任務失敗
マルコが来日して初めての週末。透とマルコは学校から電車で約一時間もかかる繁華街にはるばる足を運んでいた。ここへ来たのはカレン・リードの捜索のため、ではなかった。目的は呑気にもマルコの男物の服を買うことだった。
時間が惜しいのにこのような突拍子もないお出かけの言い出しっぺは透だった。このようなことを言い出すのはそもそも透しかいない。
透はマルコが持ってきていた念動力なしでは運べなさそうな大きなアタッシェケースを開けていたところを偶然目撃してしまい、その中身に驚愕した。女物の服、下着が詰め込んであった。中にはどこで着るのか、フリルふりっふりのゴスロリドレスなんて代物も混ざっていた。
「マルコ……お前、そこまで女装に……でも、のめり込むのも仕方はないよね、似合ってるのだから。そういえば部屋着も色合いがどこか女の子ぽかったし……」
「違いますよ! 誤解です! これは全部ケイトさんの指示で持ってきたんです!」
「そうなの?」
『そうよ。徹底的に女装しなくちゃバレるかもしれないでしょう』
マルコへの問いのつもりだったが容疑者が姿を見せないものの登場する。
「いたのか、気付かなかったぞ」
『気付けたら、あなたはエスパーよ』
「それより、これはお前の趣味?」
ふりっふりのドレスを手に取って時計に向かって開く。
『ごめんなさい、あなたたちとは音でしか交信できないの。どんなデザインか言ってくれるかしら?』
「あれ、そうなの? そうだっけ?」
てっきり、こちらの光景をしっかり観察しているかと勘違いしてた。腕時計にカメラ機能はないのに何故こんな勘違いしたのか少し引っかかる。
「悪趣味なフリルふりっふりのゴスロリドレス」
『あぁ。あの素晴らしい可愛いドレスね……マルコの女装は大概カレンのお下がりよ。ほとんどが貰い物で彼女自身が着ることもなかったみたいだけど』
「カレンの持ってた服も把握してるの……どれだけ仲いいの」
二人の間柄が気になるが今はマルコの服装が先決。
「マルコはどんな服装をしたい」
「できるのであれば男の格好したいですけど、いつ超能力が暴走するのかわからないので偽装しなくちゃいけないんです」
「なるほど、そういう理由。賢いな」
『じゃあちょうどいい、ドレス着ましょう♪ ドレス♪ ドレス♪』
「なるほど、こいつもそういう奴。馬鹿だな」
『ノリノリに着こなしてくれてもいいけど、恥じらってきてくれるほうがこう、来るものあるわよね』
「かわいそうにマルコ……いじわるケイトばあさんに弱みに付け込まれて……」
『私はまだ十八よ!』
ケイトのツッコミをスルーし、
「よし、マルコ! 今日はカレン・リードの捜索はお休みでデートに行くぞ、デート! 男物の服を買おう!」
『それ、ただサボりたいだけじゃ……』
「ケイトさんには聞いてない! どうだ、マルコ?」
「いいんでしょうか、ケイトさん……姉の捜索を優先したほうがいい気がしますけど」
「こらー! ケイトさんに聞くんじゃない!」
『……いいんじゃない? どうせ今日一日費やしたところで見つからないだろうし』
こうして承諾を得て今に至る。
はるばる遠い都会を選んだ理由は近所で男物を買うとクラスメイトに見つかり怪しまれるかもしれないからだ。
さらに念には念を。ここに来るまで利用した鉄道もわざわざ遠回りのルートを選び、人の少ない時間帯を選んだ。
「ここまでする必要があるんでしょうか……?」
『でも彼女の人避けスキルはプロ並みのおかげで道中クラスメイトと遭遇せずに辿り着くことが出来たわけなんだけどね』
「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
『実は褒めてないのよ、気づいて』
「知ってます~」
街を歩いていると反射率の高いガラスを通りかかる。その前でマルコは足を止めてぼやく。
「これ、逆に目立つような気がするんですけど」
