第636話 見つけたからには排除あるのみ
レイラ・ソコロフから提供された三次元CADによると、地下施設のエレベーターシャフトは直径十・五メートルの縦坑。
その中を、直径十メートル高さ三メートルの円盤状ゴンドラが行き来していたようだが、地球人がこの惑星を訪れた時から、ゴンドラはずっとこの位置で止まっていたらしい。
なぜ下まで降りないで、こんなところで静止しているのか分からんが……今そのゴンドラの屋根の上には三つのベッドがあり、BMIに繋がれたクローンたちが横になっていた。
ゴンドラの屋根には開けっ放しのハッチがあり、そこからドローンをゴンドラ内部に入れると、六人の交代要員が見つかる。
六人では二十四時間交代は無理では……と思ったら床にもハッチが開いていて、そこからナワ梯子が垂れ下がっていた。
これを使って、第五層と行き来しているのか。
とにかく、ここに中継機をあるのを見つけたからには排除あるのみ。
とは言っても簡単ではないな。確かに第五層の中継機と比較して防備は手薄だが、無防備ではない。
ゴンドラ内にいる六人の足下には、自動小銃や
迂闊には近づけない。
「でやあああぁぁぁ!」
かけ声とともに、橋本晶が愛刀雷神丸を振り下ろす。
その刀身は、溶接していた扉の溶接部分を正確に切り裂いた。
「いくぞ!」
開いた扉から傾斜路内に入ろうとするヤギやヒツジを押し返しながら、僕はミールを抱き抱えて傾斜路から第五層へ押し出る。
「みんな、後は頼んだぞ」
僕たちが空中へ逃れると、芽依ちゃんと橋本晶が扉を閉じた。
今頃、内側から溶接していることだろう。
後ろ髪引かれる思いを残しつつ、僕は空中から中央通路を進んでいった。
「カイトさん。動物が追ってきます」
ミールに言われて振り向くと、五頭のヤギが僕の後から追いかけて来ていた。
もちろん、ヤギから攻撃を受けるわけではないが、ヤギの目を通して僕の動きはレム神に見張られている。
このままエレベーターシャフトへ向かえば、こちらの目的が中継機破壊だと悟られてしまい、ゴンドラ内部で待機している交代要員が
そうなると厄介だ。なんとか悟られないようにしないと……
第五層の中を飛び回り、ヤギの追跡を振り切った僕は適当な小部屋に隠れた。
この中でミールに、ロボットスーツを装着した僕の分身体を作ってもらい、敵を攪乱するのが今回の目的。
「それじゃあミール。頼むよ」
「はーい」
床に座り込んだ僕に、ミールは木札を手渡す。
「ミール、寝そべっていなくてもいいのかい? ロボットスーツのままだと、バックパックが邪魔で仰向けになれないのだが」
「じっと座っているだけでも大丈夫ですよ。憑代を手に持っていただければ」
「そうか」
「あ! そうだ。ヘルメットを取っていただけますか」
「え? なんで」
「素顔を晒していた方が、レム神も本物のカイトさんだと思うでしょう」
そうかな?
まあ、分身体は囮に使うのだから、ヘルメットがあってもなくてもどうでもいいのだが……
ミールに言われるがままに、僕はヘルメットに手をかけた。
ヘルメットを外す途中、一瞬視界が遮られたその時……
「カイトさん。素直過ぎですよ。こういう話は、ウラがあると考えないと……」
え? ウラ? うわ!
ヘルメットが持ち上がって視界が開けたとき、ミールの顔が僕の眼前に迫っていた。
むにゅ!
ミールの唇が僕の唇と重なる。
ウラって、こういうことか。
………
……
…
ミールは僕から唇を離した。
「ここしばらく、二人切りになれるチャンスが無かったですからね。こういう時でないと」
「そ……そうだね」
ミールは周囲を見回した。
「ミニPちゃんはいませんよね」
「いや、今回は連れてこなかったし、連絡は通信機で取れるし……」
「でも、メイさんなら隙を見て、カイトさんの背中にミニPちゃんを張り付けるぐらいやりそうなので」
「そんな事は……」
ないとは言えんな。
「あたし、心配なのです。カイトさんの心がメイさんに移ってしまわないかと……」
「そんな事は……ないぞ。ミール、僕は君が好きだ」
「本当ですね? カイトさん」
「ああ」
「では、分身体を作る前にもう一度」
ミールは目を閉じて、唇をつきだしてきた。
これは言えないな。
オリジナル体の僕と芽依ちゃんが夫婦だったなんて……コピーの僕と関係ないと言ったって、ミールには面白くないだろう。
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