其ノ弐拾参 玉砕ニツイテ
隆たちが一階へ降りると、そこには王龍と麗春がいた。たった今、父親が娘から除去した手錠を、不要になったソ連軍の無線機と共に投げ捨てたところだった。
「南側から出ろ、ソ軍は北に陣を張ってる」
中国人たちへと隆は指示した。振り向いた親子は困惑していたが、少尉が腕で仰いで急かすと部下たちと一緒に裏口へと進みだした。
後続の隆が王龍に尋ねる。
「黒木大尉はどうした」
解答を得る以前に前列から悲鳴が上がった。
壁をぶち破ってカ号兵器が現れ、進路を塞いだのだ。そのとき、横から飛んできた建物の破片がカ号の顔を突き抜けた。
「こっちだ
音声は黒木大尉だった。
カ号兵器は鬼神の如き形相でそちらに臨み、直立する黒木を認めると、余裕の笑みで接近していった。恐れるものなどもはやなく、悠々と狩猟を満喫するように。
「黒木大尉、避難してください!」
呼び掛けた隆を筆頭に、中国人親子を加えた九人の仲間たちは、自分たちを救った大尉を置いていくわけにもいかずに立ち尽くした。
黒木が制するような眼差しを部下たちへ投げる。
「いいから行け、命令だ」
そこで彼は僅かに言葉を途切れさせ、悟ったように言った。
「自分自身を忘れるな!」
やや躊躇したあと、隆はやむを得ず同胞たちを先行させた。みなが大尉へと未練を孕んだ一瞥を投げたあと、ようやく駆けだす。隆は最後に敬礼し、黒木が頷くのを見届け、彼の意思をなるたけ継ごうと決意して仲間たちを追った。
禍々しい所得顔は、黒木大尉を圧倒した。丸腰の彼には後退する空間すらない。にも拘らず、黒木には微かな笑みさえ浮かんでいた。それによってカ号兵器は、獲物の目線が己にさえ注がれていないと理解した。
「壊れた竃の炎は、鎮火させねばな」
黒木康博の宣言を聞き、怪物はあたかも人間のような挙動で、目前の脆弱な生き物の視線を辿った。
瞬間。怒涛の鉄砲水が、有象無象を呑み込んだ。
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