望月の国・菊姫

第10話 姫・お見合いを言いつかる

貴司が夢の国(?)に来る1年ほど前の望月の国。

 

晴れ渡ったある日、生け花を嗜んでいる時に父から呼び出された。


 「父上、何か御用があるとお聞き参上しました。」

 「ふむ、表をあげよ、親子だけの時は無礼講でよい。」

 「ですが・・」

 「よい、よい・・」


 面を上げ苦笑いを浮かべながら父を見る。

久々にみる父はゲッソリとして顔色がよくない。

おそらく隣国からの再三に渡る嫌がらせと、私を人質に出せという催促のためだろう・・

人質の件は父は頑として首を縦に振らない。

私は武家として産まれたからには覚悟をしているのだが・・


 「どうだ、そちは息災か?」

 「はい、おかげさまで何事もなく恙なく暮らせております。」

 「そうか・・ならよい。」


 そういって父は笑顔を作る。


 「父上、大丈夫ですか?」

 「ん? 何がじゃ?」

 「誤魔化さないで下さいまし! 私にできることでしたら覚悟はできております。」

 「・・・」


 父は無言で私を見つめる。

やさしい目だ・・


 「そちは幾つになったかのう・・」

 「16で御座います。」

 「ふむ、そうであったのう・・」

 「あの・・人質の件でしたら・」

 「いや、その件ではない。」

 「・・・」


 「のう菊、輿入れこしいれをせんか・・」

 「え?人質ではなく、輿入れですか?」

 「うむ、隣国・あずさの国じゃ。」

 「なるほど、梓で御座いますか・・」

 「さすが菊じゃ、話すまでもなく分かるか・・」

 「はい・・」


 父は周辺の国主と違い、女だからと言って箱にいれた人形のように私を育てなかった。学問を習わせ、武術も習いたいと言えば習わせてくれた。

母は呆れ、叔父、叔母は意見をしたが、何処吹く風の如くひょうひょうとしていた。


 私は一通り国政のことも知り、父から許しを得て自分専用の組をつくり情報収集などをしている。父から見たら毛の生えたようなものなのだが・・


 望月の国だが・・

接している国は、南にあずさの国、東におかの国がある。

北には高い山があり山越えはほぼ不可能。

その山の向こうには東御とうみの国がある。

西は海で絶壁断崖、小さな入り江になった漁港が数カ所ある。

他国から軍船が来ても、漁港は小さく瀬も浅いので軍船の寄港はできない。

そして漁村から城までは難所の山越えもあり、守りやすく攻めにくい地形となっている。

海からの軍事的進行は難しい国だ。


 望月の国を攻めようと虎視眈々と狙っているのは、おかの国だ。

城主は早川家。

この城主は好戦的で近隣の小国を容赦せず蹂躙している。同盟を結んだ小国は属国となりはてていた。


 一方、あずさの国は好戦的ではない。ただし軍事・諜報は他国の追随を許さない国だ。

大軍がいるわけではなく地形を利用した戦術が優れ、また武勲の有名な武将が揃っている。

おかの国は、あずさの国に攻め入ろうとしては手痛いしっぺがえしを受け、今や梓の国に媚びを売っている。


 そのような情勢を鑑みて、菊姫は輿入れをするなら梓の国であろうと考えた・・

梓の国は大殿おおとの鬼籍きせきに入り数余年、若殿がまつり執り行いとりおこない、大殿に劣らない人物だと聞き及んでいる。

密偵を差し向けたが、ことごとくバレて、我が国に密偵の道中手形と滞在許可書を送って来て、密偵に貴国から授けよと言われる始末だ。恐れ入るしかない。


 「父上、輿入れこしいれの件、承りました。」

 「うむ、済まぬな・・・」

 「いえ、武家の娘として当然です。」


 「いや、武家ではなく娘として嫁にだす。」

 「え?!」

 「輿入れ先がいやなら、戻って来い。」

 「・・お父様・・」


 父の真剣で優しい眼差し、そして心配する顔を見て、おもわず俯くうつむく

滴が頬を伝わって落ちた。

いけない、気丈に振る舞わなくては・・

丹田に力を込め、感情を抑え、気持ちの揺らぎを押さえた。


 「いえ、かならずやお家の反映に尽力致します。」

 「・・・そうか・・無理はするな。」

 「はい。」


 そういうと父は、私を茶席に招いてきた。

何ヶ月ぶりだろう、父との茶会は・・・

そして他愛のない会話をしながら、ゆったりとした時を過ごした。

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