第5話 調査
「こいつ、いったいどれだけ暴れまわってるんだ?」
翌日始めた調査の、想像以上の進捗の良さに、庸介は思わず驚きの声を上げた。
庸介の住んでいるこの県は、かつて日本最大の反社会的勢力の本部があったことでも有名で、故に現在でも多くのその筋の人間が県下に散在していた。庸介は前職の経歴からそういった類の人間に伝手があり、高末真也の調査をするにあたっては、縄張りを侵されているであろうその筋の人間を、まず当たった。
多少の情報が出れば良い程度の腹づもりだったが、結果、拠点から構成員人数とその氏名まで、二日程度で全ての情報が出揃う。
簡単にそれだけの情報の提供を許してしまうほど、高末真也は裏の人間からの反感を買っている事実に、庸介は呆れるしかなかった。
(まだ、時間はあるが……)
正午はずいぶん前に越え、次第に日は傾き始めるだろう。
あまり時間をかけてしまえば、Vamp症患者相手にはそれだけで致命的な状況を招いてしまう。
焦る必要はない。
逸りそうになる気持ちを押さえながら、庸介は帰路についた。
秋風に吹かれながら歩くと、やがて事務所兼自宅の雑居ビルが見えてきた。
周辺も同じような背の低い雑居ビルばかりだったが、そんな雑居ビルに囲まれるように、何故か教会が建っていた。宗教に造詣がない庸介には、その教会が大きいのか小さいのかはイマイチ判断がつかないのだが。
そんな教会の扉から、庸介は中を覗き込んだ。
聖堂というのだろうか、ホールの中では、いつものようにミティがマリア像に向かって祈りを捧げていた。
画になる——というほどではないと思うが、幼い少女が真摯に祈りを捧げるその姿は、どこか神聖さを感じさせるものように庸介には思えた。
いつものように扉の傍に立ち、ミティの祈りが終わるのを待つ。
やがて、ミティは合せた手を解き、顔を上げ、まるでそこにいるのが分かっていたかのように庸介の方を振り返った。
その顔は、普段とは全く違った、大人びた柔らかな笑顔。
出会ったばかりの頃を思い出させる、どこか猫を被ったような表情だった。
落ち着いた仕草でゆっくりと近づいてきたミティの髪を、庸介はゆっくり撫でる。
「家に帰るか」
「うん」
静かに応えるミティは——
家ではいつものミティだった。
「庸介ー、ごはんまだー?」
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