第684話 ロシアンルーレット
ミーチャの眼前三メートル付近の空中に、直径二メートルほどの光る穴が現れた。
その光る穴の中から、筒状の黒い物体がせり出してくる。
物体の直径は光る穴とほぼ同じ。
あれは?
「
そう叫んだジジイの方をふり向いた。
「時空管? なんだ? それ」
「エキゾチック物質の管じゃ。普通の物質がワームホールを抜けると、
「ようするに、あの中から敵が出てくるという事だな」
「そうじゃ」
ならば出てくる前に……あかん!
ショットガンを構える前に、ワームホールから六人の人間が飛び出して来た。
六人とも皮鎧と兜を装着し、
いかん!
「ロンロン! 緊急事態! 《海龍》のハッチを閉めろ」
人工知能だけあって、ロンロンに迷いはなかった。
今にも《海龍》内に侵入しようとした兵士の眼前で、司令塔のハッチが閉じる。
二人の兵士がハッチを引っ張るが、すでにロックが掛かっているのか開かない。
艦内に侵入されるという最悪の事態は防げたが……
「少年を確保」
二人の帝国兵は、ミーチャを両脇から拘束する。
「やめて! 放して!」
「ええい! 大人しくしろ! 痛い目にあわせるぞ」
ミーチャにそんな事をしたら、僕がおまえを痛い目にあわせるぞ。
「よしなさい! この少年は、マルガリータ姫のお気に入りだ。乱暴に扱うな」
「ちっ!」
兵士は舌打ちすると、ミーチャを縛り上げる。
隊長らしき兵士が兜を外した。
女性兵士……確か、カルルの部下でイリーナとかいう女だったな。
イリーナは、空中にいる僕の方を向く。
「カイト・キタムラ。これが見えるかしら?」
「よく見えている。ミーチャを人質にしたつもりか?」
「その通り」
僕は拳銃を抜いて構えた。
「僕の銃の腕を知らないのか? ミーチャに当てることなく、おまえたち全員を射殺する事も可能だぞ」
「まあ、話は最後まで聞きなさい」
イリーナは部下の方をふり向く。
「あれを」
「は」
部下がリュックから円盤状の物体を取り出す。
フリスビーぐらいの大きさだが、あれは?
「これは対人地雷よ」
「そんな物を使ったら、おまえたちも……」
「分かっているわ。言っておくけど、我々はこれで自殺したいとは思ってはいない。この少年を殺したいとも思っていない。だが、この地雷は我々六人のうち誰かの心停止を感知すると、爆発する仕組みよ」
なに?
「分かるかしら? カイト・キタムラ。我々六人の誰かの心臓にチップが埋め込まれているのよ。おまえが我々を、不用意に撃てばどうなると思う?」
「ロシアンルーレットという事か」
「上手い例えね。その通り。誰の心臓に、チップが埋め込まれているのかおまえには分からない。チップを埋め込まれた者を撃てば、我々諸共ミーチャも死ぬ」
くそう!
「さあ、カイト・キタムラ。ロシアンルーレットをやってみる気はあるかしら?」
そんな気ない。
「要求はなんだ?」
まあ聞くまでもないが……
「話が早いわね。では、ミク・アヤノコージを引き渡してもらえるかしら」
「断ると言ったらどうする?」
「ふふふ。おまえがその要求を飲むとは、最初から期待していなかったわ」
「ならばどうする?」
「実力で拉致するまでよ」
「たった六人でか? こっちには、九九式機動服が三機いるのだぞ」
「もちろん、たった六人で勝てるなんて思っていないわ」
「では、どうするつもりだ?」
「私たち六人は、橋頭堡を確保するための要員にすぎない。実行部隊は、別にいるのよ」
どういう事だ?
「でゃあああ!」
突然の橋本晶の叫びに振り向くと、《海龍》の甲板上に別のワームホールが開いていた
すでに雷神丸を手にしている橋本晶の足下には、切り捨てられた帝国軍兵士の死骸が数体転がっている。
「どりゃあ!」
橋本晶がワームホールの前で雷神丸をふると、今にも出てこようとしていた帝国軍兵士の首が切り落とされた。
少し遅れて芽依ちゃんがショットガンを構えるが、引き金を引く前にワームホールは消滅する。
「あらあら。もう、やられちゃったの? でもね、カイト・キタムラ。ミーチャの視線の先には、いくらでもワームホールを開くことができるのよ」
なんだと?
「さあ、ミーチャ君。いい子だから、あっちを見てくれない」
「やだあ! 痛い! やめて!」
イリーナは嫌がるミーチャの顔を掴み、無理矢理別方向に向けさせた。
その視線の先にあるのは……《水龍》!
直後、《水龍》の甲板上に別のワームホールが現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます