第637話 エレベーターシャフト強襲

 ミールが作った僕の分身体は、ミール本人の分身体を抱き上げると小部屋から出て行った。

 

 それから、ほどなくして……


「カイトさん」


 分身体を操作していたミールが口を開く。


「動物達が、分身体を追いかけています」


 どうやら、うまく引っかかってくれたようだな。


「よし。そのまま分身体を、第四層への傾斜路へ向かわせて」

「はーい」


 僕の目的は、山頂基地との通信回復……と、敵に思わせる事ができれば、この作戦は半ば成功。


 本当の目的は、エレベーターシャフト強襲だ。


 ゴンドラ内部に送り込んであるドローン二号からの映像を出してみた。


 六人の交代要員は、食事を取ったり、仮眠したり、本を読んだりと完全にくつろいでいる。


 この状態から、どの程度異変に即応できるだろうか? と思って、先ほどゴンドラの屋根にいるドローン三号に大きな物音を立てさせてみた。


 結果、クローン達はほとんど音に反応なし。


 二人だけが「ん?」という顔で上を見上げただけ。


 レム神が接続していると言っても、元々ろくに訓練もしていない人間では、こういう時に即応できないようだ。 


 ていうか、天井から大きな音がしても無関心って、一般人以下の危機意識だな。


 まあ、その方が僕は助かるが……


 小部屋の前に待機していたドローン一号が、警報を鳴らしたのはその時……


 小部屋の前に、熱源体が接近中。


 映像を出すと、一頭のヒツジだ。


「これも、レム神に接続されている動物でしょうか?」


 タブレットで映像を見ていたミールが呟くように言う。


「おそらくそうだろう。ただのヒツジがこんな草も生えていない通路を、一頭だけで彷徨うろついているというのはおかしい。レム神に操られて、偵察していると考えた方がいいだろうね」

「第四層への傾斜路に向かわせた分身体も、五頭の動物に追いかけられていますが、レム神はあたしの能力を知っていますからね」

「ミールの能力は知っているだろうけど、分身体を見破るにはデジカメが必要だ。動物の目では見破れない。でも、今追いかけているロボットスーツが、実はミールの分身体ではないかとは疑っているだろうな」


 とにかく、僕達が小部屋から出るのは、ヒツジが通り過ぎてからだな。


 その前に、エレベーターシャフトまでのコースをマップに表示。


 ここからエレベーターシャフトまでのコースは三つある。


 その中の一つは、広場を通るのでアウト。広場にはヤギとヒツジがいっぱいいる。


 もう一つは最短コースだが、今通り過ぎたヒツジが向かっている方向なので使えない。


 最後に残ったコースは、四つの曲がり角がある道程四百メートルのコース。


 ここしかないな。


 程なくして、ヒツジは曲がり角を曲がって姿を消した。


「ミール。出るよ」

「はーい」


 通路へ出て周囲を見回す。


 動物達はいない。


 足下に目を向ける。


 光学迷彩で姿を隠していたドローン一号を拾い上げた。


 そのまま僕とミールは、エレベーターシャフトに向かって走る。


 曲がり角にくる度に、ドローンを先行させ、動物がいないか確認しながら進んでいった。


 最後の曲がり角へ来たとき……


「ストップ。ヤギがいる」

「残念ですね。後少しだと言うのに」


 エレベーターのドアは半開きになっていた。


 その半開きしたドアの前に、二頭のヤギが門番のように立っている。


 実際に門番なのだろう。あのヤギに姿を見られたら、それはレム神に伝わり、レム神からの命令がゴンドラ内部の交代要員に行ってしまう。


 交代要員が対物アンチマテリアルライフルを持ってゴンドラの屋根に上がってきたらアウトだ。


「カイトさん。どうします?」

「レム神が対応する前に、強襲するしかないな。ミール。分身体を作ってくれ」

「戦闘モードにするのですね?」

「そう。今からあのヤギの注意を反らす。その瞬間に内部へ駆け込むんだ。僕は中継機を破壊するから、ゴンドラ内部にいる交代要員が上がってこないように、ミールはハッチを押さえていてくれ」

「はーい。でも、注意を反らすってどうやるのです?」

「ドローン三号を使う」


 僕はミールが分身体を作るのを待ってから、ゴンドラの屋根の上で待機していたドローン三号を操作した。


 ドローン三号から見ると、二頭のヤギは尻を向けている。


 その尻に向かってドローンを体当たりさせた。


 ヤギは驚いてこっちを振り向くが、光学迷彩で隠れているドローンは見つけられない。


 さらにもう一頭の尻に体当たり。


 今だ! 


 ヤギは二頭ともこっちを見ていない。


 曲がり角から、エレベーターシャフトまで五十メートル。僕が生身で駆けたら七秒かかる距離だが、ロボットスーツを装着した僕には一秒で十分。


 戦闘モードになったミールの分身体を抱えて、僕はエレベーターシャフトに駆け込んだ。


「ミール! ハッチを」

「はーい」


 ミールはハッチを閉じて押さえつけた。


 その間に僕は、ベッドに横たわっているクローンに駆け寄る。


 クローンの頭からケーブルで繋がっている黒い立方体がある。


 これがBMI本体か。


「ブースト!」


 三つのBMIを破壊した。


「ミール! 引き上げだ!」

「はー……きゃううう!」


 突然、ミールの分身体が消滅した。


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