第697話 同じ手に、二度もかかるとは……

 コンテナの上に現れたワームホールを見て、カルルはニヤリと笑みを浮かべた。


「確かにスパイダーの力では、このコンテナは壊せない。だが、おまえらの九九式ならどうだ?」


 もちろん、九九式機動服ロボットスーツの力ならコンテナを壊せるが……


「まさか?」


 橋本晶は、ワームホールに刀の切っ先を向けた。


「今から、このワームホールから、出てこようとしているのは?」

「古淵さ。今から古淵の九九式が、ワームホールから出てくる。だが、カ・モ・ミールと森田芽依は戦闘不能。海斗は充電中で、キラ・ガルキナは姫と戦闘中。今戦える者は、橋本晶、おまえしかいない。しかし、戦えるのか? おまえは、古淵に恩義があるのだろう」

「ぐ」

「どうだ。橋本晶。いくらレムの接続者になったとは言え、恩義ある古淵にやいばを向けられるのか?」

「ぐぬぬ」

「それともいざとなったら、ミク本人が式神を出して自らを守ると考えているのか? あいにくだな、式神対策も考えてある」


 銀色の九九式が、ワームホールから出てきたのはその時。


 カルルが九九式に向かって叫ぶ。


「古淵! ミクはそのコンテナの中だ。壁をぶち破って連れ出せ!」

「了解」


 古淵の九九式がコンテナの方を向く。


でよ! 式神!」


 どこからかミクの声が響いた。


 直後、古淵の九九式の前にミクの式神アクロが出現。


 しかし、アクロは出現したが、その場からまったく動こうとしない。


 よく見ると、古淵の九九式は銀色のボディに無数の五芒星模様が描かれていた。


 式神の弱点、五芒星ドーマンセーマンか。


 式神はこれを見ると、しばらく動けなくなる。


 カルルの言っていた式神対策とはこれのようだ。


「ブースト!」


 古淵は、ブーストパンチをコンテナに叩き込んだ。


「これは!? しまった!」


 どうやら気がついたようだ。だが、もう遅い。

 

 次の瞬間、古淵の機体はバラバラに吹っ飛んだ。


 爆発したのではない。


 安全機構が働き、装着者保護のために強制パージが行われたのだ。


 装着者である古淵も、甲板上に投げ出される。


「まさか。同じ手に、二度もかかるとは……」

「古淵! いったい何が……?」


 古淵には何が起きたのか分かったようだが、カルルはまだ理解できていないらしい。


 甲板上で起きあがった古淵は、カルルの方を向いて言った。


「カルル・エステスさん。騙されましたね。コンテナ内に、ミクさんはいません」


 コンテナはカルルから見て、主砲の陰になる場所に置いた。だから、陰になった部分で蓋でも開いて、そこからミクが入り込んだとカルルは思いこんでいた。


 というか、そう思わせるように仕組んだのだけどね。


 だが、実際にはコンテナの蓋は、《海龍》に着いた時から一度も開いてなどいない。


「そもそも、あなたはコンテナ内にミクさんが入っていく姿を、確認しているのですか?」


 古淵の問いに、カルルは首を横にふる。


「あちゃあ! ちゃんと確認しているものと思った私のミスですね」

「では、ミクはどこに?」


 甲板上に投げ捨てられているブルーシートが跳ね上がり、中からミクが姿を現す。


「じゃーん! あたしは、ここだよーん!」

「何!? では、コンテナの中にいたのは……?」


 カルルがそう言ったとき、コンテナの蓋が開いた。


 中にいたのは……


「わははははは! 古淵とやら。同じ手に二度も掛かるとは進歩がないな!」


 そう。コンテナ内には、エラ・アレンスキーが隠れていたのだ。


「ファースト エラさん。返す言葉もありませんね。山頂基地で、あなたの高周波磁場にやられたので警戒はしていたのですが……」


 最終的に、古淵がワームホールから出てくる事は僕も予想していた。


 せっかく出てくるのだから、山頂基地でやったように、エラの高周波磁場にひっかけるという罠にかけてみようと思い、エラの隠れたコンテナを芽依ちゃんに運んでもらったのだ。


 しかし、古淵がそう簡単に同じ手に引っかかるとは思えない。


 もし、芽依ちゃんがコンテナを《水龍》から運ぶ様子を古淵本人が見ていれば、こっちの思惑を見破っていただろう。


 しかし、うっかり者のカルルなら、コンテナ内にミクが隠れたと勘違いしそうだ。


 そして期待通り勘違いしたカルルは、ワームホールから出てきたばかりの古淵に、コンテナ内にミクがいると報告してくれた。


 それをまんまと信じてしまった古淵は、再びエラの高周波磁場に捕まってしまったというわけだ。

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