今日の服装は制服ではなく特定されないよう目まで覆えるフードのついたパーカー、そしてサングラスをかけていた。金髪とオッドアイを隠すためだ。この二つの特徴だけでマルコと特定されてしまう。
「そう? 今日のマルコは決まってるよ」
ただしズボンが女性用ショートパンツなのが非常に惜しかった。
「そうですか……」
褒められたマルコは照れ隠しでフードを目深に被った。
『ドレスもいいと思うのよね……』
ケイトもケイトで押し付けがましく、ぼやいていた。腕時計は今日も巻いていて長袖で隠すようにしている。
「ケイトさんはあまり話さないでよ。私が腹話術をしているように見える」
『善処するわ』
「それは大概いいえって意味だぞ」
『あら、そのつもりで言ったんだけど』
「あんた……友達いないだろ」
『少なくともあなたよりはいるわ』
「ぐぬぬ……」
反論できなかった。高校進学と同時に購入したガラケーの電話帳は実家と母親の番号しか登録されていない。
『黙ったわね。これで一勝一敗よ』
「何の勝負?」
ケイトが答える前にマルコが透の手を引っ張る。
「早くお店に行きましょう。ここは少し目立つ気がします」
「わかってるよ。あんま急ぐなよ、離れるなよ。暴走してもカバーしてあげないぞ」
マルコが男装して外出する条件をケイトは出していた。それは必ず側に女性の透がいること。超能力が暴走してもマルコにその疑いがかからないようにするためだ。さらに今日の透は私服だったが制服の時しか付けない安全ピンの肩章を刺している。安いポロシャツなので穴が空いても問題はない。
学校付近とは違い、都会を歩くと透は視線を嫌でも感じ取っていた。性別年齢関係なくすれ違う人から視線を感じる。肩章のせいだろうか、いつもより人の目を引いてしまってる気がした。
「マルコ、私に変なところない?」
「えと……特にないと思います」
「寝癖立ってない? まあ常時天パなんだだけど」
「立ってませんよ。天パというかふわふわしてます」
「本当に?」
「嘘だと思うなら透視してみたらどうですか?」
「ちょっと待って……いいの? 考えてること覗かれちゃうんだよ?」
「別にいいですよ?」
「お、おう……それじゃあ、お言葉に甘えて……」
思考の透視は質問してからだ。
「マルコってファーストキスはもう済んでるの?」
白い肌が日焼けの跡のように真っ赤に染まる。
「さっきと質問違いますよ!」
しかし思考の透視が上手く行かなかった。感情や思考が伝わってこない。
「うーーーん? 今日は調子悪いのかな、えへへ」
『なに微笑んでんのよ』
「ケイトさんには教えてあげません」
それなら、と試しに物体を透視する。今日のマルコの下着は青のトランクスだった。
「うーん、まあ……そんなに人生うまくいかないかぁ」
「どうされたんですか」
「いやさ、マルコ、無我の境地を習得した?」
「……本当にどうされたんですか。今日の透さん、ちょっとおかしいですよ」
真剣に心配する。
「今日なんだか目立ちゃってる気がしてさ。。肩章のせいかな? あ、無我の境地は忘れて」
「え、えと、目立ってるのは肩章関係なく透さんが」
『フード被ったサングラスの子供とポロシャツで色気のない女の組み合わせが田舎者みたいで目立ってんじゃないの』
「あちゃー、地味なのがむしろ目立つのか。都会は怖い」
マルコが小声で腕時計に話しかける。
「いいんですか、それで」
『いいのよ。調子に乗るだけだから』
二人だけの会話をしてると透が割って入る。
「だからケイトさんがしゃべると! 私が変な人に見える!」
用事を真っ先に早急に済ませてしまい、暇になってしまう。特に次の用事が思いつかないまま、駅の周辺をふらついているとマルコがとある店を見つけた。
「電器屋さん、寄っても良いですか!」
日本製の商品が並ぶ家電量販店が物珍しいらしく○ロリアンと際会した時と同じくらい興奮していた。男の子らしく無条件で機械が好みだった。
