第15話《チュートリアル★1》

 キャッスルフロンティアKKへようこそ!

 

 これからあなたが学ぶことは、とてもこの勤務にとって、大切なことです。キャッスルフロンティアKKのVR技術の総意を込めて作られた、このVR仮想現実の世界において、違反をすることは、あなたの感覚に脅威を及ぼします。

 VRにおいては、感覚が全てです。

 もっとも神に近いと言えるでしょう。まさにヴァーチュアス・ゴドレス!


「……怖いんですけど」

「ははっ……新入社員には皆言われる言葉だな。だが、この仕事にきみが適任なのは間違いない。誰だってそうだろう。自分の生きる意味は任されることで認知する。多少のリスクがあろうと、存在価値には勝てないさ。大体VRの世界にいれば死なないだろう。平和だけではないけどな」


「平和でしょう。争いなんかなさそうです」


「そのうち分かる。人の本当の恐ろしさと、ヴァーチュアス・ゴドレスの意味が。ダンテの神曲、聖書、全てに隠された「肉体からの剥離」有限から無限への扉が開いたと言えばいいか」


 VR世界の門奈計磨は、やはり凛々しい。


 ヴァーチュアス・ゴドレス……なんとなく見えて来た気がする。

 人が求める永遠の命の答は、ここにあるのかも知れない。どうしてこんな世界を創る必要があったのだろう。ただ、この世界ではみなが光り輝いているのだ。幸せなのだろうか。温かくて、ほっとする、耀と呼べるものだった――。


 ***


『チュートリアルが開始できません。ちゃんと中央に立ってください』


 優利は計磨と一緒に、「入社手続き」のあるキャッスルを訪れていた。そこでは、アンドロイドのような少女がお出迎えに出て、うんちくを語り出したところである。

 VR勤務という前代未聞な仕事だが、不思議とわくわくした。現実には暁月優利の成功は見えない。それなら、仮想現実の成功は、アリだと思う。


 virtual・realityも現実に紐づいているが、あっちの暁月優利はカプセルで寝たくっている生きる屍だ。こっちのほうが現実だと思おう。


「あっちの俺、どうなってるんですか?」

「快適なカプセルで何も考えずに寝てんだろ。俺は起きて、HMD被っているが。そういう訓練を受けているんでね。zuxiメンス社員は全員済ませた感覚訓練だ。一応点滴と酔い止めは打ってる」

「お腹がすいたりしますよね、俺」

「時間になると、栄養を注入する。こっちでもきみは普通に飯も食うし、トイレにも行くことになる。連動してるんだ。カプセルに入っているから、見えない」


「……こっちの俺は脳が感覚で動かしていて、あっちの俺は生きてるわけですか。あの、あっちの俺の……」

「おまえのデトックス安定値、高そうだな」

「デトックスですか」

「トイレは人類が最も精神を落ち着かせる場所だそうだ。この世界のトイレではデトックス値(DT値)を測って、医療に役立てているんでね」


 やたらにリアルになったところで、「き・い・て・ま・す?」とMONAが首をかしげて割り込んで来たが、いよいよ頭に来たらしく、背中を向けた。

 

「ついでにこの子の性格は誰からですか」

「俺」

 聞くまでもなかった。暁月優利は「そうですか」と小さく了解を口にし、またチュートリアルに向き合う。MONAはいじけて背中を向けて、体育座りになっていた。


「ごめん、聞きます。お願いしてもいいかな」

『ありがとう! じゃあ、説明するね!これ、魔法のステッキ』


 じろっと門奈計磨を見ると、門奈は顔を背けていた。「可愛い」の一言に同じ匂いをかぎ取った。


******


 通常、ゲームには必ずある「操作方法」「キャラクター」「世界観の説明」「バトルの仕方」「ゲームの意味」「初心者プレゼント」などが並ぶ。


『給料ポイントですが、新入社員には、三か月間PAI――personal・invitation・inntorannsuを義務付けています。アバターは最初のみ変えられます。PAIの名前と種別を。猫、オウム、犬とございますが』


 浮かび上がった三つの映像を見て、優利は即答した。

 海賊ゲームで、オウムを肩に留めている船長がいて、それが何ともかっこよかったのである。それだけではなく、隣の門奈計磨のスタイルも羨ましかった。自分は普通のシャツにジーパン、まさに「これからがんばれ」と言わんばかりの一般人の格好である。


「じゃあ、オウム」


 まるまるとしたオウムのアバターが浮かび上がって、「名前は?」と聞かれ、咄嗟でクルミとつけた。何か聞いて来たので、1を選んだ。オウムは青になった。


『クルミの暁月優利カスタマイズの間、ちょっとお話しましょう。まずはVR概念について』



 ――スキップしますか。この説明は少々脳を疲弊させる可能性があります。



 選択肢が出たので、スキップを選んだ。



『次は給料ポイントについて。行動評価で、腕輪の超ミクロ記憶媒体にて算出されます。様々な仕事がありますので、スキルアップに合わせて、こなしていってください。たくさんの「仕事」をこなすと、それに応じたポイントが加算され、仮想空間の成果をもとに、現実の電子貨幣として振り込まれます。このポイントの算出方法については、キャッスルフロンティアKK管理局の勤務規定に基づき、設定されていますので明らかにはできません。それではチュートリアル第二段階を開始します』



 目の前にふわりと浮いた球体と、銃が降りて来た。水鉄砲のような小さな銃だが、使わないでいると、卵のような形になる。

 なにもかもが分からず、おたつく優利に、にやと笑っている門奈計磨。

 後目に、優利はシューティング要領で、銃口を向けた。どこかでみたようなウイルスがふよふよと空中に浮いている。これを撃てばいいのだろうか。楽勝だ。


『チュートリアル-2。5Gウイルスを撃退せよ』


「え?俺、シューティング得意ですよ?」

「知ってる。やってみな」


 いいのだろうか。仕事がこんなに遊びのようで。


『この銃は、今後貸出となります。紛失時には、誓約書の更新と、罰金があります。撃てる対象は、ウイルスのみですが、経験スキルで、上がります。この世界の武器は銃のみです。人に向けて撃つことはできません』


「俺の実力、見ていてくださいよ。俺、銃は得意ですよ」


 ――ペアリング・同期、完了。コードネーム:クルミ。PAI申請終了。二か月のレンタルリース契約完了。名前を呼んであげてください。それで、貴方のPAIとなります。

 まるまるした青色の羽毛を揺らしながら、オウムはゆっくりと優利の目の前に舞い降りた。


『ナマエヲヨンデクダサイ。ボクガジッソウデキマセン』

 

「おまえ、オウムの性別をオスにしてたぞ。やっぱりそっち系か」


 ――まずはオウムを撃ってみた。

 ゲーマーとは時に要らん挑戦をするものである。


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