第644話 多脚警察車両スパイダー
芽依ちゃんが傾斜路から出て行った後、僕はジジイを
いや、さっきの続きをするつもりはない。
ジジイから確認しておかなければならない事があったことを思い出したのだ。
問題は、ジジイがそれに対してどんな見返りを要求するかだが……
しかし、ジジイは僕を見て怯えているな。これなら、さっきの事を許す代わりに喋らせる事ができそうだな。
僕は一歩だけジジイの方へ歩み寄った。
「ひい! おまえ分かっているのか? わしを殺したりしたら……」
「ジジイ。今回の件は大目に見るから、質問に答えろ」
「なんじゃ?」
「さっき、エレベーターシャフトで中継機を破壊した。その直後に、レムのクローン人間たちが一斉に意識を失って倒れた。彼らはレムとの接続が切れたようだが、地下施設から出しても大丈夫か?」
ジジイは、しばし考え込んでから答える。
「大丈夫か? とは、地下施設から出したらレム神と再接続してしまわないか? という事か?」
「そうだ」
「それなら、すぐには出さない方が良いぞ。脳間通信機能は、一度プシトロンパルスが途絶えると、接続先を探してプシトロンパルスを発信し続けるのじゃ」
携帯電話みたいだな。
「今すぐクローンたちを地下施設の外へ出したら、レム神と再接続してしまうじゃろう」
「再接続を防ぐには、どうすればいい?」
「通常は四~五時間ぐらいで……長くても十時間ぐらいで、脳間通信機能は停止する。だからプシトロンパルスの届かない地下施設の中で六時間……安全を考えて十時間ぐらい経過してからなら再接続はない」
レイホーが気づいてくれなかったら、危ないところだったな。
「質問は以上だ。次に同じ事をやったら、今度こそ去勢するからな」
芽依ちゃんが戻ってきたのはその時だった。
「北村さん。中継機設置完了です。山頂基地との通信は完全に回復しました。それとアーニャさんが大至急お話したいと言っております」
芽依ちゃん……ずいぶんと早口でまくし立てているけど……こりゃあ、さっきの話を蒸し返されないようにしたいのだな。
そんな芽依ちゃんの横にミールがすっと歩みよる。
「メイさん。後で、ゆっくりとお話しましょうね」
「……」
無言だが、芽依ちゃんが冷や汗を流している雰囲気が伝わってきた。
山頂基地を呼び出すと、アーニャが出る。
『北村君。通信が回復してよかったわ』
「ええ。それで、アーニャさん。大至急話したい事とは?」
『え? 私、大至急なんて言っていないけど』
やっぱり芽依ちゃんの嘘か。
『まあ、いいわ。カルル・エステスの使っている多脚戦闘車両のデータが見つかったので、そっちへ送るわね』
そうだった。それを問い合わせている途中で通信が切れたんだった。
「ちなみに、どこの国の兵器でした?」
『兵器じゃないわ』
「え? 兵器じゃない?」
『あれは警察用の車両よ』
「警察用? じゃあ、あれはパトカーなのですか?」
『そう。日米共同開発の『スパイダー』と呼ばれる多脚警察車両。犯罪者の車両を、無傷で捕獲することを目的に開発されたものよ』
「じゃあ、戦闘力は?」
『装甲も武装もあまり強力ではないわ。ただ、こいつはスピードが速い上に、車両捕獲用の大型ネットランチャーを装備しているの』
「という事は、ミクをテントウムシごと捕獲するつもりで用意してきた?」
『おそらく。それと、このネットランチャーは厄介よ。こいつの使っている網はパラアラミド繊維でできていて、ロボットスーツでも動きを封じられてしまうわ』
それは厄介だな。
『万が一ネットを被せられたら、無闇に動いちゃだめよ。絡まって余計動けなくなるから』
「ではどうすれば?」
『今、《海龍》のプリンターで対ネットランチャー用の装備を用意しているわ。もうすぐ山頂基地に届くから、運搬ロボが戻ってきたらそっちへ送るわ』
「助かります。それで、それはどんな装備ですか?」
『パラアラミド繊維切断用の高周波カッターよ。ネットを被せられたときは、そのカッターで切断して抜け出してね。もっとも、橋本さんはすでに万能剣を持っているから必要ないけど、北村君と森田さんは必要でしょ』
確かに……
通信を切ってから三十分後、装備を乗せた運搬ロボが到着した。
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