「いいよ、だから前見て歩いてね」
微笑ましい姿を眺めながら駅前の家電量販店に入ると、
「うげっ」
透だけが呻き、タコと出くわしたエビのように瞬時に後退した。中は自分の呼吸する分の空気が残ってないと思わせるほど人が密集していた。
「マルコ……やっぱ止めとかない?」
だが返事はなかった。それどころか、姿がない。すぐにわかった、今の一瞬だけではぐれてしまった。
「やれやれ、これだから子供は」
ケイトとの約束を忘れ、人混みの中は疲れるため飽きて戻ってくるのを入り口で待つことにしたが、そのせいでとある人物と遭遇してしまう。
「あっれー、透じゃーん。ぐうぜーん」
発泡スチロールの擦れる音よりも不快指数を上げる声が耳に届く。学校の教室でもよく耳にする声だった。よりにもよって馬詰武美と際会する。彼女は膝上まであるデニム生地のパンツ姿の活発なオフの格好。話し相手の渋面を気にせず、明るいトーンで話しかけてくる。
「何? デート? 男いたの?」
「……」
透は今回も無視して乗り切ることにした。
「あ、わかった! マルコちゃんだな、一緒にいるの」
心臓が飛び起きた。まさか男だと見破っていたのか。
「だからデートじゃないかぁ。子持ちは大変ですねぇ。せっかくの美人なのに男が寄ってこないのは残念だねぇ」
そうではないようだ。胸を撫で下ろす。
「ねぇ、暇そうだしお茶しない?」
「……」
「あ、マルコちゃんも一緒にどう?」
「……マルコはいない」
なるべく一緒にさせたくなかった。ケイトのような教育ママではないが、教育上害悪に指定される。
「いいよ、お茶でしょ。行けば良いんだろ、行けば」
ここにいるとマルコがいつ戻ってきて接触してしまうかわからない。そして何より馬詰は先程から無意識にポケットに手を伸ばし何かの感触を確かめる仕草をしている。透視してみるとその正体が物騒なものだとわかり、絶対に巻き込んではいけないと覚悟したからだ。
「お、誘ってみるもんだね。どんな風の吹き回し?」
誘っておいて失礼なことを言う。
「今日はマルコちゃんは一緒じゃないんだ。いつもは金魚の糞みたいにくっつているのに」
「金魚の糞は、そこにいる紙袋のお化けだろ」
もう一人、会話に参加しないがクラスメイトが側にいた。首から下を大量の紙袋でコーディネートをした奇妙な格好をした土尾煌という名前の眼鏡でお下げで名前の漢字に対して目立たない日陰の少女だった。見た目通り臆病で争い事を好まず押しに弱く、馬詰との相性は最悪。馬に牽引される馬車のように自分一人では前に進めない存在に成り下がっている。
「あんまり親友を悪く言うと怒るぞ。俺の荷物を持ってくれる親切な奴なんだ」
馬詰の行いに苛立ち、土尾の境遇を哀れに思えた。土尾とは体育でたまに二人組みを作る時ぐらいの親交はある。余り者同士の合縁奇縁だ。
「少し持とうか」
ほんの気まぐれで手を差し出すも、
「い、いえ……大丈夫ですので」
丁重に断られた。
(クラスメイトなのに敬語か……まあマルコも同じか)
馬詰を先頭に人気のない方向に誘われる。
「繁華街とは逆に行くんだな」
「こっちに穴場があるんだよ」
思考を読むまでもない、嘘なのは明白だった。
さらに進み、ビルとビルの隙間に入り行き止まりで馬詰は足を止める。
「間違えたのか、なら戻ろうか」
「いいや、ここで合ってる」
「野点でもするの」
「……悪いな、お茶会は中止だよ」
馬詰が振り向いて右手に握った折りたたみナイフを見せびらかす。
「そのナイフでケーキでも切ってくれるのか」
「このナイフは兄貴から借りてきたんだよ」
「お兄さんはパティシエか何か」
「いつまでもお茶会にこだわってんじぇねぇ!」
ナイフを突きつける。逃げようにもどんくさそうな紙袋のお化けが退路を塞いでしまっている。
「お金欲しいの? 悪いけど帰りの電車賃しか持ってないよ」
