南米あれこれ
高田 朔実
第1話 ボリビアでショウガを探す
ボリビアに滞在していた時のことである。
日本から見て地球の反対側にあるこの国は、気候もだいぶ違った。風邪をこじらせたものの、現地の薬は信用できず、生姜を探すことにした。
ラパスの町の、下宿から少し坂を上ると、露店が集まった大規模な商店街がある。そこでは何でも揃うというが、かなり雑然としており、何か特定のものを探し出すのは至難の技だった。優れた方向感覚を持たない私は、何回来てもどこに何があるのかわからない。なんでも揃うとはいえ、そもそもボリビアで生姜が売られているのかどうかも知らない。
スパイスに分類されているのか、野菜に分類されているのかで、探す場所も変わってくる。日本では野菜だったが、ここではどうなるのか。クローブやシナモンが売られているのは、すぐに見つかった。しかし、そこに生姜の姿はない。
突然 、視界の隅に何かが入った気がした。振り返ってみると、生姜を積んだ猫車を押すおじさんがいた。慌てて呼び止め「いくら?」と尋ねると、キロ単位の値段を言われる。そんなに必要ないので、二つの塊を選び、計量してもらい、料金を支払った。
近くにいた若い娘さんが、
「これは何に使うものなの?」
と尋ねる。薬だと思われているようだ。
「私、授乳中なんだけど、使っても大丈夫かしら」
「これはね……」
なぜかおじさんではなく私が質問に答えた。
例えばりんごや米は、日本のものとボリビアのものとではだいぶ違ったけれども、生姜は私が見る限りでは全く同じだった。下宿に戻り、ナイフで刻むと、ぱっと香りが広がった。香りも日本の生姜そのものである。いつ誰がどのようにして運んだのかは知らないが、その時の私にとっては、嬉しいことだった。
日本食が恋しくなることはなくても、 時折そうして日本のことを思い出した。風邪が治るかどうかはさておき、これでひとまず安心だと思った。
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