第685話 いつから守りが手薄だと錯覚していた?
どうやら、イリーナは最初自分の方に注目を集めてから、《海龍》甲板上……ちょうど橋本晶の背後付近にワームホールを開き、奇襲を狙っていたらしい。
だが、甘い。橋本晶に死角などないのだ。
彼女の背後に立つという事は、デューク東郷の背後に立つのと同じぐらい危険なこと……
しかし、さっきはなんとか撃退できたが、今度は《水龍》が狙われている。
どうやら、ミーチャの見た光景が、レム神に伝わりそれを目印にレム神はワームホールを開いているようだ。
しかし……
「地下施設は、プシトロンパルスを
僕の疑問にジジイが答える。
「おそらく、時空穿孔機付近に中継機があるのじゃろう」
「中継機? そんな物は見あたらなかったぞ。それに中継機を運用するには交代要員が……」
「いや、タウリ族の作った中継機じゃ。おそらく、生体などには頼らない装置なのじゃろう」
なるほど……おっと! 今は、考えている場合ではない。《水龍》に開いたワームホールから、帝国兵がワラワラと出てきた。
イリーナはメガホンを《水龍》に向ける。
「《水龍》を占領しなさい。今なら、守りは手薄なはずよ」
イリーナは僕の方をふり向き、邪悪な笑みを浮かべた。
「カイト・キタムラ。《水龍》は頂くわよ。レム様を
ワームホールから出てきた八人の兵士たちは、甲板上に集合すると司令塔へ向かって駆けだした。
「イリーナ。聞いていいか?」
「何かしら?」
先頭の兵士が《水龍》司令塔を登り、ハッチを開いた。
「いつから《水龍》の防御が、手薄だと錯覚していた?」
「はあ? 錯覚? 実際手薄でしょ。今、あの船にいるのは、帝国を裏切った薬師のカミラ・マイスキーだけ。艦長の
一人の兵士が《水龍》艦内へ侵入。
「なるほど。ミーチャを通じて見ていたか?」
帝国兵は続々と《水龍》へ侵入して行く。
「ええ。そのまま、ヘリコプターは南ベイス島へ向かうそうね」
「アーニャ・マレンコフの操縦するヘリはそうだ。だが、章麗華のヘリは一度 《水龍》に立ち寄ってから、再び北ベイス島へ戻り、そこから南ベイス島へ向かう事になっている」
帝国兵は全員 《水龍》に入り切った。
「は? 何のために?」
「先にある人物を《水龍》に降ろすためさ」
「ある人物?」
帝国兵が悲鳴を上げて《水龍》のハッチから逃げ出して来たのはその時。
「どわわわわ!」「た……助けてくれえ!」
一度は《水龍》内部に侵入した兵士たちは、我先にとハッチから逃げ出してきた。
ただし、八人全員ではない。出てこられたのは六人だけ。残り二人がどうなったか?
帝国兵が逃げ出した後、ハッチから出てきたのは……
「わはははは! この私、エラ・アレンスキーの守る船に忍び込むとは、つくづく運の悪い奴らだな」
本当に運が悪い。
まあ、そうでもなかったら《水龍》のハッチも《海龍》同様ロックしておくけどね。
司令塔の上で仁王立ちになったエラは、矢継ぎ早にプラズマボールを放ち、帝国兵を次々と焼き払っていく。
しばしの間、唖然としてその様子を見ていたイリーナが、不意に僕の方を振り向いた。
「ファースト・エラだと!? カイト・キタムラ! おまえ、まさか我々の襲撃を予想して、先にあいつを帰していたのか?」
「ははははは! その通りだ! おまえたちの目論見などお見通し」
というのは嘘。
エラを先に帰したのは、倫理上の問題からだ。
だってねえ、他のエラより社会適合できるようになったとは言え、ファースト・エラが重度のショタコンである事に変わりないのだから、少年兵たちと一緒のヘリに乗せられないでしょ。
だからレイホーのヘリには、エラ一人を乗せて《水龍》に行ってもらった後、北ベイス島に戻り、アーニャ・マレンコフのヘリに乗せ切れなかった少年兵たちを乗せたわけだ。
ちなみにレイホーのヘリが《水龍》でエラを降ろす時、ミーチャは《海龍》艦内で大人しくさせておくように
エラの姿を見たら、ミーチャが
そのために、レム神は《水龍》の守りが手薄だと思い違いをしてしまったようだな。
「で……ではカイト・キタムラ。我々がワームホールを使って奇襲をかけてくる事も予想していて、その対策も立てていたのだな?」
「ははははは! 当然だ」
ごめん。それ嘘。ジジイに言われるまで気が付かなかった。
正直どうやって防げばいいんだ?
こんな、ドメル艦隊の瞬間物質輸送機攻撃みたいな戦法。
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