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朝日奈

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 刑事さん! ちょっと刑事さん、聞いておくれ! あたしゃ見たんだ! 見ちまったんだよ! 殺人現場! ホントなんだからね!

 おいぼれだからってね、自分の目で見たことが本物か嘘かくらい判別できる程度の頭は持ってるんだから!

 場所はあたしの隣の家! 空き家なんだけど、最近ちょくちょく出入りしてる奴らがいてね。それも夜遅くに!

 コソコソと何してるのかと思って、あたしゃ奴らのことずーっと監視してたんだよ!

 あ、監視って言ってもそんな法に触れるようなことはしちゃいないからね。

 奴らを見かけたときにちょーっと首を伸ばすくらいなんだから。

 でも、奴ら屋敷の中に入った途端、ドアも窓もぴっちり閉めちゃって、中で何やってるか覗くことすらできなかったんだ。

 でも、今日とうとう見ちまったんだよ!

 天気予報でも言ってただろう? 今日の夜は風がすっごく強いって。あたしんちのドアはこういう日に限って役立たずでね。

 鍵を閉めてなかったら、ほんのちょっと風が吹くだけですぐ開いちまう。ホントに役立たずだよ。今度見てもらわないと。

 そうそう、それで、あたしゃ寝る前にちょっと気になってね、念のために鍵が閉まってるか確認しようと思ったのよ。

 そしたら、ちょうどドアの窓から隣からの明かりが見えてね。もしやと思って外に出てみたのよ。

 そりゃあ、外はもう風が吹き始めてたし、ただの街灯かもしれないし、止めようかとも思ったけど、本当に奴らだったら、

 もしかしたら奴らが何をしているのか見れるかもしれないじゃない? あたしは覚悟を決めて見てみることにしたの。

 そうしたらこれが大当たり! ちょうど奴らが屋敷の中に入っていくところでね。

 しかも、奴ら間抜けなことに部屋のカーテンを開けっ放しにしていたの! いつもはぴっちり閉めちゃってるくせに。

 酒でも飲んでたのかしらね。男ってホントお酒に弱いんだから。

 とにかく、これはあたしにとってまたとないチャンスだったのよ。あたしはこっそりとその窓に近づいたわ。

 ええ、そりゃもうかなり用心したわ。物音でも出して奴らに気づかれてカーテン閉められちゃったら終わりだもの。

 あたしはなんとか奴らに気づかれずに窓の側まで近づいたわ。でもすぐに中は見なかった。ちょっと怖かったからね。

 夜中にコソコソとしなきゃいけないことなんて、ロクなことじゃないに決まってる。

 でも、せっかくここまで来たんだもの。もう後戻りは出来ない。あたしゃゆっくり、窓の中を覗き込んだわ。

 中は食堂みたいだった。壁脇に暖炉があって、部屋の中央には長いテーブルがあった。

 奴らはそのテーブルを囲んで立ってた。それだけならまだマシよ。あたしだってよく立食パーティーは開くもの。

 あたしの作るプディングはそりゃあもう最高でね。それが目的でパーティー参加する人だっているくらいなんだから。

 今度刑事さんにもおすそ分けしてあげる。

 で、そのテーブルを囲んでた奴らなんだけど、最初はあたしも立食パーティーをしてるもんだと思ったわ。

 でもそう思ったのはホントに最初だけ。テーブルの上のものを見た瞬間、あたしゃ魔女の儀式でも始まるのかと思ったわ。

 テーブルの上には人が横たわってたのよ! しかもまだ意識があるらしくて、首や手足をむちゃくちゃに動かしてた。

 きっと奴らに縛り付けられて無理矢理あそこに寝かされてたのね。かわいそうに。

 でも、その人どこかで見たことあるのよねぇ。誰だったかしら。思い出せないわ。

 とにかく、奴らは何か話しながらその人のことをじっと凝視してた。

 時々、ドクターが患者を調べるみたいに手足を触ってたわ。

 でも、こっちに背を向けて立ってる何人かのせいで、あたしのとこからじゃ何をしてるのかよく見えなかったわ。

 あたしがもう少しよく見ようと首を伸ばしてたら、急に奴ら全員何かに同意したみたいに頷きあって、

 一人が部屋の外に出ていった。あたしゃいよいよ儀式が始まるんじゃないかって思ったわ。でも、儀式なんて始まらなかった。

 部屋から出て行った奴はすぐに戻ってきたけど、その手にはなんと大きな木製の杭を持ってたの。

 そして、こともあろうか、その杭を横たわってた人の上から振り下ろしたのよ!!

 あたしは、それが刺さったどうかは分からなかったわ。だってその瞬間腰を抜かしちゃったんだもの。

 でも、部屋の中からくぐもった叫び声が聞こえたから、きっと深ーと刺さったんでしょうね。

 今でもあの声が耳から離れないわ。ああ恐ろしい!

 あたしゃなんとか起き上がって誰かにこのことを話さなきゃって思ったわ。

 奴らに見つからないよう、急いでその場を離れた。

 いつもなら今夜みたいな強くて冷たい風はあたしの敵だけど、今回だけは味方だった。

 だってそのおかげであたしの頭は落ち着くことが出来たんだもの。

 あたしは真っ先にヤードに行かなきゃと思った。電話するより自分の口で伝えた方が分かってもらえると思ったからよ。

 決してパニックだったからじゃないわよ! あたしの頭はむしろ冴えてたんだから! まぁ無我夢中ではあったけどね。

 とにかく、あたしゃ走りに走ったわ。こんなに走ったのは何十年ぶりかしらってくらい。

 そんなことを思いながら走ってたら、近所に住むデリックじいさんが向こうから歩いてきたのよ。

 あのじいさんまだ夜歩きのクセが直っていないのね。でも、今のあたしにとっては好都合だった。

 一緒にヤードに来てもらおうと思ったの。あの人の息子、確か警官やってはずだから、いろいろと都合がいいと思って。

 でも、あのじじいったら! あたしが何を言っても聞きゃあしない。鼻歌なんか歌っちゃって。

 あのじじい絶対お酒飲んでるに違いないわ。まったく。本当に男ってお酒に弱いんだから。

 あんな飲んだくれじじいは放っておいて、あたしゃ一刻も早くあたしが見たものを刑事さんに伝えなきゃと思ったわ。

 ね、今夜のあたしって冴えてるでしょう。だからこんなに早く通報することが出来たんだから。

 ねぇ、聞いてる? 刑事さん。そんな机に向かいながらじゃなくて、ちゃんとあたしの顔を見て聞いてよ。

 ねぇちょっと刑事さん。聞いてってば!

 もう何よ! どいつもこいつも人の話をまともに聞きゃあしないんだから! 分かったわ。あんたも酒飲んでるんでしょう!

 だからあたしの話なんてちっとも耳に入っちゃいないんでしょう! ほんっとに男って酒に弱いんだから!

 飲んだくれのアンタなんかクビにされちまえ!! このっこのっ!

 ……ねぇ刑事さん?

 あたしさっきからアンタの机蹴ってるんだけど。どうしてちっとも反応しないのさ?

 机にばかり向かってないで、ちょっとはこっちを向いてちょうだいよ。あたしもだんだん足が疲れて……、





 足が…………………………ない?






――ああ、そうか……。







 刑事さん。今思い出しましたよ。その殺されてたって人。あれは――










 あたしだ。




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