかった。
少女のもの言いは自然体で、ちっとも淀みがない。
ウソが上手いのか?
話を合わせてみよう。
「ぱわーって、俺の血を吸ったわけでもないのに?どうやって?」
「うん、オマエの行動がアタシの生きるぱわーとなる。お前は実に吸い取りやすい。肌が合うというのかな。ほら。この料理。おかげでずいぶん元気を取り戻したぞ」
それはただ腹が満たされたからでは。
次から次によくもまあ。
ご説明ありがとう、だ。
それにしても、ね。
この話は本当か?
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