第6話


捨て台詞を吐いて去っていってしまったアンナを呆然と見送る。


とても、令嬢のするような挙動ではない。




あんなヒロインのために公爵家から追放されるのが、なんだか憂鬱になってきた。


もっとこう、人前では猫被ってよねーとか思ってしまう。




「アルメディア嬢、大丈夫でしたか?」




「ええ。何故私の名を?」




ゲームの悪役令嬢みたいに目立つような行動はとっていなかったのだから、名前まで知られていないと思ったのに。




「この学園で、知らない者はいないよ。アルメディア嬢は有名だからね」


だから、何故有名なんだ。


解せぬ。




「ははっ、眉間に皺がよっているよ」




アレキサンドライト様は相違って、白く長い人差し指で私の眉間の皺をぐりぐりと伸ばしにかかる。




「勝手にさわらないでくださいませ!」




「ごめんね?」




にっこり笑いながら言われても、全然謝られている気がしない。というか、ゲームと全然違う。


ゲームでは、アレキサンドライト様はアルメディアに対しては始終不機嫌そうな顔を隠しもしなかった。


触れるなんてもっての他だ。




「君は可愛いね。僕の王子という身分にすり寄ることがない。そんな令嬢は少ないんだよ。だから、君の名はこの学園にいるほとんどが知っていると思うよ」




それか!?




裏目に出たかぁ。


アレキサンドライト様に近づかなければ気にも止められない存在になるかと思っていたのに、真逆だったのか。。。




計画が・・・。




「君の媚びない態度は好意に値するね」




にっこり。


満面の笑みのアレキサンドライト様。


嫌な予感しかしないんですけど。




というか「こうい」って・・・。




行為?




更衣?




なんかしっくり来ないぞ・・・。


こういうときの「こうい」ってどんな意味が・・・。




「好きってことだよ」




その「こうい」か!?




なかなか、好意なんて使わないかと!!




というか、なぜ、アレキサンドライト様の顔が目の前にあるのです?


なぜ、私の顔に吐息がかかるのです!




なぜ、私の唇に暖かいものが触れているのです!!?




「ひやぁあ!!」




「おっと危ない」




慌ててよろけそうになった私を役得とばかりの満面の笑みで、抱き締めるアレキサンドライト様。




というか、キスされました。


王子様に。


なにゆえ。


なにゆえですかーー!




混乱して頭がついていかない。




でも、なんとなく。


なんとなくだけど、詰んでるような気がする。


私のスローライフ計画。なんだか詰んでるような気がする。




アレキサンドライト様の目にとまらぬよう学園を卒業して、ひっそり田舎で猫様たちに囲まれてスローライフを送るつもりだったのに。


王子に囲まれるの嫌。


というか、このまま王子の側にいたら強制力とかで、私やってもいない罪を擦り付けられるのかしら。


まあ、別にいいけど、それならそれで、断罪されて田舎でスローライフ送るから。




「なごり惜しいけど、そろそろ時間だ。またね、愛しいディア」




アレキサンドライト様はそう言って、思考の海に沈む私の唇をもう一度奪ってから去っていった。




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