主人公になりたくて

ハトドケイ

主人公にはうるさいくらいが丁度いい

この世の中には2種類の人間しかいない。


主人公かそれ以外か…



なんてこった、まさかこんな事になるなんて。


今日はいつもと変わらない普通の日だったはずだったのに…


「てめぇら!すこしでも動いてみろ、この銃でお前らの頭消しとばしてやるからよぉ!」


なんなんだよこいつ!


さっきから動くなしか言わないで、目的はなんなんだよ…


学校の三階、2年2組の部屋には、黒服の不審者がいた、声から男であるという事は分かった。



「うーっ!うーっ!うーっ!。」


美沙ちゃんを人質に取りやがって…


どうすればいい?


『決断しろ』


え?


誰だ?


今、俺の頭に誰かが…


『お前は何を守りたい?』


これは…


俺か?


仮に誰かが話しているのなら、あいつが何か言ってくるはずだ。


これは、俺から俺への言葉か?


何を守りたい?


決まってんだろ、美沙ちゃんだよ…


小中とずっと好きだったんだ。


『動け』


でも…


『走れ』


だって…


『覚悟を決めろ!』


その瞬間俺は走ってた。


黒服の男も俺が走ってきたのに気づき銃を撃ってくる。


しかし、全て当たる事はなかった。


ああ、決めてやるよ…


覚悟ってやつを!


俺より体のでかい大男を鍛えてるわけでも、何か武術を習っているわけでも無い俺が倒すのは不可能だった。


でも、俺は知っている。


この世には勇気を持って悪に立ち向かう者に授けられる力がある事を…


男は6発全てを外し、腰にあるポーチからナイフを取り出そうとする。


左手で美沙ちゃんを捕まえていたが、ポーチが開けにくいのか両手を使いポーチを開け出した。


その一瞬で美沙ちゃんを男から逃げ出す。


ここだ!


俺は怒りに任せるのではなく、美沙ちゃんを守りたいという純粋な気持ちを拳に込めた。


その拳は男の顔面に入った。


「はああああああああ!!」


その細い腕からは想像もできない一撃により男は軽く5mは吹き飛んだ。


「お前の銃なんてあたらねぇよ。当たり前だろ?だって俺は…




主人公なんだから。」


咲島 勇 17歳


彼は主人公となった。


彼は好きな子を守るために、自ら茨の道を行く覚悟を決めた。


そんな彼に世界が与える力


『主人公補正』


悪を滅さんとする時、その者の拳は無限の力が宿る。



「〜さん。〜さん。咲島さん。咲島さん?」


「すいません!遅れました!」


俺は息を切らしながら、自分の席へと着く。


「どうしたんだ?今日は何があった?。」


隣りの席の四ツ河家 俊明がすこしニヤつきながら聞いてくる。


「はぁ、いや、それがな…」


「うん、息が整ってからでいいぞ。」


「すまない…ふぅー。よし、もう大丈夫だ。今日家を7:30に出たんだが、曲がり角になる度にパンをくわえた女とぶつかったり、交差点になる度にボールを持った子供がトラックにひかれそうになっててそれを助けたり…」


なんとなくだが、トラックにひかれたらこの世とは別の世界にいかなければいけないような気がした。


「大変だな。」


「ああ、大変だった。」


一週間前、俺はクラスメイトの美沙ちゃんを助ける為に主人公になった。


その時はそれでよかったのだが、その後がよく無い。


漫画やアニメで見たようなイベントがこの一週間休みなく続いているのだ。


一昨日も家に帰ると、見たことのない男が10人くらいて、変なことを言ってきた。


「君の右手には悪魔の力が宿っている。一緒に天使を殺してくれないか?」


「君はむかし、龍に力を与えられた人間の末裔だ!龍族の長になってくれないか?」


「君のその目は全ての嘘を見破る力がある!俺に力を貸してくれ!」


「貴方の心臓は魔王様の者だ。昔、人間に殺されそうになった時に隠していたのだ。」


「お前の左手は魔を滅する力がある。この世にはびこる悪魔を殺してくれ。」


「そなたの右足には強い浄化の力がある。」


「そなたの左足は呪われている。」


「お前さんには何故だか知らんが神の力がある。」


「あなたには私の国を救っていただきたい。」


「お前はかの英雄『ザババス』の息子だ。」


いや、人間の部分ほとんどねぇじゃねぇか。


というか、右手が悪魔で左手が魔を滅するの?あぶな!


