第696話 まだ甘いぞ
ワームホールから出てきたスパイダーがハッチを開き、マルガリータ姫が顔を出した。
「カルル。遅くなって済まない。整備に手間取ってな」
手間取ったのは、カルルの仕業だとも知らずに……ある意味可哀想な人だな。
「それで、状況はどうなっておる?」
「は! 現状は……」
カルルが手短に説明する。
「それなら、ミーチャはもうここにいなくても良いのだな。では、
「お待ち下さい。ミーチャは今、ミクとの交換材料として取引中です」
「何を言うか! ミーチャは妾の弟じゃ! そのような取引に使うなど許さん!」
勝手に弟にされてもなあ。
「しかし、今ミーチャは人質でもあるので、ここから連れて行かれると……」
「ならぬ! 今すぐにでも、連れて行く」
緑のスパイダーは、司令塔にいるミーチャにマニュピレーターを伸ばした。
「させるかあ!」
その時、主砲の陰から飛び出してきたキラの分身体が、緑のスパイダーに体当たりする。
「おのれ。キラ・ガルキナ。邪魔をするな!」
「邪魔します!」
一方、主砲の陰では……
「キラ! 持ち場を離れてはだめよ」
「申し訳ありません、師匠。しかし、ミーチャを取られるわけには」
「もう、あたしの分身体は限界なのよ」
ミールの分身体が一斉に消滅したのはその時……
「チャンス! これで邪魔はなくなった。ミクはいただく」
司令塔の陰から、カルルの赤いスパイダーが駆け出して来た。
「うりゃあ! ブースト!」
同時に主砲の陰から駆け出してきた芽依ちゃんが、赤いスパイダーに殴りかかる。
「おっと!」
芽依ちゃんのパンチを、スパイダーは寸前で避けた。
「カルル・エステスさん。私の事をお忘れですか?」
「危ない危ない。森田芽依。まだおまえがいたか」
芽依ちゃんはショットガンを構える。
「だが、おまえ十分な充電をしていないだろう。しかもその貴重なエネルギーを、溶接に使ったな」
「死になさい! 消えなさい! くたばりなさい!」
カルルの問いに答えず、芽依ちゃんは
しかし、スパイダーの素早い動きを捕らえる事はできない。
「エネルギーが尽きる前に。俺を片づけようというのか? はたしてできるかな?」
スパイダーがネットを放つ。
芽依ちゃんは空中へ逃れてネットを避けた。
「ワイヤーガンセット! ファイヤー!」
ワイヤーガンが、スパイダーの足の一本に刺さる。
「ウインチ スタート」
よし! ワイヤーガンで固定すれば、如何に素早いスパイダーでも……いや待て! 確かスパイダーの足って、カタログによると……
「芽依ちゃん、よせ! 罠だ!」
僕の声が届いた時には、すでに手遅れ。
芽依ちゃんは、スパイダーに肉薄して殴り掛かるところだったのだ。
「うりゃあ! ブースト! え?」
絶対に避けられないはずの芽依ちゃんのブーストパンチは、空を切った。
そこにはスパイダー本体はなく、ワイヤーガンの刺さった足があるだけ。
カタログによるとスパイダーの足は、いざとなったら切り離す事ができるようになっていたのだ。
「スパイダーはどこ? きゃ!」
芽依ちゃんの機体に、スパイダーの放ったネットが覆い被さる。
芽依ちゃんは高周波カッターを抜いて脱出を計るが、カルルは次々とネットを被せていく。
「森田芽依。それだけ多くのネットを被っていては、すぐには脱出できまい」
「確かにすぐには動けません。でも、カルル・エステスさん。何かを忘れていませんか?」
「なに? は! しまった!」
カルルが慌てて上を見上げると、そこでは抜き身の日本刀を構えたスミレ色の九九式が、急降下してくるところだった。
「でやあああ!」
橋本晶が刀をふるい、スパイダーの残りの足を切断。
支えを失ったスパイダーの本体は、甲板上に落ちる。
そのまま海に、転げ落ちそうになるところを橋本晶の九九式が支えた。
スパイダーのハッチが開き、カルルが顔を出す。
「橋本晶。おまえの事を、忘れていたわけではなかったよ。一向に動かないので、まだ充電中かと思っていた」
「充電はとっくに終わっていました。ここ一番というタイミングを見計らって、出てきたのですよ」
「なるほど。いいタイミングだったな。しかし、まだ甘いぞ」
「なに?」
カルルは、スパイダーから飛び降りた。
「どっちにしても、スパイダーの力ではあのコンテナをどうこうする事はできない。だが、これならどうかな?」
カルルは、コンテナの方に視線を向ける。
その直後、コンテナの真上にワームホールが出現した。
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