透に一点の焦りもなかった。いつかこうなることは予想し、切り札の準備は出来ていた。むしろその切り札を試したくてうずうずしてしまっている。
「貧乏人から取り上げるほどお金には困ってないよ。私は里見透の超能力について知りたいんだ」
「横になって一秒で眠りにつくことができる」
「そういう冗談はいいからさ。念動力、透視、瞬間移動、テレパシー、サイコメトリー、パイロキネシス……このうちのどれなのか、聞いてるんだよ」
挙げたのは全て現在確認されているごく一般的な超能力。つまり透を長期間側から観察しても超能力が何なのか、無様にも断定できなかったと露呈してしまったことになる。
「知ってどうする?」
「お前には関係ないだろ」
透は今の質問で思考の透視をし、馬詰の狙いが対策を講じ痛めつけることだと知った。下種にも程がある。
「……何のために知りたいのかわからんけど、お前なんかに教えられない。私の平穏な人生のためにも教えるわけには行かない」
そう言いながらポケットから赤い筒の形をした切り札を取り出す。
「なんだ、マーキングペンでナイフと一騎打ちでもしようってか」
そしてキャップを開ける。キャップの底は火を起こすマッチの構造をしていた。
「させるかっ!」
ナイフを持っていない左手で透の腕を強く掴んだ。左が利き手なのか、痣ができるぐらい痛いがそれでも透は怯まない。
「私は親切だから教えてやる、これは車に備え付ける発煙筒というものだ」
ゆっくりとキャップの底面と筒の先端を擦り合わせて火を起こした。
「そしてただの発炎筒ではない、改造した特殊な発煙筒だ」
先端の火から白煙が大量に吹き上がり、閉鎖空間を飲み込み始めた。
「うわ! なんだ! なんだこりゃ!?」
急な出来事に馬詰の掴む力が緩んだ。
「ごきげんよう」
その隙に振り払い、逃げようとするも、愚かなことにまたも悪戯を思いつき、実行に移してしまう。
「日頃の恨みだ……」
透視能力の数少ないメリットがある。そのうちの一つが煙幕の中でも透視を行えば周囲がクリアに見えることだ。これは一度寮のキッチンでカレーを作ろうとしたとしたがうっかり焦がしてしまい煙が充満したときに偶然発見した。その後さらに七輪でサンマを焼く際に目が煙たくて目を瞑って瞼を透かせば同じように煙をも透視できるとも発見した。その経験を生かし、煙幕を武器に選んだ。
透は馬詰の背後に静かに周り、今までの恨みを込めて尻を蹴飛ばす。
「……チッ! 今の里見透か!?」
勿論返事などしない。次は左側面から忍び寄り、ほんの少し首を撫でる。
「くっそおっ!!!! なめやがって!!!」
逆上した馬詰がやけくそに右腕を振り回す。当の本人はその手にナイフを握っていることを忘れてしまっていた。
「うわ、やば」
透はすぐに距離を取ろうとするが、運が悪いことに鈍くさく煙の中を彷徨っていた土尾と背中がぶつかる。
「ごめんなさい! ぶつかってごめんなさい!」
「こんなときまで謝らんでいい!」
状況は先ほどから何ら変わらない。退路は塞がれままだった。馬詰のむやみやたらなナイフは見失ったはずの透を目掛けていた。元々広くない場所で回避できる余裕がない。
(あ、やば……)
判断を間違えてしまったと気づく。切り札を使うにしても使ったらすぐにその場を離れるべきだった。鋭利なナイフに刺されれば軽傷では済まない。来るとわかっていても想像しがたい激痛の恐怖に体がすくむ。回避行動もままならなかった。しゃがめば間に合うかもしれないが、そうなると今度は後ろにいる土尾が危ない。
顔に大きい切り傷ができることを覚悟、いや諦めて目を強くつむった。
『透! 伏せなさい!』
幻聴か、ケイトの声が聞こえ反射的に伏せてしまう。
煙の中から突如、紙袋が姿を現す。二つも三つも飛来し、その内の一つが馬詰の腕に命中し、ナイフが地面に落ちる。
剣戟の脅威が消え、伏せたまま移動する。
『透! こっちよ!』