おれ、龍なんだ…


嘘が分かるのは便利だな。


神の力があるのに、心臓は魔王なんだ。


右足の力で左足の呪い解けないのかな?


というか、おれの父親は誠さんです。


そんな、タンパク質が豊富そうな名前じゃないです。


当然、めんどくさそうだったので全員に帰ってもらった。


なんか…


主人公って大変…


「お前ら、今日は転校生を紹介する。」


ん?


嫌な予感。


「マリーです。」


「キャサリンです。」


「ナンシーです。」


「アリスです。」


「マーガレットです。」


ん?金髪で巨乳な美女転校生が5人?


「「「「「勇さん!私の事、覚えていますか!」」」」」


ですよねー


はい、逃げます!


「「「「「待ってー、なんで逃げるのー!」」」」」


逃げるわ!


俺は意外と少女漫画も読むから知ってるんだ。


これは、良くない。


多分幼なじみなのだろうけど、記憶にないよ!


これも、テンプレだな。


じゃなくて!


とりあえず外に逃げよう!


「ダメだーー!死ぬなーー!」


え?


校庭で叫んでいる男の目線を見ると、屋上から飛び降りようとしている自殺志願者が10人くらいいた。


えーーーーーー!!!


次々に飛び降りる志願者たちを一人ずつキャッチする。


なんか…フルーツを取るゲームみたいだな…



「疲れた…」


「お前、最近大変だな。」


主人公ですからね!


と言いたいが、そんなこと言ったら頭おかしい子だと思われてしまうだろう。


疲れたから、机に突っ伏していたがそれでもイベントが大量にくる。


休み時間の度にラブレターを持ってくるなよ…


昼休みくらい、休ませて…


全部適当にしてもいいのかもしれないが、それをすると主人公ではない気がする。


この昼休みだけで5人くらいからもらった。


本当もう、寝させて…


「ねえ、知ってる?学校の裏のお墓に出るんだって!」


「え、何が?」


「もう、分かるでしょ。お化けよお化け!」


「嘘だー。」


何やら不穏な会話が聞こえた。


これは…フラグですか?



はい、というわけで来ました。お墓。


何故来たか?


あの、不穏な会話を聞いていたイケてる系の男がじゃあみんなで肝試ししようぜ!とか言い出したからです。


男女二人組でお墓を回るというシンプルなものです。


はい、男女二人。


そうです。私のペアは美沙ちゃんです。


主人公の力に久々に感謝してます。


しかし、あまり乗り気ではないです。


何故か、それは俺らのペアが最後だからです。


ヒロインとペアで最後で肝試し。


絶対!何か起こるじゃん!






予想通りではあるが、美沙ちゃんは俺にくっついている。


えへへ。


たしかにあんな話を聞いた後に来るのは怖いよね。


ちなみに俺は暗視の力があるので全然怖くないです。


多分、神様の力か龍の力だろうね。


「ねえ、何か変じゃない?みんないるはずなのに、静かすぎない?」


おい!


その言葉は確実にトリガーだろ…


カーカー


カラス!鳴くな!


お前らが鳴いたら、確定だろうが!


「私の墓を荒らすのはお前かぁーーーーーーーー!」


ほら来た…


でかいな、オーソドックスな女の人の霊ね。


「きゃあーーー。」


叫んだ後に気絶。


これも、ベタだね。


あ、そうだ。早く言わないと。勘違いはすれ違いを生むからな。


「あ、違います。荒らしてません。」


「嘘をつけぇ!この男が言っておったぞ!」


「ああ、そうだ。人間だ。人間が君の墓を荒らしているのだ!」


誰だよ。


なんか、木の影みたいなとこにいるけど俺にはバレバレだからね。


おい、見えてないと思って鼻をほじるな。


「だから、してないって。」


「うるさい!とにかく死ねぇ!」


実力行使か…


ラッキー。


その方が早そう。


右手だっけ?


左手か?


どっちに魔を滅する力があるんだっけ?


たしか…右!


くらえ!


