第2話 はちみつとボリビアの思い出

 その、ねっとりとした質感を持つ琥珀色の液体は、使用後の調味料ケースのようなものに入れられていた。ボリビアのラパスにて、地元の人たちが使用する商店が並ぶ、排気ガスで黒ずんだ店の一角にでのことだった。


 そのとき私は、すっかり風邪をこじらせていた。あいにく風邪薬を持ち合わせていなかったので、心からはちみつを求めていた。布団の中で、スマートフォンで「風邪・はちみつ」などとキーワードを打ち込んで検索しているうちに、はちみつさえあればこの風邪は治り、のどの腫れはひき、咳は止まり、快適に過ごせるようになる、と信じるようになっていたのである。ちょっとほこりを被っているのが気になりながらも、値段を聞いたら、150円ほどだった。ちょっと安すぎるんじゃないかな? とまた不安を覚えながらも、さっそく買って帰った。口に入れた瞬間、鉄がさびたような味が広がった。なんだこれは? 器具がさびていて、その味がついたのか、それともボリビアのはちみつはこういう味なのか。買ってしまったものは仕方がないので、クローブやシナモンなどをつけこみ、味をごまかしながら食べ続けた。


 数日後、広場で自然療法のイベントがあり、見たこともない薬草を並べる店の並ぶ中で、はちみつやプロポリスを並べている店を見つけた。そこにあったはちみつは、露店で買ったものよりも量は少なく、値段は倍だったが、色は明るく、輝いて見えた。それも購入して、先に買ったものを食べきってから封を切ることにした。


 風邪をひいたときにはちみつを使用するのは日本だけではないようで、私が咳ばかりしているので心配した大家さんが「はちみつレモンを飲むといいのよ」と言ってくれたこともあった。 


 ひと月も滞在していたのに、結局最初のはちみつを消費するのに時間がかかってしまい、高級なはちみつは、封を切らずに知人に託すことになってしまった。今度行くときには、おいしいはちみつを食べたいものである。

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