第3話

 幸太が目が覚めると、そこは病室の中の一室であり、傍には先程スマホで暴漢を撮影した長身の男と、繁が仲良く談話しているのが目に飛び込んでくる。


「……いやお前がまさかな」


「おい目が覚めたみたいだぞ……」


 長身の男は、繁の肩を叩いて、幸太が目が覚めた事を伝える。


「あれ? 俺は……」


「お前はDQNに喧嘩を売って返り討ちにあったんだよ。あんなヤバい連中に突っかかるなよな……」


 繁の一言で、幸太は気を失う前の記憶が蘇り、ぞっとする。


「まぁでもな、こいつが一部始終を動画に撮影して警察に話してくれたからな。あいつらは前科があったから刑務所行きは確定だ、明日警察に行って事情聴取をしに行くぞ」


「あ、あぁ、有難うございます」


 幸太は長身の男に軽く頭を下げる。


 長身の男は微笑みながら、幸太にiPadを見せる。


『図書館でのDQN ナンパを止めた若者を暴行』


「ねぇ、君の顔写真とかモザイクかけてあるし、個人情報とか出さないから、これ動画で流していいかな?」


「え!? 動画すか!?」


「うん、ダメかな?」


 男は興味津々の表情を浮かべ、やや茶色がかった瞳をくりくりと輝かせてきょとんとしている幸太を見つめる。


「いや、顔写真とか出さなければ……うーん、でも、これは……」


「絶対ダメよ」


 幸太の後ろから声が聞こえ、振り返ると麻耶がいる。


「あ……」


「先程はご迷惑をおかけしてすいませんでした……」


 麻耶は申し訳なさそうに、幸太に深々と頭を下げる。


「その節は、妹がお世話になりました」


 先程の長身の男はiPadを置いて椅子から立ち上がり、幸太に頭を下げる。


「あ、え? あんたら兄妹か?」


「ええ、紅図書館の副館長の矢作直樹(ヤハギ ナオキ)です」


 直樹は、ブランド物の名刺入れから名刺を取り出して、幸太に手渡す。


『紅図書館 副館長 矢作直樹』


(副館長って事は相当稼いでいるんだろうな……)


 幸太は、直樹の立場が自分には逆立ちしても到底なれない、人様に尊敬される側にいるのだなとため息をつき、名刺をコンビニのファッション雑誌についているおまけの長財布に入れる。


 繁の腹の虫が鳴り、スマホを見やると13時を数分回っている事に幸太は気がつく。


「なぁ、腹減ったから飯でも食いに行かねーか?」


 繁はそう言って、立ち上がった。


 📖📖📖📖


 「でさぁ、こいつナンパしたのが中学生で警察に捕まりそうになったんだよ」


 繁は次の日が休みのため、昼間からファミレスで一杯300円程度のビールを飲んで顔を赤くしている。


「いや、俺近眼だし第一暗闇だったろ? 分かんねーよあれじゃあ」


 直樹はチーズがたくさんかかっているペペロンチーノを頬張りながらそう言う。


(本当に仲がいいんだなこの人らは……)


 幸太は繁と直樹を見て、自分にもこんな友達が欲しいかなと心の中でため息をつく。


 繁と直樹は高校の時からの友人であり、卒業してバラバラになってしまったが、直樹が紅図書館の副館長に若くして就任して繁が住む街に引っ越して来て再会を果たした。


 ちょうどその頃、高校を出て図書館書士補佐の講習を終えたばかりの麻耶も、たまたま紅図書館に配属になったのである。


「てかよ……」


 繁は何かを思い立ったかのようにして、口を開く。


「警察沙汰になったんだから、一応な俺たち連絡先交換したほうがいいんじゃねぇ?」


「あぁ、そうだな。連絡交換するか……」


 彼等はこれは何かあった時のためだなと思い、連絡先交換をした。






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