「お前のような人間の力が我に効くわけないだろ!」


間違えた!


「そうだ!やってしまえ!墓を荒らした人間を殺すのだ!」


ついでに言うとお前の言葉が嘘だって事は見抜いているからね。


俺の目なめんな。


「左手パンチ!」


「馬鹿め!効くわけないだろうが!」


「ぎゃーーーー。」


「え!なんで?」


「しょーりー!」


とりあえず、ピースサインを空へ掲げておく。


「くっ…こうなれば俺様自らが!死ねぇ!」


男が黒いような紫みたいな闇っぽい球を撃ち出した。


え、魔法使えるの!ずっこ!


あ、やべ…


当たるわ…


頑張って、俺の体!


ドンッ!


「ふふふ…残念だったな人間。この技を防ぐのは不可能よ!英雄ザババスには効かなかったが、普通の人間が五体満足で生き残る事は不可能!」


「父さんありがとーーーーーーー!!!」


助かったー。


流石に死んだと思ったわ。


なんか分からんけど、身体中から出たこの光が守ってくれた。


「なっ!何故だ!こうなれば!俺様の真の姿を見るがいい!『ドラゴパワー』!」


男の体はデカくなった。


羽も生えて、ツノも生えた。


龍でした。


「どうだ!恐ろしいだろう!」


俺って龍の力をもらった人間の末裔だよな。


出来んじゃね?


「『ドラゴパワー』」


出来ました。


しかも、男よりもでかい龍に。


「な!なんなのだ!貴様はーーー!!」


何って言われても…


「主人公です。」


「ふざけるな!」


ふざけてないけど?


龍って火とか吹けるのか?


「でかいだけだろうが!くらえ!」


あ!火吹いた!


やっぱ出来るんだ。


俺もやーろうっと。


「くらえ!」


めっちゃ出たわ。


俺の炎は男の炎を飲み込んで、そのまま男ごと燃やした。


「しょーりー!」


またも勝ってしまった。


強すぎる。


あれ?


これ、どうやって戻るんだ?






「も、戻った…」


危ない危ない。危うく戻れなくなるとこだった…


時間経過で戻れました。


「あの…」


ん?


あ、さっきの女。


「どした?」


「あのあなたは本当に墓を荒らしたのではないのですか?」


「うん。荒らしてないよ。まあ、人間がやったかもしれないけど俺ではないね。」


すると、女の霊は俯きながら謝ってきた。


「すみませんでした…墓が荒れてしまい、感情が暴走してしまいました。こんなんだから成仏もできないんですよね…」


え?


「成仏できないの?」


「はい…あまり良く分からないんですけど…期限切れらしいです。私がヘタレだったからなんですけどね…」


へぇ、成仏って期限あるんだ。


「なあ、成仏したいのか?」


「そうですね…ここに居てもする事ないので…」


よし、確認はとった。


「おい、歯を食いしばれ。」


「え?」


俺は蹴った。


浄化の力あるらしい右足で。


「ふぎゃあ!」


「大丈夫か?」


「何するんですか!」


「おまえ、体光ってるけど成仏できんじゃね?」


「え?」


自分の体に起きている事に気づいたのか女の霊は泣き出してしまった。


「元気でな。」


「あ、あ、ありがとうございますぅ!!」


女の霊が成仏すると変な感じはなくなり普通の墓になっていた。


「う、うーん。」


あ、起きた。


「おい、何寝てんだ?いくぞ。」


「え?あれ?私…ちょっ待ってよぉ!」



俺は主人公になった。


主人公補正で馬鹿みたいに力も出せるし、いろんな力もある。


もしかしたら他の奴らは俺の力を妬むかもしれない。


だが間違えないで欲しい。


この力は自分で掴み取ったものなのだ。


力を妬むだけで覚悟も決められないモブどもでは掴めない力なのだ。


それに、毎日曲がり角で女子とぶつかったり、交差点でトラックにひかれそうになったり、金髪転校生の大群に追いかけられたり、自殺志願者をキャッチしたり。


大変なんだよ!


それに…主人公とヒロインはすぐには付き合えないし…


まあ、自分で選んだ道だ。


とりあえず、頑張ろうかな。


今のところ役に立たない左足と共に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

主人公になりたくて ハトドケイ @hatodokei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