またケイトの声が聞こえた。ケイトの姿を探すが見つからない。わかるわけもない。透視で周囲を見渡すと電柱の陰でマルコが手を振っていた。
「捕まえたぞ、透!!! さっさとこの煙をなんとかしやがれ!」
馬詰が首を掴む。
「く、くるしい……私は透さんじゃありませ……んっ」
タップする土尾を後目に、
「お先に失礼します」
マルコの方向へ走る。
「ありがとう、危ないところだった」
合流すると真っ先に礼を言う。
『礼なら後で良いわ。それより消防車が来るかもしれないから早く逃げましょう』
透は一瞬だけ振り返る。ほんのちょっと手を加えたつもりだったが、煙は今も絶えず発生し、ビルの背より高く上り、遠くから見れば火事が起きたかのように見える。
脱兎のごとく透とマルコは駅へ走る。マルコは今日買った男物の服の入った紙袋を持っていないおかげで足が早い。
改札を通り、ホームへ下りるとちょうどよく電車のドアが開いたので乗車客が降りるのも待たず二人は飛び乗った。息を整えながら改札に繋がる階段を睨む。電車の扉が閉まるのと同時に安堵の溜息を漏らした。
息を整えながらマルコは素朴な疑問を投げかける。
「透さんは……いつもあんなものを持ち歩いているんですか」
「まあね。女子高生の必需品よ。世の中物騒だからね。実際役に立ったし」
「車内には他にも女子高生はいらっしゃいますけど全員持ってるんですか」
「あぁ持ってる持ってる。スマホのストラップにする奴もいるよ。ランドセルの防犯ブザー感覚でみんな持ってる」
「……大人気なんですね、発煙筒」
しばらくの沈黙の後、
「……薬品の分量をグラムとキログラムで間違えたかもしれない」
料理みたいなものだと思って軽い気持ちで行った工作でまさかあそこまで大事になるとは。今更ながらしでかした行為が怖くなってきた。消防車の音が遠くで聞こえるとまたも体が震える。
「マルコー。私、捕まっちゃうのかなー」
透は涙ぐむ。普段見せない珍しい表情にマルコはどきっとする。
「大丈夫ですよ」
マルコは紳士的に手を握って慰める。
「……でも透さんは女の子なんですからね。もうあんな危ない真似はしちゃダメですよ?」
「うん、もう発煙筒を改造したりしない……」
ストックが家に五本残ってる上に薬品が足りないので再生産は不可能だ。
「そっちではなく、馬詰さんについて行ったほうです。まだ二人だったから良かったですけど仲間に待ちぶせされてる可能性もあったじゃないですか」
透は改めて省みる。確かに切り札があったからとは言え、それに頼りすぎて思考停止をしていた。軽率な行動の末、顔に大傷ができていたかもしれない。
「僕が付いていたので良かったですけど。怪我はありませんか」
マルコは煙の外にいたので気づいていない。顔どころか命を救ったことを。
「……そうだね、本当に助かった」
透は小さきヒーローの頭を撫でる。そして感謝の言葉を告げる。
「マルコのストーキング力が上がっていたことに感謝だな! 尾行されていたのに全く気づかなかったぜ!」
素直に言えば良いものをねじ曲げて褒める。
「そっちですか! もっと褒めるところがあるでしょう!」
マルコは褒めて欲しかった。成り行きとはいえ目覚めた力を初めて有用に利他的に使えたことを誰よりも透に褒めて欲しかった。
怒るマルコに透は相好を崩す。
「ところで明日からなんだけど今日の一件もあるから馬詰には要注意だ。なるべく一緒にいるようにしよう」
とは言ってもこの一週間は二人はべっとりとくっついていた。
「お風呂までついてこようとする人が何を言ってるんですか……」
「あれ、そうだっけ。まだそれぐらいだっけ? なら明日からもっとべたべたしなくちゃね」
「もう抱きつかないでください! 電車の中ですよ!」
マルコは声を荒げたが、本気の抵抗はしなかった。
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